“不倫”と“殺人事件”に潜むハリウッド的娯楽性ーー『パーフェクト・ルーム』が受け継ぐサスペンスの系譜
ハイクラスな5人の妻帯者が結託し、都会の真ん中にそびえる高級な高層マンションの快適なひと部屋を共有する。カードの明細にホテル代の請求記録が残ることもなく、リーズナブルで安全に浮気を楽しめる「完璧な」不倫部屋だ。ある日、その部屋のベッドに女性の死体が横たわっているのを、彼らの一人が発見する。5人の男は犯行現場となってしまった部屋に集まるが、誰も事件の経緯を知らないという。だが、部屋の鍵を持っているのは彼らだけのはずなのだ。5人は疑心暗鬼のなか、互いを問い詰め合いながら真実に迫ろうとする。死体の女は誰なのか? 彼女を殺したのは誰なのか? そして、妻たちに浮気がバレてしまうのか? この緊迫感みなぎるサスペンスを描くのが本作、『パーフェクト・ルーム』だ。
本作は「ベルギー国民の10人に1人が観た」というほど大ヒットしたベルギー映画『ロフト.』のリメイク作である。このヒットを受けて、オランダでは『LOFT -完全なる嘘-』として再映画化され、またさらにアメリカで『パーフェクト・ルーム』として、短期間のうちに再々映画化された。それはこの企画に、もともと広く観客を惹きつけるハリウッド風のエンターテインメントとしての魅力があったということだろう。スピード感のある編集やカメラワークなども、あくまでストーリーの展開や扇情的な描写に奉仕する、理解しやすい娯楽的な演出となっており、芸術的なヨーロッパ映画のように観客を逐一立ち止まらせるようなことをせず、自然に物語に没頭させる効果を生んでいる。
それに加えて、やはり「不倫」という、一般的な市民が巻き込まれ得る、比較的身近なスリルを題材に選んでいるという点が、ヒットの理由として大きいはずだ。本作は、限られた殺人の容疑者のなかから真犯人を探しながら、ストーリーが二転三転していくという意味において、むしろ現在では珍しいくらい古典的なタイプのミステリー作品だといってよいだろう。だが、そこに不倫のための紳士協定という設定を持ち込むことで、より幅広く興味を喚起させ、多くの観客に作品をアピールすることに成功しているといえる。
そして、この不倫劇を通し描かれるのが、オブラートに包まない男女の欲望や本音である。とくに、妻を持つ5人の男たちの性への観念や不道徳な行為は、それが倫理をはずれた獣のような姿であるからこそ、ファミリー映画にありがちな善き夫像とは真逆の、個人としての人間臭いリアリティを発揮する。妻を裏切り家庭が崩壊するリスクを犯してまでどうしても浮気をしないではいられない男たちの情けない狂態を覗き込むというのは、日本人が週刊誌やワイドショーで芸能人の不倫問題に没頭するのと同様に、悪趣味ではあるが娯楽要素は高いだろう。エキゾチックな肉食系プレイボーイを演じるカール・アーバン(『スター・トレック』シリーズ)をはじめ、母性本能をくすぐる柔和なナイスガイを演じるジェームズ・マースデン(『魔法にかけられて』)、表面的には真面目な、眼鏡のムッツリ紳士を演じるウェントワース・ミラー(『プリズン・ブレイク』)など、フェロモンを常時周囲に散布しているようなセクシーな男たちがそろって性愛のもつれに右往左往している姿は、ある意味壮観だといえる。リメイク独自の魅力はこのキャスティングの部分が大きいだろう。