ドラマ『コウノドリ』は「生まれる」現場をどう描いたか? 現役看護師が分析

 この作品の見どころは、産む人のいまを映し出したバックグラウンドと「生まれる」現場のチーム医療を忠実に描いたリアルな視点だ。

 原作者の漫画家鈴ノ木ユウは妻の出産を担当した産科医などの密な取材をもとに作品を描いている。産婦人科という、ともすれば女性や子供の聖域と認知されやすい領域を医療現場として俯瞰的かつ多角的に捉え、そこに他の作品にはない「生まれる」現場の客観性と説得力を感じる。

 かくいうわたしも医療者のはしくれとして日々現場に立つ。その視点でこのドラマを評するとすれば、江口のりこ演ずるメディカルソーシャルワーカーという職業にスポットが当たっているのも特筆したい点である。メディカルソーシャルワーカーとは保健医療機関において、社会福祉の立場から患者やその家族の方々の抱える経済的・心理的・社会的問題の解決、調整を援助し、社会復帰の促進を図る仕事だ。今回の「未受診妊婦」においては、借金を抱え、頼る人もおらず、自らの今後を案じているうちに出産に至ってしまった矢野という若い女性にとって、実に大きな支えとなった。医療現場においてのメディカルソーシャルワーカーの果たす役割はいまの世の中において注目されていることが伺える。

 「普通とは実はものすごく恵まれている」「すべては平等ではないから、恵まれない環境で生まれてくる命もある」。この作品の核となる台詞が詰め込まれた第1話。今橋が鴻鳥に言った「僕らは崖っぷちから転がり落ちそうな親子をここで精一杯受け止めよう」という言葉は、まさに「生まれる」現場のいまを象徴し、これからのストーリー展開を示唆するものだ。

 幼い頃から児童養護施設で育った背景を持つ産科医鴻鳥を演ずる綾野剛、同僚にも妊婦にも冷徹な態度をとる四ノ宮演ずる星野源、家族を省みる時間もなく、NICUで生命と向き合う今村演ずる大森南朋……核となる3名の医師たちの徐々に表出していく人間像は、今後出会うさまざまな生命の場面で、どんなドラマを紡いでいくのだろうか。

■内藤裕子
ライター。2004年より雑誌の編集、WEB企画、商品企画をメインに、イベント企画、総務、人事、広報を経てクリエイターのマネージメントに携わる。現在看護師として働く傍ら、写真関連のUstreamの企画構成にも携わる。

引用文献
http://www.metro.tokyo.jp/INET/CHOUSA/2011/12/DATA/60lcr200.pdf
https://www.jaswhs.or.jp/guide/sw.php

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる