『ファインディング・ドリー』上川隆也が語る、吹替の難しさと作品の凄み 「大人も勇気付けられる」

『ファインディング・ドリー』上川隆也インタビュー

「根幹にあるストーリーが実に巧みに作られている」

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ーー『ファインディング・ニモ』もそうですが、この作品が多くの人に愛される理由については、どのように考えていますか?

上川:すべてのピクサー作品に言えることなんですけど、よくこんな話を思いつくなと。おもちゃの人形が動き始めて冒険をしたり、人を脅かすモンスターたちに大学があったり、そういった“着想の妙”。『ファインディング・ニモ』も、魚たちという限定されたキャラクターだからこそ、僕らが思ってもいない物語の自由度が得られるんだと思います。どこか可笑しみや可愛らしさが主軸にあるように思わせておきながら、実は大人が観てもしっかりと物語の中に没入できて、感動できて、何か考えさせられるようなことまでが織り込まれている。根幹にあるストーリーが実に巧みに作られているんです。画作りも当然妥協など一切していなくて、繰り返しの視聴に耐えうるように作り上げられているピクサー作品には、毎回感心させられるばかりです。表面上の間口の広さから入っていくと、実は奥が非常に深い。それが愛され続ける理由だと思います。

ーー今回の『ファインディング・ドリー』は映像もまた進化していますよね。

上川:そのせいもあると思うんですけど、観るたびに違ったところに目がいくんです。例えば、ちょっと引きの画になった時に、画面の上のほうに見えている水面のうねりや、そこから差し込む光、海藻のたゆたう様などが、ものすごく作り込まれているなと思うんです。あるいは、ストーリーが終わっても席を立たずに、エンディングまで是非ご覧いただきたいんですけど、ものすごい量の魚が出てくる。よく考えるとこれ、一匹一匹リアルな魚を取材して、生態を確認して、行動もしっかり再現して、その上でそれぞれキャラクターとしてデザインされている。非常に手間暇をかけて作り込まれていることが透けて見える、その情報量に圧倒させられてしまうんですよ。そんな風にちょっとしたことに気づいていく楽しみが、作品の中にふんだんに散りばめられているんです。『ファインディング・ドリー』と同時上映の短編『ひな鳥の冒険』もとんでもない映像で、感嘆するばかりでした。今後どこまでいくんだろう(笑)。

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ーー確かに注目すべきポイントがいくつもある作品ですね。

上川:監督たちも大きなメッセージとして、作中に込められていると思うんですけど、『ファインディング・ドリー』のメインキャラクターたちは、みんなどこかピースが欠けているんです。誰もが何かしらコンプレックスやハンディキャップを持っている。『ファインディング・ドリー』は、そんな彼らが直面する困難に対してどう向かっていくのかを描いている作品でもあるんです。だから子どもたちはもちろん、きっと我々大人も勇気付けられる。僕は映画ってやっぱり、観終わって映画館を後にする時に、映画館に入る時とはほんの少し違う自分にさせてほしいと思うんです。『ファインディング・ドリー』は、そうした何かをちゃんともたらしてくれる作品だと思います。

(取材・文=宮川翔)

■公開情報
『ファインディング・ドリー』
全国公開中
監督:アンドリュー・スタントン
共同監督:アンガス・マクレーン
製作総指揮:ジョン・ラセター
日本語版声優:木梨憲武(マーリン役)、室井滋(ドリー役)、上川隆也(ハンク役)、中村アン(デスティニー役)
配給:ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン
(c)2016 Disney/Pixar. All Rights Reserved.
公式サイト:http://www.disney.co.jp/movie/dory

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