清水崇が語る、4DX専用ホラーに挑戦した理由 「心理的な面でエフェクトを使えば、全く違う映画体験ができる」

清水崇インタビュー

 『呪怨』『ラビット・ホラー3D』の清水崇が監督を務める4DX専用ホラー『雨女』が5月4日に公開された。『TOKYO TRIBE』でヒロインを演じた清野菜名が主演を務める本作は、雨の日の夜に、必ず同じ悪夢を見る理佳(清野菜名)が“雨女”の恐怖に魅入られ、翻弄されていく姿を描く。ジャパニーズホラーの最盛期を築いた清水は、なぜ体感型の映画上映システム“4DX”の技術をホラー映画に取り込んだのか。制作に臨んだ背景やその舞台裏、技術とホラーに対する考え方についてまで、じっくりと語ってもらった。

日本的なトーンを4DXで表現

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ーーもともと4DXには関心があったのでしょうか?

清水崇(以下、清水):いえ、まったく関心はなかったですね。はじめにお話をいただいたときは、まだ4DXを観たことがなかったし。僕自身がアナログな人間なので、4DXや3Dといった新機軸のシステムに不慣れなところがあって……『ラビット・ホラー3D』などの3D映画を撮ったときも苦労しました。正直に言うと最初はあまり乗り気ではなかったのですが、色んな4DX作品を観ていくうちに徐々に興味が湧いてきました。

ーーどんな部分で興味をそそられたのですか?

清水:ハリウッドの派手な作品を4DXにすることが多い中、日本ならではのジトッとしたトーンを表現するのは面白いのかなと思いました。今まで4DXを前提にしている作品がほとんどなかったので、映画としての物語がしっかりあって、そこに心理的な面でもエフェクトを上手く使っていければ、他とは全く違う映画体験ができると思いました。4DXでしか上映しない、エフェクトを何回もチェックさせてもらうなど、色々と条件を付けさせていただいた上で、引き受けさせていただきました。

ーー脚本の書き方など、通常の映画とは大きく違いそうですね。

清水:『雨女』は監督デビュー当時に進めていたけど結局実現しなかった企画で、当初は長編作品でしたが今回まったく新しい形に話を作り直しました。脚本は、エフェクトの種類やタイミングを考えながら書いていきましたね。脚本を執筆すると同時に、そこに付けたいエフェクトの効果を書き込んでいくなど、初めての経験が多かったです。通常の映画の場合、映像と音のバランスをとりながら、観客の観やすいテンポに調整していきますが、今回はエフェクトのバランスを考える作業が増えました。例えば、雨のシーンが長時間続いたら、お客さんがびしょ濡れになってしまう。そういうことを想定しながらシーンの構成や脚本を考えていく必要がありました。苦労も多かった反面、楽しいところでもありました。劇場でしか体験できない4DXなので、毎回チェックのために劇場に足を運ぶのも大変でした(笑)。通常の興行後ですからいつも深夜帯でしたから。それに年齢を重ねていくとどうしても新しい技術を受け入れにくくなってしまうものですが、これからは新しいテクノロジーを柔軟に受け入れ、作り手がその技術を上手く作品に落とし込めるかが重要になってくるのかな、と考えていて。僕自身も、今回の製作を通してそのことに気づくことができたので、通常の映画を作る以上の経験や勉強をさせてもらったと感じています。

ーー本作のエフェクトについて、次の効果が起こるまでの“間”がよく計算されているなと感じました。Jホラーの恐怖をエフェクトの間隔で表現しているような。

清水:そこを感じてもらえたのは嬉しいですね。従来の4DX作品は、エフェクトをつけることを念頭に置いているわけではないので、バランスもなにもないんですよね。それに予算や規模の都合上、ハリウッドの大作ものや、邦画でもアクションの多い大作系に限定されていたと思います。たしかに派手さはあるのですが、余分な動きも多く、集中すべきシーンなのに集中させてもらえないような作品も中にはありました。本作もまずは最初は、4DXのシステムを開発している会社に、お任せでエフェクトをつけてもらいました。結果、エフェクトがふんだんに盛りこまれた形で戻ってきて……さすがに登場人物の携帯のバイブレーションにまであわせて椅子が揺れるのはやりすぎだと思いました(笑)。余分なエフェクトを丁寧に削っていったので、エフェクトのない部分も恐怖の仕掛けになっているのは狙いのひとつですね。

ホラー映画には鑑賞者の共感が必要

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ーー物語の中心には家族というテーマがありますね。

清水:映画では、鑑賞者に共感を与えることはとても重要なことです。ですから、どこにでもいるような、共感してもらいやすい女の子を主人公にしました。特にホラーには非現実的なシーンも不可欠なので、そこを活かすためにも入り口には共感しやすいリアリティが必要です。劇中の恐怖が鑑賞者の日常にも繋がっていることを意識させるというか。だからこそ、一般的な人と同じように、恋人や家族との悩みがあったり、普通に仕事をしているシーンこそ大切に描いているつもりです。。日常の中に潜む恐怖や違和感は、どの作品を作るときも意識していますね。

ーーたしかに、日常のなかにある恐怖は、リアリティがあって一番ぞくっとしますね。他の監督のホラー作品を見ても、普段から利用するような場所で怪奇現象が起こっています。

清水:お風呂やトイレ、寝室など、絶対に安心して過ごせるだろうとみんなが考えていて、且つ無防備にならざるを得ない場所はホラーに最適なんですよ。身の回りにあるありふれた場所や生理を上手に使うことで、同じシチュエーションを体験した時につい思い出してしまう、鑑賞後も引きずってしまうような恐怖を与えることができます。恐怖だけでなく観た人にある種のトラウマ的なものを残すことが映画の醍醐味でもあるのかな。僕自身は子供の頃はホラーのそういうところが苦手でした(笑)。『雨女』にしても、もしかしたら自分の家族や恋人の間に知らなくてもいい秘密が隠されているかもしれない、と感じてもらえるかもしれません。

ーーお風呂で体を流している時に目線を落とすと脇の下から幽霊が見えるなど、幽霊を描く時の視点が斬新だなと感じました。

清水:カメラを通すと特殊に見えますが、日常的な行動の先に特別な″人ならざる存在″がいるイメージですね。幽霊の視線や気配をどこに置くか、それも日常の動きをヒントにしています。例えば、お風呂で髪を洗っている時は、裸で目もつむっている完全に無防備な状態なので、この状況で後ろに誰かがいたらどうしようとか思うじゃないですか。そういう無防備な瞬間をいかに突いていくか日常からのヒントを考えながら、登場人物の動きや幽霊の見せ方を決めていきます。ただ、女性より男性の場合が難しいです。男性の無防備なシーンを考えた時、思いつくのが立ち小便をしている時くらいしかなくて(笑)。

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