タイが生んだカンヌ常連、アピチャッポン・ウィーラセタクン監督が語る『光りの墓』の映像美学

『光りの墓』監督インタビュー

「映画製作におけるすべてのプロセスを楽しめるようになってきた」

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ーーこれまで一緒に組んでいたカメラマンではなく、今回初めてメキシコ人カメラマンのディエゴ・ガルシアと組まれていますね。

ウィーラセタクン:技術力はもちろん、心穏やかで本当に素晴らしい人です。学生の頃に私の作品を観てくれていたということを彼から聞いて、なんだか年寄りになった気分になりましたが(笑)。ただ、そのおかげで、私が持っているリズムや照明の感覚みたいなものに、すぐに呼応してくれたと思います。実はこの映画は、私にとって、初めてプロのデジタルカメラで撮った長編作品なんです。まったく新しい体験でもあったので、私や他のタイ人スタッフには当然のようなことも、外国人の視点で意識的に見てくれたような気がしますね。

ーー色や照明の美しさが印象的でした。

ウィーラセタクン:色や光へのこだわりは強く、それをどう実現するかにも苦労しました。というのは、自然光を利用したいと思っていたからです。病院の中の照明もエフェクトで出したのではなく、コンピュータープログラムを使ってLEDライトに発色させるというような形でした。OKカットが撮れても「カット」と言いたくなくなるほど、自分自身もその世界に魅了されてしまうほど美しい光でしたね。

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ーー病院もそうですが、町の色が次第に変化していく様子も美しかったです。

ウィーラセタクン:色の変化には、観客を夢の世界に誘う役割があると思うんです。登場人物たちもまさにそうで、新しい現実に導かれていく転換点になると思います。この経験によって観客は、この映画が作りごとなんだ、イリュージョンなんだということに気が付くはずです。例えば、もっと暖色寄りにするだとか、もっと寒色寄りにするだとか、色補正をして画面を変える作業が映画作りの中ではあります。この町の色の変化は、そのプロセスに気付いてもらう効果を上げようとして取り込んだのですが、と同時に、病院内の照明の色の変化に呼応しています。病を持った兵士たちが光を受けているように見えるのと同じように、私たちも光を受けているんだということを観客に感じ取ってもらうようにしたかったんです。

ーージェンジラーさんをはじめ出演者の皆さんはとても自然体な演技をされていますが、演出はどの程度されるのでしょうか?

ウィーラセタクン:演出はキャスティング段階から始まっているとも言えますが、いろいろな要素があると思います。私は脚本を書くときに当て書きをすることが多いんです。ジェンジラーもそうで、彼女の性格を取り込んだ役を書いたりします。また、キャスティング段階で私自身が好きな特徴を持っている人を選びがちなんですが、その特徴を活かすような脚本にまた自分で書き直していくという作業があります。人に応じて脚本を書いていると言えますね。だからこそ、役者の方々には、カメラの前では自分らしくいてほしいと指示をしています。でもそれは結構難しいようで、みなさん演技をしたがりますね。

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ーーロケーション選びから、脚本執筆、撮影、演出などの話をうかがってきましたが、監督にとって、映画作りにおいて最も重要な作業をひとつ選ぶとしたらどの過程ですか?

ウィーラセタクン:そうですね……たったひとつだけを選ぶのは不可能ですね(笑)。もともと若い頃は脚本を執筆する作業や、企画を考える作業がすごく好きだったんです。私の作品の多くは低予算なので、撮影時にはいろいろな問題が起こり、なかなか思うようにいかずストレスがかかることも多く、撮影が嫌いだったんです。でも今は、トラブルを予測しながら撮影を行うこともできるようになってきたので、撮影も脚本も含め、すべてのプロセスを楽しめるようになってきました。それはひょっとしたら、自分が年齢を重ねてきた経験値によるものかもしれません。あるいは、こういうふうになるだろうという期待値がもう少し現実的になってきたのかもしれませんし、何か問題が起こってもその問題を楽しむことができるようになった能力のせいかもしれません。なので、今の自分にとっては、企画、脚本、キャスティング、撮影、編集……すべてのプロセスが大事だと言えますね。

■公開情報
『光りの墓』
3月26日(土)シアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー
製作・脚本・監督:アピチャッポン・ウィーラセタクン
出演:ジェンジラー・ポンパット・ワイドナー、バンロップ・ロームノーイ、ジャリンパッタラー・ルアンラム
英語題:CEMETERY OF SPLENDOUR
配給・宣伝:ムヴィオラ
宣伝協力:boid
2015年/タイ、イギリス、フランス、ドイツ、マレーシア/122分/5.1surround/DCP
(c)Kick The Machine Films / Illuminations Films (Past Lives) / Anna Sanders Films / Geißendörfer Film-und Fernsehproduktion /Match Factory Productions / Astro Shaw (2015)
公式サイト:www.moviola.jp/api/haka/

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