松田龍平はいつから“ゆるキャラ俳優”に!? 不安定かつユニークな特性が培われた背景

 一方で、30代になった松田龍平は、その演技に独特の繊細さも湛え始めている。2013年の石井裕也監督『舟を編む』では、真面目で人見知り、編集部で十数年ひたすら辞書作りに励む男を丁寧に演じ、第37回日本アカデミー賞主演男優賞に輝いた。話し下手でありながら、その朴訥とした言葉に説得力を宿す演技は、本来の彼らしいものだろう。しかし、ただ真面目でかっこいいだけではないのが、コメディ経験以降の彼の奥深さだ。同年、NHK連続テレビ小説『あまちゃん』では、主人公が所属するアイドルグループのマネージャー・水口役として出演。ぶっきらぼうで興味なさそうなフリをしているくせに、実はあまちゃんを一番応援しているツンデレキャラで、全国のお茶の間に“ゆるくてかっこいい松田龍平”を強く印象付けた。

 “ゆるキャラ”的な役どころは、一見すると意外にも感じられるが、実は華々しくも奥行きに富んだキャリアからじっくりと培われてきたものである。今回の『モヒカン故郷に帰る』は、『南極料理人』や『横道世之介』といった作品で、人間の滑稽さをハートフルに描いてきた沖田修一監督によるコメディで、まさに彼に打ってつけの作品といえよう。特有の、クールで繊細なのに、どこか不安定で愛嬌のある絶妙な“ゆるさ”は、同じく独特の雰囲気を持つ前田敦子との共演の中で、どのように発揮されるのだろうか。予想不可能なそのキャラクターから目が離せそうにない。

(文=本 手)

■公開情報
『モヒカン故郷に帰る』
2016年3月26日(土)広島先行公開、4月9日(土)テアトル新宿ほか全国拡大公開
監督・脚本:沖田修一
出演:松田龍平、柄本 明、前田敦子、もたいまさこ、千葉雄大
主題歌:細野晴臣「MOHICAN」(Speedstar Records)
音楽:池永正二
配給:東京テアトル
(c)2016「モヒカン故郷に帰る」製作委員会
公式サイト:mohican-movie.jp

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