ウォシャウスキー姉弟の新境地! Netflixドラマ『センス8』が伝えるメッセージとは何か
物語の中では、世界各地に住む8人が繋がりを深めていく描写も丁寧に描かれている。最初は面識もなく、思考や感覚を共有できることに戸惑うばかりの8人が、さまざまな困難を乗り越えるたびに絆を強くしていくさまは、非常にドラマチックで感動的。このあたりは、優れたエンターテイメント作品を作りつづけてきたウォシャウスキー姉弟だけあって、抜かりなし。いわば、いろいろ考えながら楽しむも良し、娯楽性が高い作品として肩肘張らずに楽しむも良しというわけだ。
そうしたエンタメ性の象徴であるアクションも秀逸で、とりわけ、ペ・ドゥナ演じるサンの格闘シーンは絶品もの。サンは、一家で経営する投資会社の副社長でありながら、地下格闘技の世界で戦うファイターという顔も持つ女性である。その強さは、メインキャラクター8人の中で最強と言っていい。特に注目してほしいのは、エピソード12「引き返せば未来は変わる」での大立ちまわり。大人数を相手に、ひとりで敵をなぎ倒していくさまは本当に痛快だ。そこで見せるペ・ドゥナの表情も、うっとりするほどカッコ良く、その姿はまさにクール・ビューティーを体現している。
なぜ、このような作品を、ウォシャウスキー姉弟は作ったのか? まだ完結しておらず、答えを示すのは難しい。とはいえ、「これなんじゃないか?」というヒントはすでに劇中で示されている。ひとつは、エピソード6で登場するセックス・シーン。このシーンでは、思考や感覚を共有できるという設定を活かし、メインキャラクターのほとんどが交わってセックスをする。まるで、人種やアイデンティティーを越えて愛しあうことを言祝ぐかのように。
さらには、エピソード4で使われている、4・ノン・ブロンズの「What's Up」という曲。4・ノン・ブロンズは、1989年から1994年まで活動していたアメリカのバンド。「What's Up」はバンドにとって最大の、そして唯一のヒット曲。バンドのフロント・マンはリンダ・ペリーという女性で、「What's Up」をリリースする前にレズビアンであることを告白している。こうした背景を踏まえて、歌詞の一節を読んでみてほしい。
〈私には分かっていたの この世の中は男がコントロールしてる(中略)私は耐える 必死で闘っている いつもいつも必死に この慣習と闘ってる〉 (引用元:エピソード4の字幕より抜粋。4 Non Blondes/What's Up.)
「What's Up」は、社会的抑圧と戦う者の歌だ。そうした歌が象徴的に用いられたことは、『センス8』を深く理解するうえで重要なヒントになると思う。
『センス8』シーズン1の最終話は、船の上にメインキャラクターが勢揃いして幕を閉じる。もちろん、謎は多く残っている。8人の物語もまだまだ続くだろう。だが、確実に言えることがある。それは『センス8』が、土地、人種、言語、思想、性的指向などの違いを超越して、人と人が繋がることについて描いた作品だということ。そして、この繋がりこそが希望なのだということ。そんなメッセージを、ウォシャウスキー姉弟は『センス8』で伝えようとしている。
(文=近藤真弥)
■作品情報
『センス8』
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