『サウルの息子』ネメシュ・ラースロー監督インタビュー
「人類が破滅に向かう危機を感じている」カンヌグランプリ受賞作『サウルの息子』監督インタビュー
「人類が破滅に向かってしまう危機を感じている」
ーー『倫敦から来た男』で助監督を務められたとのことですが、タル・ベーラ監督から影響を受けたことはありますか?
ラースロー:タル・ベーラ監督から学んだ一番重要なことは、“どれだけ人に入り込める作り方をするか”です。彼の映画の中の主人公に、観客が自分の姿を投影したり意思疎通したりしたように、主人公の感情や考えに、観客がどれだけ同調できるか。そこはかなり意識をしたので、撮影スタイルなどの手法において、彼の影響をかなり受けています。
ーーサウル役のルーリグ・ゲーザにはどのような演出をされたのでしょうか?
ラースロー:自分の中でイメージしていたサウルを探すのはかなり大変だったのですが、今回サウル役をお願いしたルーリグ・ゲーザは、私生活面でも雰囲気的にも非常にサウルっぽい部分があったんです。撮影では、少し不自然な部分があったところは指示をして撮り直したりはしましたが、彼は性格的に自分の中にこもってしまうような、確固たる自分の世界観を強く持っている役者なので、特に細かい指示は必要ありませんでした。彼が本能的にサウルを演じてくれたので、部分的にサウル以上のものが出たのではないかと思います。
ーーキャスト・スタッフ含め、過酷な撮影を乗り越えるために何か心がけたことはありますか?
ラースロー:スタッフを信じていたというのはひとつあるんですが、基本的にこの映画はあの世ではないんですね。この世の地獄である。この映画で描かれるのは、地球上のある時代に、実際に行われていた普段の生活です。地獄のようなストーリー展開で、そのようなシーンもありますが、あくまでもこれは現実に起こったことなので、それを理解した上で、そういう頭で撮っていかないといけない。重要なのは、どれだけその世界に入り込めるか。なので、とにかくスタッフ全員で、その世界に入り込むことを目指し、撮影に挑みました。
ーーナチスが虐殺行為を行っていた時代と今のこの時代を比較して、共通するものはあると思いますか?
ラースロー:過去の歴史を辿ってみても、人類にはどうしても自殺や破滅行為などに傾いてしまう、本能的な動きがあるように思います。人類が抱える凶暴性や凶悪性というのが、最も大きくなったのが、第二次世界対戦の頃です。ナチスだけではなく、ソ連や中国も虐殺行為を行ってきたわけです。昨年パリでテロを起こしたISはもちろん、アラブやタリバンなどからも、その頃と同等の空気が漂っているように思うので、人類が破滅に向かってしまう危機は感じています。
ーー最後に、どのような人にこの作品を観てもらいたいですか?
ラースロー:基本的には、老若男女いろんな人に観てもらいたいです。でも、特に若い人に観てもらいたい作品ではありますね。
(取材・文=宮川翔)
■公開情報
『サウルの息子』
1月23日(土)より新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー
監督・脚本:ネメシュ・ラースロー
共同脚本:クララ・ロワイエ
出演:ルーリグ・ゲーザ、モルナール・レヴェンテ、ユルス・レチン
2015年/ハンガリー/カラー/ドイツ語・ハンガリー語・イディッシュ語・ポーランド語ほか/107分/スタンダード
原題:Saul Fia/英題:Son of Saul
配給:ファインフィルムズ
後援:ハンガリー大使館、イスラエル大使館
(c)2015 Laokoon Filmgroup
公式サイト:http://www.finefilms.co.jp/saul/