菊地成孔がアルトマン映画のトークショーに登壇

アルトマン映画、菊地成孔トークショーレポ

 現在公開中のドキュメンタリー映画『ロバート・アルトマン/ハリウッドに最も嫌われ、そして愛された男』。その公開記念スペシャル・イベント第3弾となるトーク・イベントが、去る10月21日(水)、YEBISU GARDEN CINEMAで開催された。今回ゲストとして登壇したのは、リアルサウンド映画部でも連載記事を執筆している菊地成孔氏。「アルトマン初のドキュメントを語る」と題された、当日の模様を以下レポートする。

 満席となった最終回の上映後、舞台に登場した菊地氏。まずは、本作に寄せた「容貌も仕事ぶりもO.ウェルズをトレースしたかのようなアルトマンの、人情味溢れまくりの天才ぶり。我々は斜に構えるのはもう止めるべきだ」という自身のコメントについて解説。「『アルトマンという人は、すごい斜に構えているんだろうな。俺はそういうアルトマンの映画が好き!』っていう人が、20世紀にはいっぱいいて……その人たちは全員、斜に構えていたんですよ(笑)」と、従来の“アルトマン像”について語りながら、「だけど、この映画を観れば分かるように、アルトマン自身はものすごいストレートな人で、全然ツイストしていない。それどころか、結構脇がガラ空きの人だった。これはもう、斜に構えるわけにもいかないなと。(中略)本人の素顔は、こんなにもホーム・ムービーを撮りまくっていた人だったんですね(笑)」と、本作を観終えたあとに変化するであろう“アルトマン像”について語った。

 続いて、21世紀のドキュメンタリー映画の全般的な質の高さについて言及した菊地氏は、その理由として、アーカイブの豊富さを指摘する。「一世紀ズラして考えると分かりやすいと思うんですけど、20世紀に19世紀の偉人の映画を撮るというのは、すごい大変なことで……それは資料が少ないからなんです。ところが20世紀というのは、やはりモノが残っていますから、21世紀に20世紀の偉人のものを作ろうとすると、すごくマニアックで精密な資料が多い。だから、優秀なドキュメンタリーや伝記映画が量産されているんですよね」と、現在の状況を分析。それは本作についても同様であるという。なかでも、菊地氏が最も驚いたのは、劇中何度も登場する、アルトマンのプライベート・フィルム……先述した“ホーム・ムービー”の存在だったようだ。「そこに20世紀の偉人を21世紀にドキュメンタリー映画で撮るということの意味が表れています。このホーム・ムービーの存在を知っている人は、これまでほとんどいなかったんじゃないかな?」と、その稀少性を強調した。アルトマン夫人であるキャスリン・リード・アルトマンが提供した、貴重な“ホーム・ムービー”の数々。アルトマン自身がカメラを回したものから、その息子たちが回したものまで、撮影現場やプライベートなパーティなど、さまざまな場所で撮られたそれらの映像は、間違いなく今回のドキュメンタリー映画の見どころのひとつである。

 さらに菊地氏は、アルトマンがホーム・ムービーを撮っていたことの意味と意義について、独自の考えをめぐらせる。「本作のなかで、アルトマンの息子が、『収穫祭とクリスマス以外は(映画の仕事が忙しくて)、ほとんど父親と会うことがなかった』というようなことを言っています。そして、パパが年に2回帰ってくる日は、必ずホーム・ムービーを回していたと。これは、一見泣ける話のようで、実はちょっと微妙な話で……『実家に帰ったときくらい、カメラ回すのよしなよ』っていう(笑)。だけど、やっぱりアルトマンは、家庭をカメラに収めていくわけです」。それにしても、なぜアルトマンは家庭でもカメラを回し続けたのだろうか? その理由について、菊地氏は次のように推測する。「アルトマンは、相当マッチョな人だったと思うんですよね。そういう人が、“家長”でありたいと思って、(撮影現場のみならず)年に2回しか帰らない実家でも、映画を撮り続けていて……さらに、その実家に映画のスタッフも呼んで、ほとんど家族のように接している。もはや、家族が映画化しているのか、映画が家族化しているのか分からないわけです(笑)。“家族”と“映画”が一緒になっているから。そういう意味でも、アルトマンは本当に“群像劇”の人ですよね」。

 しかし、アルトマンは“家長”としてマッチョな人物であると同時に、フェミニンな視点も持っていたと菊地氏は指摘する。「『ロング・グッドバイ』というのは、私がいちばん好きなアルトマン映画ですけど、あれはアルトマンよりもさらにマッチョなレイモンド・チャンドラーのハードボイルド小説を、かなりフェミニンに描いたものなんですよね。ともすれば深刻になりそうな物語のトーンを……(主人公である)フィリップ・マーロウのとなりに、女性だけのヨガの集団が住んでいるのですが、彼女たちのシーンが映画の通奏低音のように流れることによって、映画がエロく、しかも面白くなっている(笑)。それは、単に彼女たちが裸だからというのではなく、斬新なフェミニスティックな視線で描かれているからなんです。そうやって、たまにアルトマンが抜く“フェミニズムの刀”みたいなものに、ちょっと痺れるんですよね」。さらに菊地氏は、アルトマン映画に共通する、ある独特な雰囲気についても自説を展開。「これは、私の個人的な“見立て”ですけど、アルトマンの映画というのは、どこか“乱交的”というか……もちろん、セックスによる乱交は一度も描いていませんが、アルトマンの映画は常に群像劇なので、なんとなく乱交の雰囲気というか、あちこちでフリーセックスが行われているような“乱交のエロティシズム”が、常にうっすらと漂っているんですよね。だから、アルトマンの映画は、どの作品を観ても、エロい気分になるんです(笑)」と、アルトマン映画の新たな見方を提示した。

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