『とと姉ちゃん』慌ただしい展開となった四週目 高畑充希は常子の不安をどう演じた?

 一方、常子は編入した高校で、いじめにあって孤立する。学校で困った顔をしている常子を見ていると高畑充希の出演していたドラマ『Q10』(日本テレビ系)を思い出す。

 木皿泉が執筆した『Q10』は未来からやってきたロボットが登場する学園青春ドラマで、高畑は優等生の河合恵美子を演じた。勉強ができてかわいいのに自信なさげでいつも悩んでいる思春期の少女を見事に演じていたのだが、真面目な優等生が陥る不安な表情を演じさせると高畑の右に出るものはいない。

  生徒たち全員がいじめに加担する中、一人だけ加わらないのが中田綾(阿部純子)だ。帰国子女の読書家で下級生からも人気が高い彼女は生徒たちと必要以上に群れようとしない孤高の存在だ。最初は常子を突き放した綾だったが、常子がカンニング疑惑をかけられた際には、くだらない言い合いで試験が中断されたから再試験をしてほしいと提案し、結果的に常子を助ける。

 その後、常子は綾に勉強を教えてほしいと頼み込み、根負けした綾は勉強を教えることになる。息が詰まるようなイジメの場面が続くが、最終的に森田屋の人々も常子の試験を応援するようになり、試験では汚名を返上する好成績を上げて、綾との間にも友情が芽生える。常子は、様々な人々と関わる中で助言をもらい、それを素直に受け止めて成長していく。そして、そんな常子だからこそ、周囲の人々も応援する。

 その意味で本作は、教養小説的なストレートな成長物語だと言えよう。近年の朝ドラは、優等生的なヒロインの成長物語を意識的にズラすことで、物語の幅を広げてきた。『純と愛』や『ごちそうさん』で描かれたヒロインの善意が偽善的なおせっかいとして批判される展開はその典型例だ。

 ディズニー映画における『アナと雪の女王』のように、定型化した物語を否定することで近年の朝ドラは進化してきたのだが、西田征史の脚本は、朝ドラ的な展開を安易に否定するのではなく、丁寧になぞった上で、面白いドラマに仕上げている。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■番組情報
『とと姉ちゃん』
平成28年4月4日(月)〜10月1日(土)全156回(予定)
【NHK総合】(月〜土)午前8時〜8時15分
[再]午後0時45分〜1時ほか
公式サイト:http://www.nhk.or.jp/totone-chan/

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