市原隼人主演『ホテルコパン』が描く現実の多面性 門馬直人監督が語る群像劇の面白さとは

『ホテルコパン』監督インタビュー

「みんな、喉元を過ぎたら熱さを忘れてしまう」

ーー本作は震災やオリンピックといった現実的な要素も取り入れていますね。

門馬:そうですね、脚本を書いていたのが震災後だったし、いまこの日本で人生の縮図を描こうと考えたとき、そうした問題はやはり入れるべきだと思ったんです。ただ、「絆が大切」みたいなことを描くのはちょっと違う気もしていて。当時は結構いろんな人が「絆」って言葉を口にしていたけれど、いまは誰も言わないですよね。当時から、敏感な人は違和感を覚えていたと思うし。

ーー本作では、“忘れられた土地”としてオリンピック跡地が舞台になっていますが、「絆」という言葉が陳腐化していったのと、感覚的には近いものを感じます。

門馬:もちろん、東京オリンピックを否定するつもりはないし、そもそもこの脚本を書いていた当時は、まだ東京オリンピックは決定していなかったんですけれど、長野のオリンピック跡地がその後、どういう状況にあるかというのは描きたかった。やっぱりみんな、喉元を過ぎたら熱さを忘れてしまうんですよ。作品の中でそれを描くことで社会に何かを言おうというつもりはないんですけれど、やっぱり記録ができるなら、しておいた方が良いと思うんです。

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ーー市原隼人さん演じる主人公の海人は、今作で描こうとするテーマを一番、体現していますよね。

門馬:彼は絶望に打ちひしがれて、自ら止まった時間の中にいる人ですよね。教師だった頃に、いじめられていた生徒が亡くなってしまったことを悔いていて、そのトラウマから逃れるためにひとり孤独にホテルの従業員をしている。完全に殻に閉じこもっているから、誰かが無理やりにでも扉を開けないと、一生解決できないタイプです。

ーー心に傷を持った青年の演技は、さすがでした。

門馬:清水美沙さん演じる、死んだ生徒の母親役の女性との掛け合いも素晴らしかったです。清水さんって、こう言うと語弊もあるかもしれませんが、陰湿な演技が本当に上手で。

ーー彼に向かって校歌を歌うシーンは、「世の中にこんな嫌がらせの方法があるのか」と衝撃を受けました。

門馬:あれ、実際に自分がされたら相当イヤですよね……。ちょっと演出として不自然にも思ったのですが、彼女に演じてもらったら良い意味ですごく気持ち悪い感じになって、納得しました(笑)。

ーー近藤芳正さんが演じるホテルオーナーはどういった役割ですか。

門馬:彼はストーリーテラーに近い役割で、冒頭から終わりまで、みんなの関係性をかき回しながら話を進めていきます。唯一、コメディアンとしての役割もあって、彼が余計なことばかりするおかげでみんなが動くんです。思い込みが激しいというか、なにかを妄信しているので、ちょっと狂っているひとでもあります。たぶん、現実にもこういう人は必要なんだけど、ちょっと鬱陶しいですよね(笑)。ただ、群像劇を撮るうえではすごく重要で、特に本作では主人公が動かないタイプなので、近藤さんの演技にかかっている部分は大きかったです。

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ーーお話を聞いていて、やはり緻密にキャスティングして各々のキャラクターを作り上げている印象です。監督はキャスティング・プロデューサーとしての実績も多いと思いますが、その際にどんなことを重視していますか?

門馬:まず作品のトーンがあって、それぞれのキャラクターのイメージが作られるんですけれど、そのキャラクターが抱えている悩みや絶望を表現するのに適した雰囲気を持った役者さんを見つけてくるというところですね。逆に言うと、そのキャラクターの内面をしっかり表現できるのであれば、最初の設定とは性別が違くても良い。たとえば今回、李麗仙さんの役どころはもともと男性だったんですけれど、今回の役どころ特有の演技をするうえでは、彼女ほど適役はいませんでした。清水さんにしても、いかに陰湿な部分を滲ませるかが大事だし、公輝さんもまた怖さを醸し出すことができるからキャスティングしています。今作に関していうと、さわやかさだとか優しさといったポジティブな側面じゃなくて、むしろネガティブな側面をどう表現できるかを重視していました。

ーーなるほど、キャスティングによって台本や設定に変更を加えることもあると。

門馬:そうですね。僕は脚本家のライオンさんと組む場合が多いのですが、まず台本を作って、そのキャラクターについて二人でよく話し合います。その際に大体のキャスティングのイメージを作って、あとはうまくハマるひとを探して、今度はその役者さんのリアリティを取り込んで脚本を調整していくという感じでしょうか。キャスティングが本当にうまくいけば、あとはこちらでいちいち芝居を付けなくても、うまく現場は回っていきます。キャスティングができた時点で、ほとんど8割方、完成が見えますね。特に今回のような群像劇であれば、なおさら。キャスティングが映画の仕上がりを大きく左右するというのも、群像劇の面白さの一つだと思います。この人とこの人を組み合わせると、どんな会話をするのだろうとか、作っていく過程でもいろんな発見があって、すごく楽しい現場でした。

(取材・文=松田広宣)

『ホテルコパン』門馬直人監督コメント
映画「ホテルコパン」予告編

■公開情報
『ホテルコパン』
2016年2月13日(土) シネマート新宿ほか全国順次公開
出演:市原隼人 近藤芳正 大沢ひかる 前田公輝 水田芙美子 栗原英雄 玄理 大谷幸広 李麗仙 清水美沙
監督・編集:門馬直人
脚本:一雫ライオン
主題歌:「もう、行かなくちゃ。」新山詩織
配給:クロックワークス
(C)2015 and pictures inc.
公式サイト:hotelcopain.com

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