ワイルドなTボーンから霜降り和牛までーー『ステーキ・レボリューション』が描く空腹のストーリー

『ステーキ・レボリューション』レビュー
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 一度の食事を最大限に楽しむには、2つの意味で“ストーリー”が必要だ。

 言うまでもなく、食材や調理法の背景、生産者のこだわりや調理技術の開発/進化という物語を知っていれば、料理をより深く味わうことができるだろう。

 一方で、その料理がどうしても食べたくなる物語を事前に楽しむことでも、食事の満足度は大きく変わる。例えば、それが一本の缶ビールでも、原作を忠実に再現する藤原竜也の演技が話題を呼んだ『カイジ 人生逆転ゲーム』を観た後なら、最高のごちそうになる。過酷な強制労働、蒸し暑いタコ部屋、そして“キンキンに冷えた”缶ビール――そんな描写が、観るものの渇望を呼ぶからだ。

 そんな2つの要素を併せ持ち、観客の腹を鳴らすことに成功しているのが、“ステーキをおいしく食べるための食前ムービー”を謳う『ステーキ・レボリューション』(10月17日公開)だ。世界で一番おいしいステーキを探すため、全世界20カ国、200を超えるステーキハウスを巡り、監督自身が2年間にわたって旅をしたドキュメンタリーで、ワイルドなTボーンから霜降り和牛まで、それぞれに魅力的なステーキが登場する。

 多くの日本人は、和牛を世界一の牛肉と考えているのではないか。しかし本作を観ると、アメリカ、アルゼンチン、イタリア、スウェーデン、スペインなど、国により肉牛が独自の進化を遂げていることが分かり、そのどれもが魅力的に映る。スウェーデンではMBAを持つ物理博士が、穀物飼料を使わずに和牛を飼育し、その肉が驚きの高値で取引されていた。またスペインでは、牛の種類ではなく“性格”にこだわり、10年、15年と丹精を込めて育てるケースも。一般的な肉牛の肥育期間は約30カ月で、優にその3倍以上の年月をかけて熟成された肉は神々しくもあった。

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 と、それぞれの肉、ステーキがまさに“役者”で、それだけで画がもってしまうのだが、本作はむしろ、生産者や料理人の姿にフォーカスしている。和牛にクラシックを聴かせる日本の農家、地元の原種にこだわる若きフランス人女性、精肉店を切り盛りする傍ら、陽気にステーキを焼くイタリアのオヤジ――フランク・リビエラ監督は、自身の独断による「世界のステーキ・ベスト10」という体裁はとってはいるが、すべての国や人を尊重し、優劣を強調することはない。あくまでステーキをより楽しく、深く味わうためのヒントとして情報が等価に並べられており、自国のステーキが何位だろうと、目くじらを立てる観客はいないだろう。日本の食肉文化も大きく取り上げられているので、ぜひお楽しみに。

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