『シェル・コレクター』監督が語る、“比類なきもの”への挑戦 「世の中に“なぞなぞ”を提示した」
「情景というのは、人の心も含めた景色や場面のこと」
ーー細部にはリアリティがあるのに、少し引いて見ると非現実的な世界が見えてきます。
坪田:ロケ地は沖縄だけど、作中でどこの場所の話かは明言していないし、時代設定もぼかしています。とある南の島で、地殻の変動が活発化し、火山の噴火の気配があって、戦争も忍び寄ってきている……というくらいの世界観で。レトロフューチャーをテーマに、ちょっとした小道具もいつの時代のものだかわからないものを選びました。近未来で、時代に取り残されてしまったような虚無感のある絵にしたかったんです。絵作りでもそれは徹底していて、たとえば16ミリフィルムで撮った映像と、高画質のデジタルの映像を織り交ぜています。アナログとデジタルが奇妙に混在しているんです。
ーー劇中でたびたび挿入される、映像作家の牧野貴さんによるイメージ映像も新鮮です。
坪田:CGをいっさい使わず、自然物の映像などを何重にも重ねて明滅させて作っているんです。静止画でよく見ると、空の雲の動きとか、葉脈とか、細胞のうごめき、海中の泡などの絵が重なって、それが明滅していることがわかると思います。盲目の貝類学者が抱いているビジョンや音のイメージ、記憶、そして解毒の作用、視覚的に表現したのが牧野さんのパートなんです。具体性のあるものを見せるか見せないか、そのせめぎ合いがあの抽象映像のポイントで、本作全体のあり方とも通じます。ストーリーラインもアンビエントなギリギリのところで構成し、編集も全然違うストーリーが何パターンもできて、どこに落ち着くべきかは迷ったところです。
ーー白と黒の狭間にある灰色の一点を突いていくような……。
坪田:僕は玉虫色、というのが好きですね(笑)。見る方向や光の当て方で色が変わっていくというか。映画でいうと、どこにカメラを置くかによって色彩の見え方が全然違いますよね。
ーーなるほど。たしかにこの作品はいろいろな解釈の仕方があると思います。カメラワークひとつ取っても、いろいろな情景を切り取っているという印象です。
坪田:今回、カメラは大ベテランの芦澤明子さんにお願いしたんですけれど、撮影中の彼女はエネルギーが凄くて、野生的に海辺の岩の上とかにバーっと走って登って行って「ここで撮りたい!」って叫ぶんですよ。そうすると屈強な若いイケメンの助手さん達が海の中を走っていって、彼女の為に重い機材を渡すという連係プレーを何度も見ました。フレームは芝居と景色のバランスを見ながら決めていると思うんですけれど、僕もファインダーの中になにが写っているかはすごく気にします。僕は“情景”という言葉が好きで、情景というのは、人の心も含めた景色や場面のことで、それをカメラで捉えようと思ったら、芝居だけを撮っていても、景色だけを撮っていても駄目なんですね。それに、情景って言葉の響きもなんだかエロティックじゃないですか。
ーーその情景を紡いで、なにかを提示しているのが本作であると。
坪田:そうなっていると良いですね。多くの矛盾を孕んだ世の中に対して、ひとつの「なぞなぞ」を提示したという感覚ですね。いろいろな解釈の仕方があっていい。この映画を観て、感覚的に触発される方がいたら、とても嬉しいです。
(取材・文=松田広宣)
■公開情報
『シェル・コレクター』
公開中
監督・編集:坪田義史
脚本:澤井香織、坪田義史
原作:アンソニー・ドーア『シェル・コレクター』(新潮クレスト・ブックス刊)
出演:リリー・フランキー、池松壮亮、橋本愛、普久原明、新垣正弘、寺島しのぶ
配給:ビターズ・エンド
(C)2016 Shell Collector LLC(USA)、『シェル・コレクター』製作委員会
公式サイト:www.bitters.co.jp/shellcollector