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松江哲明の“いま語りたい”一本 第5回

松江哲明の『日本で一番悪い奴ら』評:綾野剛は“渋い映画”でこそ一番輝くタイプの俳優

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すごく危険な香りがするところが魅力

 白石和彌監督の『日本で一番悪い奴ら』は、まず企画そのものがすごく良いと感じて、プレスの監督インタビューを読んだところ、「『凶悪』(2013年)が公開された後に、ある人から、もっと『グッドフェローズ』とか『カジノ』みたいなアッパーな映画をやった方がいいですよって言われたんです」って書いてありました。なるほどなぁって感心していたのですが、その記事を書いたライターから「あれは松江さんから言われたそうですよ」って教えられて。完全にど忘れしていたのですが、どうやら一緒にトークショーをした際に、僕はそう言ったらしいです。白石監督がこうして形にしてくれたのはすごく嬉しいし、なんでも言っておくものだなって思いました(笑)。

 さて、白石監督の作品は『凶悪』にしても『日本で一番悪い奴ら』にしても、すごく危険な香りがするところが魅力のひとつで、その“ヤバい企画”に対して俳優陣が真っ向からぶつかっているのが素晴らしいです。『凶悪』は、山田孝之くんの振り切れた演技に、ピエール瀧さんやリリー・フランキーさんが乗っていくかたちで、すごく心惹かれる映画になっていました。日本映画において、こういう犯罪モノは待望だったといえます。

 近年は韓国映画で質の高い犯罪モノが作られていて、たとえばポン・ジュノの『殺人の追憶』(2003年)やナ・ホンジンの『チェイサー』(2008年)といった傑作がありました。映画ファンの間でも、「最近は韓国映画の方が優れた犯罪モノを作っている」との意見がありますが、その裏には、かつては日本映画が得意としていたジャンルだったのが、いまや韓国に取って代わられてしまったとの認識があると思います。韓国では、若手俳優やアイドルがイメージを一新して、実力派俳優としてのステータスを得るために際どい役柄に挑戦する流れがありますが、日本の場合はタレントのイメージを保つために、ごく普通の役柄しか演じられないことも少なくありません。このCMに出演しているから、こういう役柄はできないって、制約があったりするわけです。長らくそういう流れがあったこともあって、『凶悪』が出てきたときはみんな「待ってました!」って感じたんです。

説教くさくないから、教訓が効いてくる

 『日本で一番悪い奴ら』でも、綾野剛さんら俳優陣はみんな、とても弾けた演技をしています。登場人物の多くは悪者ばかりなんですけれど、誰も自分たちの行動を後悔していないのが素晴らしいですね。だから「絶対にこんな奴になりたくねえ」「こんな奴に近づきたくねえ」って思うものの、同時に魅力も感じてしまう。悪者なのに感情移入してしまうんです。そのため、物語の中に教訓はあるものの、まったく説教くさくなくて、その生き生きとした楽しそうな演技に引き込まれていきます。

 とくに綾野剛さんは最高でした。彼は脇に回ったときも魅力的でいいけど、主役を張るときは、ちゃんと作品を背負う人なんだと思いました。「この映画を引っ張るぜ」みたいな気概を感じます。綾野剛はやっぱり映画でこそーーそれも単館系みたいな渋い作品が一番輝くタイプの俳優なんじゃないかな。自分がどんな姿勢で役に臨めば、映画をより良いものにできるかをすごく考えている感じで、本当に映画が好きなことが伝わりました。

 たとえば、覚せい剤を打つシーン。打ってしまうとこんな風になってしまうという描写はあるけれど、「だからやってはいけません」と訴える感じではない。やっぱり、映画の中で覚せい剤を打つのなら、ものすごく気持ち良さそうにやらなければいけないんですよ。「シャブセックスって、想像を絶するものなんだ」って、観ているひとに思わせなければいけない。でも一方で、人間はそれほどの快楽を味わって平気でいられるわけがないから、その後にどうやって落ちていくのか、そのリスクもしっかりと描いていく。それが大事なことで、映画としての誠実な表現だと思います。テレビの放送で麻薬のニュースを見たり、「ダメ。ゼッタイ。」みたいな広告を読んだだけだと、逆に興味をそそられるひとも少なくないはずだし、抑止力は弱いだろうなと思います。「法律で決まっているから」とか「子供に夢を与える人には責任があるから」みたいな、第三者の説教ってあまり説得力がないんですよ。

 でも、『日本で一番悪い奴ら』を観ると「シャブは絶対に手を出してはいけないな」って、身に沁みて思います。ものすごく気持ち良さそうにやっているし、だからこそ、どれだけ怖いものかもわかる。彼らに感情移入して同情もすればこそ、その過ちが生きた教訓として効いてくるわけです。映画において正義や悪を描くのであれば、こうあるべきだなと思いましたね。昨今は、すごく説教くさい世の中だからこそ、観ていて気持ちの良い映画でした。

      

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