進化した怪獣映画『モンスターズ/新種襲来』は戦争の真実に迫る

戦争の真実に迫る『モンスターズ/新種襲来』

怪獣映画が描いてしまった、「アメリカの正義なき戦争」

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『モンスターズ/新種襲来』場面写真 (c)Subterrestrial Distribution 2014

 さて、本作『モンスターズ/新種襲来』は、舞台を中東地域の広大な荒野に移し、前作の規模をはるかに超えた戦闘を描いていく。そして今回も、やはりアメリカが、繁殖し続ける巨大生物を根絶やしにしようと、危険地域を空爆し続けているという設定だ。そして、その地域に配属されたばかりの新兵の視点から、前作では描かれなかった、怪獣との本格的な戦闘が展開される。

 作中に登場する中東の武装勢力は、怪獣と戦うアメリカ軍と敵対する。怪獣が動き回る危険地帯のなかで、両者は人間同士の果てしない戦争に突入しているのだ。アメリカ軍と武装勢力との、リアリティを重視した銃撃戦の描写は、まさに戦争映画『ハート・ロッカー』でのそれを思い出させる。戦いの間は両陣営とも、怪獣は完全にそっちのけで殺し合っている。本作は、両者の激闘と残虐行為を、前作同様にドキュメンタリー・タッチで描いていく。その長さとリアリティから、観客すら、この映画が怪獣映画であることを、ほとんど忘れてしまうだろう。それほどに、この映画は、とくにイラク戦争を描いた近年のリアリティを重視した戦争映画そのままなのである。

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『モンスターズ/新種襲来』場面写真 (c)Subterrestrial Distribution 2014

 アメリカ軍の新兵たちは、怪獣の出現する危険地域で、武装勢力を警戒しながら、行方不明になった兵士たちを捜索するという任務に就く。彼らは、怪獣や武装勢力を一掃し、安全地域と民主化政策を拡大することで、平和を望む一般市民に感謝されるものと考えていた。しかし、実際には彼らは、多くの現地人から恨まれているという現実に向き合わされることになる。アメリカ軍による、怪獣へのむやみな空爆が、一般市民に被害を与えていたからだ。劇中の被害者には、怪獣ではなく、むしろ米軍の空爆によって家族を殺されるなど、取り返しのつかない被害を受けている者もいた。そこで描かれる、現実に則した問題の深刻さは、もはや、よく怪獣映画で描かれるような「人間ドラマ」の枠を大きく超えている。むしろ、戦争を描いたドキュメンタリー作品の中に、ときどき怪獣が紛れ込んでいるといった、あらゆる意味で凄まじい内容になっている。

戦争の犠牲になる「モノ」たちの叫び声

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『モンスターズ/新種襲来』場面写真 (c)Subterrestrial Distribution 2014

 そして本作は、アメリカの戦争における正義の失墜や欺瞞を断罪しながらも、兵士ひとりひとりの苦悩や悲劇にも寄り添っていく。本作の主人公となるのは、デトロイト出身の貧しい不良青年たちだ。デトロイトを一度も出たことがない主人公・サムは、「ヤクの売人になるか兵士になるか」という絶望的な状況のなかでアメリカ軍に入隊し、「仲間に語れるような武勇伝が欲しい」というような軽い気持ちで中東の戦地に向かう。

 実質的に、貧しい田舎の青年達が戦地に行かされることになるという、格差社会を利用した「経済的徴兵制」は、アメリカ議会でも問題視されている、アメリカに突きつけられた「現実」だ。なかでもデトロイトは、近年メディアでも「惨めなアメリカの都市」1位に選ばれるなど、貧困層が多く治安が悪い都市として有名だ。かつて自動車産業の重要拠点となり活況を呈した街も、現在は廃墟や空き家が並び、犯罪多発地域と化しているのだ。

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『モンスターズ/新種襲来』場面写真 (c)Subterrestrial Distribution 2014

 サムが参加した実際の戦争は、彼らの想像をはるかに超えて過酷なものであった。命を懸けて怪獣や武装勢力と戦うなかで、アメリカ軍の爆撃に遭って家族を殺された現地人に詰め寄られ、サムは激しく動揺する。「アメリカの内側」にいた彼ら青年たちは、無邪気にも「アメリカの正義」を信じていた。そして戦闘では、正義とは真逆の、人間性を捨てることを強要されるのだ。ある兵士は正気を失い、「何故俺はここにいる?」と、サムに問いかける。戦争に参加した兵士たちが、深く心に傷を負い、社会生活や体調にまで異常をきたすという「PTSD」の問題にも、本作は切り込んでいく。現地の一般市民を殺戮し、大義名分を失ったアメリカは、自国の兵士の精神を破壊することで、その内側も蝕まれていたのだ。本作の兵士たちの叫び声は、地球に生まれ、目的も分からず、ただ一方的に爆撃を受けて殺されていく怪獣の鳴き声にもシンクロしていく。

 イラクに大量破壊兵器があるとして戦争に突入したアメリカの欺瞞を告発する戦争映画『グリーン・ゾーン』を撮ったポール・グリーングラス監督や、ギャレス・エドワーズ監督、そして本作の監督トム・グリーンなどのイギリス出身の映画監督は、アメリカの軍事行動に関して、アメリカ人の監督たちよりも比較的冷静に、より客観的でアイロニカルな感性を持っている。このように徹底したアメリカ批判を、作品の中で表現できるというのも、外国出身の作家による「外からの視点」を獲得した映画の特徴だといえる。それは非アメリカ作家が持ち得る「価値」であり、「武器」でもあるだろう。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

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『モンスターズ/新種襲来』ポスタービジュアル (c)Subterrestrial Distribution 2014

■公開情報
『モンスターズ/新種襲来』
1月9日(土)、新宿シネマカリテほか全国ロードショー
出演:ジョニー・ハリス、サム・キーリー、ジョー・デンブシー、カイル・ソーラー、ソフィア・ブテラ
製作総指揮:ギャレス・エドワーズ
監督・脚本:トム・グリーン
脚本:ジェイ・バス
撮影:クリストファー・ロス
2014年/イギリス/カラー/ビスタ/英語/119分/R15+
原題:Monsters: Dark Continent
配給:クロックワークス
(c)Subterrestrial Distribution 2014
公式サイト:http://monsters2-movie.com/

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