『あさが来た』はなぜ成功したのか? “鬱展開”を排除した作りと、キャラクターの魅力

 ドラマ後半の主軸となる母と娘の対立もあまり機能していなかった。朝ドラは主人公が母親になると、娘とのジェネレーションギャップが描かれることが多い。本作ではあさの娘・千代(小芝風花)があさの生き方に対して反発する。この構造は最終話で後に女性解放運動家となる平岡らいてう(大島優子)が登場することで世代間闘争に発展するのだが、あさという偉大な母を前に、すべてが娘の世代の空回りに終わっていった。

 対立を避けて、不快な要素を排除していった結果、物語が後退し、最終的にあさの家族を中心としたキャラクター同士の楽しいやりとりだけが残った。その姿は『けいおん!』のような空気系と呼ばれる萌えアニメのようだ。

 それが一番現れていたのが、吉岡里帆が演じた田村宜だろう。メガネをかけた頭でっかちの学生で、あさを過剰に神格化する彼女の存在に初めは困惑したが、次第に彼女が動いているだけで楽しくなってきた。進学か結婚か、という葛藤は一応描かれるものの、基本的に宜は物語を背負っていない。秘書として、あさ達に付いてウロウロしているだけのマスコット的存在なのだが、物語から自由であることによって、『あさが来た』を、もっとも象徴するキャラクターとなった。

 宜の描写くらい徹底されていれば「余計な物語なんていらない」と、逆に思えてくる。結局、多くの人が楽しんでいたのは、物語ではなくキャラクター同士の楽しいやりとりだったのだろう。そのことを全否定することは宜ちゃんに萌え狂っていた自分にはできないが、今後、『あさが来た』の成功フォーマットが後の朝ドラに大きな影響を与えることを想像すると、物語性が後退していくのではないかと、少し心配である。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■ドラマ情報
『あさが来た』
NHK総合テレビ
出演:波瑠、玉木宏、ディーン・フジオカ、山内圭哉、友近、桐山照史、楠見薫、竹下健人、杉森大祐、郷原慧、畦田ひとみ、梶原善、風吹ジュン
語り:杉浦圭子
原作・脚本:大森美香
公式サイト:http://www.nhk.or.jp/asagakita/

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