体験型の新規格“4DX”はジャパニーズホラーをどう進化させた? 4DX専用ホラー『雨女』体験レポート
近年、IMAXや3D、爆音上映など、映画館における上映スタイルの多様化が進む中、特に異色の存在感を放っているのが4DXと呼ばれる体感型の映画鑑賞システムだ。座席が前後上下左右に稼働する効果をはじめ、風、水(ミスト)、香り、煙りなどの演出が映画のシーンとリンクして行われるため、鑑賞者は映画の世界を疑似体験することができる。
本年1月に公開された4DX専用ホラー『ボクソール☆ライドショー ~恐怖の廃校脱出!~』に続き、日本で2作目となる4DX専用映画『雨女』が6月4日に公開される。その先行内覧試写会に潜り込ませてもらった。本作は、ジャパニーズホラー(以下、Jホラー)の名手・清水崇が監督を務めたホラー映画で、雨女に苦しめられる少女の恐怖を描いていく。日本のシネコンの中でもいち早く4DX(R)に注目し、数々の4DX企画を上映しているユナイテッド・シネマ豊洲の山田真也支配人と、『雨女』の制作にも携わっているユナイテッド・シネマ事業開発部の五十嵐健一氏のコメントを交えつつ、本作の体験レポートを届けたい。
五十嵐氏によると、今回の『雨女』で最も重要視されたのは、“Jホラーの恐怖を4DXのエフェクトを使ってどう表現するのか”だったという。「過去に『呪怨』や『輪廻』を手掛けた清水崇監督の作品ということもあり、精神的に追い詰められていくような恐怖を4DXの機能で表現していきたいと考えました。『ボクソール☆ライドショー ~恐怖の廃校脱出!~』の時は、遊園地のアトラクションのようなライド感を前面に出していきましたが、本作は繊細なエフェクトを使い臨場感を生み出す事で観客を怖がらせていく仕掛けになっています」
筆者が実際に鑑賞して感じたのは、映画と親和性の高い仕掛けが施されているということだ。例えば、シトシト降っている雨の演出や頬を撫でる風、ほのかに香る匂いなど、日常のシーンでは普段の生活で体感しているようなリアルなエフェクトが仕掛けられている。“4DX=アトラクション”といったダイナミックなイメージをしてしまいがちだが、本作の4DXはあくまで恐怖を引き立てる要素のひとつとして機能している。
もうひとつ注目したいのはエフェクトが起こる“間隔”だ。『ボクソール☆ライドショー ~恐怖の廃校脱出!~』を体験した時は、最初から最後まで慌ただしく座席が揺れたり、風が吹いたり、息つく間もなくなにかが起きていたが、本作ではJホラー特有の“間”が4DXで表現されている。つまり、いつエフェクトが襲ってくるのかわからないため、始まりから終わりまで緊張感を維持しながら鑑賞することになるのだ。ホラー映画を観ている時に感じる怖さのピークは、怪奇現象が起きるシーンはもとより、いつなにが起こるかわからない不気味さにもある。それが本作では、視覚的な恐怖と体感する恐怖の絶妙なバランスで表現されていて、鑑賞者の意識を映画に釘付けにする。
しかし、この試写会の段階でのエフェクトはまだ調整中らしく、公開まで何度も修正を重ねながら最適な効果を見つけていく必要があるという。「4DXを前提に脚本を制作しているので大まかなイメージはあるのですが、細かな調整は実際にやってみないとわかりません。特にホラー映画は、音響やエフェクトによって怖さが全然変わってくるので、トライ&エラーで一番合ったエフェクトを決めていきます。」
また、山田氏によると4DXは各劇場で違いが生じるものとのこと。「劇場毎に館内の構造が違うので、装置の配置、エフェクトの強弱、椅子の高さなどが変わってきます。そうすると、確実に体感する内容も変わってくるので、同じ作品を観ても感じ方に違いがでてきます。これは当館のお客様から聞いたのですが、豊洲は他の館と比べてフラッシュの効果が良いらしく、“閃光の豊洲”という愛称で呼ばれているらしいです(笑)」4DXはシステムが進化するスピードも速く、劇場によっては香りの数を多く持っていたり、突然新しいエフェクトが増えたりすることもあるとのこと。ちなみに、豊洲は日本で初めて“雪”のエフェクトを導入した劇場だ。