真田広之が語る自身の役者キャリア、そして『Mr.ホームズ』出演を通して気づいたこと

真田広之が語るキャリアと『Mr.ホームズ』

「自分の時間を捧げられる作品だと思えれば、どんな役でもやる」

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(c)Agatha A Nitecka / SLIGHT TRICK PRODUCTIONS

ーービル・コンドン監督の印象はどうでしたか?

真田:大作も撮られている監督なので、少しプロデューサーに近い感覚も持っていないと成り立たないんだろうなと思っていたんですけど、本当の演出家なんだなというのを撮影初日から実感しました。フレンドリーで繊細でプロフェッショナル。ジャッジがすごくはっきりしている監督という印象でした。演出が非常にシンプルで、適切で、わかりやすいんです。これしかないという言葉を選んで、その言葉をただポンと投げてくるんですね。それによって俳優の演技がどう変わっていくのかを楽しみながら、シーンを作り上げていく。今回の作品はインディペンデントという括りに入ると思うんですけど、インディペンデントでありながらも、やはり監督の持っているスケール感により、大作の息吹が吹き込まれ、非常に品格のある作品に仕上がっていると思います。

ーー日本の描写もありましたね。

真田:撮影はすべてロンドンで、日本のパートはグリーンバックだったので、背景にどんな日本が描かれるかは、現場で見ることができなかったんです。なので、その辺は監督にどのように描かれるかを聞きながら撮影を進めていきました。リアリティを追求するというよりは、老いたホームズの記憶の中にある様々な日本を混在させながら、日本に対する監督のリスペクトも取り込まれています。特に広島はデリケートな部分でもあるので、どう描かれるのかは僕自身も心配していたんですけど、監督は任せてくれと。灰の中で新たな緑が生まれるという命の再生や復活が、どうホームズの心理に反映していくか。その象徴としての日本をイメージしたと思うんです。“フィクション、の中のフィクション、の中の彼の頭の中の日本”いう感じなので、完成したものを観て、なるほどなと思いましたね。

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(c)Agatha A Nitecka / SLIGHT TRICK PRODUCTIONS

ーー真田さんからみたウメザキの人物像は?

真田:非常に複雑な過去や心理を持った男だと思います。父の失踪に関わっていたんじゃないかと、ホームズを疑いの目で見つつも、彼に関する本を読み続け、おそらく映画も観て、憧れている。そしてどこかホームズに父の面影を重ねていて、擬似親子のような複雑な関係性もある。なので、どの段階でどれぐらい心が寄り添い出したのか、どういうバランスで自然に見せていくのかが一番の課題でしたね。また、ウメザキは日本人でありながら、父の影響で英国訛りを練習していて、少し英国かぶれな部分があったりもします。あの時代に住んでいた日本人として、どこまでリアリティを持たせるべきか、フィクションとして、どこまでシャーロックに歩み寄るべきか、そのあたりのバランスも監督と一緒に見極めながら作っていきました。

ーー真田さんは現在ハリウッドで活躍されていて、様々な役柄を演じられていますが、これまでの作品の中で一番大きな出会いとなった作品は?

真田:どの作品がなかったとしても、今の僕はないでしょうね。出演する作品は毎回大きな出会いになりますが、敢えて挙げるとすれば、子役を終えて再デビューするというときに深作欣二監督に出会って、オーディションを受けて抜擢していただいた『柳生一族の陰謀』ですかね。深作監督との出会いは非常に大きかったです。あと、ロンドンで行ったシェイクスピアの舞台『リア王』も、その後の人生において、とても大きかったですね。初めての全編英語の仕事が、生の舞台ですから。イギリスの俳優たちに混ざって、日本人ただ1人で演技をする。異文化に触れながら、誰も見たことがないものを作り上げる難しさと面白さを、一気に体験するような感じでした。今後もそういったことを大事にしていきたいと強く思わせてくれた作品なので、今の活動に繋がる原点になっているんじゃないかと思います。一作ごとに成長して、また一流のスタッフ・キャストと組めるように自分を磨いていく。その積み重ねしかないと思います。少しずつ力をつけて、また次のステップに進むというのが、自分のあり方なのかなと思いますね。

ーーどのような作品に出演するか、決め手や基準はあったりするんでしょうか?

真田:最終的にはもう、臭覚や直感しかないですね。ただそのためには、本をしっかり読み、スタッフ・キャストを調べ、自分にできるかできないかを判断する必要がある。自信があるからやる、自信がないからやらない、ということではなくて、自分でいいのか、自分がその役をやることがその作品にとって一番いいのかということも考えますね。決まった定規があって当てはまるものをやる、ということではなく、やる意味を見出せれば、娯楽大作ももちろんやりますし、小さいアート系の映画もやります。自分の人生の何ヶ月間かを捧げるわけですから、今回の作品のように、本当に自分の時間を捧げられると思えれば、どんな役でもやりますね。その結果として、テレビも、映画も、舞台も、大作から小物まで、いろいろな役柄をいいバランスで演じられたらいいなと思います。

(取材・文=宮川翔)

■公開情報
『Mr.ホームズ 名探偵最後の事件』
TOHOシネマズ シャンテほか全国公開中
監督:ビル・コンドン
脚本:ジェフリー・ハッチャー
出演:イアン・マッケラン、ローラ・リニー、真田広之、マイロ・パーカー
原作:ミッチ・カリン「ミスター・ホームズ 名探偵最後の事件」(KADOKAWA 訳:駒月雅子)
配給:ギャガ
原題:Mr.Holmes/2015年/イギリス、アメリカ/104分/カラー/シネスコ/5.1chデジタル
(c)Agatha A Nitecka / SLIGHT TRICK PRODUCTIONS
公式サイト:http://gaga.ne.jp/holmes/

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