『ゆとりですがなにか』第三話で見えてきた、クドカンドラマのルール

 それにしても、意外だったのは、山岸が会社を辞めずに職場に復帰したことだ。だが、これは一件落着とは程遠い状態で、今後よりやっかいな状況になっていくことを予感させる。「これだかだらゆとりは」と言ったことを嘲笑と受け取る山岸は、今までクドカンが描いてきた笑いの世界の外側にいる人間だ。「説教」と「笑い」が通じない山岸に対し、坂間がどう向き合っていくのか、注目である。

 また、坂間家の描写も面白くなってきた。会社のエピソードや仲間たちと会う場面に較べると、どういう位置づけなのか若干わかりにくかったが、兄の宗貴(高橋洋)が母・和代(中田喜子)から子作りを求められたり、父の死を坂間家が引きずっているという話が繰り返されているのをみると、宗貴がいかに父の後を継ぐのかという話も、重要になっていくのだろう。まずくて飲めなかった地ビールが一か月熟成させたことで飲めるようになったというエピソードは、本作における坂間たちゆとり第一世代と山岸たちゆとり世代の和解を象徴するエピソードとなるのだろうか?

 最後に、どうしても触れたいのが悦子を演じる吉岡里帆の演技だ。いじめ疑惑から宴会の席に至るまで、悦子はほとんど瞬きをせずに大きく見開いた目で山路や小学校の生徒たちを凝視している。これが休日に坂間の家に山路たちと訪れた時は、穏やかな表情をしていて、ちゃんと瞬きをしていて表情が穏やかになるのだが、この目の演技の落差がとても印象に残る。連続テレビ小説『あさが来た』(NHK)で田村宜を演じた時も、台詞がない棒立ちの場面でも小芝居をして、物語とは別のところで存在感を示していた。おそらく、演じる役ごとに相当、演技プランを考えるタイプなのだろう。それにしても、日本初の女子大設立に関わり、後に校長となる宜を演じた吉岡が、悦子のような危なっかしい教育実習生を演じているというのは面白い。まったく正反対の役柄だが、この二役だけみても、彼女の女優としての振り幅の広さがよくわかる。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■番組情報
日本テレビ新日曜ドラマ『ゆとりですがなにか』
4月17日(日)22:30スタート
出演:岡田将生 松坂桃李 柳楽優弥 安藤サクラ 吉田鋼太郎
脚本:宮藤官九郎
「ゆとりですがなにか」公式サイト

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