『闇金ウシジマくん』の世界はもはや日常風景に? “貧困化する日本”のリアリティ

 今考えると『闇金ウシジマくん』が描いていた不安や恐怖の背景には、一億総中流と言われた日本が没落し、昔だったら平凡に生きられた人々が没落していくという“貧困への不安”があったのだろう。当初は、登場する債務者が露悪的に描かれ、「貧困は自業自得」という側面が強かったが、話数が進むにつれて日雇い派遣やブラック企業の問題なども描かれるようになり、どんどん他人事ではなくなっていった。

 それと同時に、『闇金ウシジマくん』の中で描かれている世界が、裏社会だけの出来事ではなく、どこの町にもあるパチンコ店のように、すでに私達の日常の隣に当たり前に存在するものだと感じるようになってきた。今では貧困のニュースは当たり前のものとなっており、貧困ポルノ(貧困をエンターテイメント化したもの)と呼ばれる過激なものまで登場している。

 そのこともあってかドラマ版『闇金ウシジマくん』には、物語として重苦しい恐怖こそ感じるが、はじめて漫画版を読んだ時のような得体のしれない不安は、もはや感じない。それはおそらく、貧困が日常化した世界を、私たちがいつの間にか受け入れてしまったからだろう。だから、『闇金ウシジマくん』の世界が当たり前のものとなってしまった今の日本の惨状こそが、一番恐ろしく感じる。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

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