『孤独のグルメ』が支持され続ける理由とは? 淡々と紡がれる物語の魅力を読む

 原作者や料理店などフィクションでありながら実在するものが多数登場する本作は、ドラマというジャンルに属しているが情報バラエティ番組のように見られている側面も大きい。近年のバラエティは、予算をかけた盛大な番組が視聴率をとれなくなってきている一方で、タモリが特定の街を歩きながらその街の歴史に触れる『ブラタモリ』(NHK)や、蛭子能収と大川陽介が出演する『ローカル路線バス乗り継ぎの旅』(テレビ東京系)のような出演者があまり力まずに淡々と楽しんでいるような番組が支持されている。

 『孤独のグルメ』の人気も、そういった側面があるのではないだろうか。

 劇中で登場した料理店に視聴者が訪れることも多いという。もちろん、劇中に登場したおいしい料理が食べたいから多くの視聴者はお店を訪ねているのだろうが、そこにいけば井之頭五郎が実在するかのような地に足のついたリアリティが常に存在するため、アニメで背景に使われたロケ地を訪ねる聖地巡礼のような面白さが、本作にはあるのだろう。それにしても、本作で一番謎なのは井之頭五郎の存在だ。

 本作は毎回、様々な料理が登場するグルメドラマであり、五郎は料理を紹介するナビゲーター的存在である。そのため、彼自身の物語が大きく展開されることはほとんどない。

 せいぜい、仕事でお世話になっている客から愚痴を言われて落ち込んだりするくらいだ。しかし、五郎が仕事とで関わる人々との人間関係を見ていると時々、彼の物語がこぼれ出すことがある。

 つまり一話一話はグルメドラマとして美味しい料理を楽しめる一方で、ロングスパンで見た時には、井之頭五郎という人物の輪郭が少しずつ浮かび上がってくるのだ。これは、長く続けてきたことで出てきた、もう一つの面白さだと言える。

 今年でSeason15を向かえる刑事ドラマ『相棒』(テレビ朝日系)にも同じことが起きている。『相棒』もまた、毎回一話完結の良質のミステリーのような物語が展開され、主人公の刑事・杉下右京(水谷豊)は、物語の進行役である。しかし、長く続くことで右京をとりまく人間関係はどんどん変わっていき、今では、杉下右京サーガとでも言うような物語となっている。これは、長く続けば続くほど厚みが増していくテレビドラマならではの物語性だろう。

 次回放送の第4話と第5話では舞台が台湾となり、ドラマ初の海外ロケとなる。出てくる料理も楽しみだが、海外を舞台にすることで立ち現れる五郎の物語も注目だ。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

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