『とと姉ちゃん』七週目は新商売めぐるドタバタ劇に 常子は“婦人解放運動”とどう向き合った?

 二作続けて平塚らいてうが登場することとなった朝ドラだが、女の一代記を描いてきた朝ドラは、時代に先駆けて自立して働く女性たちを描き続けている。その意味で、フェミニズム思想を体現する物語だと言える。だが一方で、優等生的なヒロイン像は毎回保守的で、古さと新しさ(それは通俗性と先鋭性と言ってもいい)が平然と同居しているのが朝ドラである。

 だから、婦人解放運動の平塚らいてうの雑誌「青鞜」が出てくるのは納得する一方で、どこまで踏み込むのかは悩ましいところだろう。この辺り、本作の距離感は絶妙で、「元始、女性は実に太陽だった」という強いメッセージ性を打ち出しながらも、常子が始めるのが、婦人解放運動ではなく歯磨き粉を使ったビジネスというのは程よいバランス感覚だと思う。

 もうひとつ、興味深いのは東堂が台詞を暗唱するのが、ヘンリック・イプセンの『人形の家』だということだ。弁護士ヘルメルの妻であるノラが、夫の態度に愛想を尽かして家を出ていく姿を描いた本作は、フェミニズム運動の勃興を象徴する古典として語られる戯曲だが、仕事と恋愛(あるいは結婚)のはざまで葛藤する女性たちの姿を描き続けてきた朝ドラを含めた日本のテレビドラマの源流に『人形の家』があると言っても過言ではない。

 それにしても当時、フェミニズム思想と雑誌文化と演劇文化が強く連動していたのが、東堂チヨを見ているとよくわかる。だから常子や鞠子の興奮は、平塚らいてうの言葉に対するものだけでなく、雑誌を通して思想に触れるという活字体験そのものの喜びを描いているように感じた。無論、この興奮は常子たちが雑誌社を立ち上げる際の原体験となっていくのだろう。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■番組情報
『とと姉ちゃん』
平成28年4月4日(月)〜10月1日(土)全156回(予定)
【NHK総合】(月〜土)午前8時〜8時15分
[再]午後0時45分〜1時ほか
公式サイト:http://www.nhk.or.jp/totone-chan/

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