松江哲明の『COP CAR コップ・カー』評:ケヴィン・ベーコンを正面から撮れば、良い映画は作れる

松江哲明の『COP CAR コップ・カー』評

 また、ケヴィン・ベーコンの存在感も素晴らしかった。下手にお金をかけるより、ケヴィン・ベーコンをしっかり正面から撮れば、良い映画は作れるんですね。彼は本当におもしろいし、自分のおもしろさを客観的に捉えることもできていると思うんです。日本でいうと山田孝之タイプで、映画の中における自分の役割を理解している役者。その上、洒落もちゃんと分かっているという。ハリウッド映画の悪役とかでは振り切れた演技をしているけれど、ここではちゃんと抑えた演技を見せて、映画の雰囲気を引き立てているんですね。彼は『JFK』で、刑務所の中にいるゲイの男役をしていたけれど、そのときもケヴィンの色をちゃんと消していた。芝居が上手な人は、作品に合わせてそのイメージをちゃんと抑えることもできるんです。それでいて、本作では物語の邁進力にもなっている。急に鉢植えを壊して犬を驚かしたり、ちょっとした仕草に狂気を匂わせつつも、ところどころでクレバーさも見せていて、映画に緊張感を走らせています。

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 映画というものは、スクリーンを見上げて鑑賞するもので、僕らはヒーローや悪役を見上げたいんですよ。そういう意味で、『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』は、ヒーローものなのに、小さなことにウジウジ悩んでいて、彼らが魅力的に見えないんです。だけど、『COP CAR コップ・カー』のケヴィン・ベーコンは、悪役ながらちゃんと見上げられる人物として描かれている。映画向きの芝居をちゃんとしていて、しっかりセンターに立っているんです。それだけで90分映画を引っ張るのだから、素晴らしいですよ。

 少年の成長物語としても、この映画は秀逸です。思春期前の少年たちの無邪気さと、背伸びしたい感じがすごくよく描かれていて、誰が観てもおもしろい作品になっていると思います。少年たちの長い一日の物語は、後味も良いし、観終わったあとに「良いもの観たな」っていうお得感もあります。入り口はサスペンスなのに、出口では全然違う清々しさが待っていて、そういうところが僕は好きです。隠れた傑作と呼ぶのにふさわしく、映画ファンほど好きになる作品だと思います。それから、映画を志す人にとっても、とても勉強になる作品だとも思います。面白い映画のお手本のような作品ですから。

 『COP CAR コップ・カー』を観て、ケヴィン・ベーコンの旧作を改めて観たくなってしまいました。ちなみにオススメは、『トレマーズ』という1990年のアクションホラー映画。地面の中を這うモンスターをやっつける話なんですが、一見ホラーなのに、どこかおかしくて仕方ないという不思議な魅力があって、「ケヴィン・ベーコンってなんか変…」と最初に思った作品です。ぜひ見てみて下さい。

(取材・構成=松田広宣)

■松江哲明
1977年、東京生まれの“ドキュメンタリー監督”。99年、日本映画学校卒業制作として監督した『あんにょんキムチ』が文化庁優秀映画賞などを受賞。その後、『童貞。をプロデュース』『あんにょん由美香』など話題作を次々と発表。ミュージシャン前野健太を撮影した2作品『ライブテープ』『トーキョードリフター』や高次脳機能障害を負ったディジュリドゥ奏者、GOMAを描いたドキュメンタリー映画『フラッシュバックメモリーズ3D』も高い評価を得る。2015年にはテレビ東京系ドラマ『山田孝之の東京都北区赤羽』の監督を山下敦弘とともに務める。最新監督作は、2016年4月8日より放送中のテレビ東京系ドラマ『その「おこだわり」、私にもくれよ!!』。番組公式サイトはこちら→https://www.tv-tokyo.co.jp/okodawari/

■公開情報
『COP CAR コップ・カー』
2016年4月9日(土)公開
監督:ジョン・ワッツ
製作:コディ・ライダー、アリシア・バン・クーバリング、サム・ビスビー、ジョン・ワッツ
出演:ケビン・ベーコン、ジェームズ・フリードソン=ジャクソン、ヘイズ・ウェルフォード
公式サイト:cop-car.com
(C)Cop Car LLC 2015

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