成馬零一の直球ドラマ評論
ホームドラマとドキュメンタリーの融合ーー『2030かなたの家族』が描く“変容”とは?
テレビドラマというのは実に雑多な映像表現で、平気でいろんなものを取り込んでいく。例えば、未来から来た時空ジャーナリストが、歴史上の出来事をドキュメンタリータッチで実況中継する『タイムスクープハンター』や、有名人の家族の歴史を徹底取材してドラマ化する『ファミリーヒストリー』。
近年、NHKは、こういった情報バラエティやドキュメンタリーの要素を取り込んだドラマと言い難いドラマに力を入れているのだが、壮大な試みとして注目されたのが『NHKスペシャルNEXT WORLD私たちの未来』だ。医療やロボット工学の発展によって、未来がどのようなものになるのかを、綿密な取材に基づいたドキュメンタリーとドラマの二本立てで放送し、多くの視聴者を圧倒した。
今回取り上げる『2030かなたの家族』は、その未来シリーズの間接的続編とでも言うようなドラマだ。10月3日(土)に放送されるドキュメンタリー『2030年家族がなくなる』と連動した、2030年の日本を描いた、ある家族の物語である。
ドラマはロボットメンテナンスの仕事をしている板倉掛(瑛太)を狂言回しにして、近未来の日本とそこで暮らす人々の姿を描いていく。掛の妹の絵美衣(連沸美沙子)はグローバル企業に務め、海外赴任をしている。父親の透(利重豊)は、かつて自分が開発に関わっていた過疎化したニュータウンで今も暮らしながら、街の再生を夢見ている。離婚した母親の佳子(小林聡美)は、75歳以上の住人だけが暮らす街自体が高級老人ホームのような「永遠シティ」の運営に関わっている。祖父母も佳子の口利きで、シティ内の仕事をしながら、この街で暮らしている。絵美衣の海外転勤をきっかけに、バラバラに暮らしていた家族。しかし掛は、ルームメイトだった女性から、「あなたの子どもがほしい」と言われたことをきっかけに、自分の家族と向き合うようになり、やがてお互いが抱えている孤独に気づいていく……。
本作の見どころは二つ。一つは精密にシミュレーションされた近未来の都市の描写。かつて核家族が暮らし、戦後社会の新しい家族像の象徴だった郊外のニュータウンは、2020年の東京オリンピック以降、人口が減少しており、逆に都心には人口が戻ってきている。75歳以上の人々だけが暮らしている「永遠シティ」では、「高齢者」という言葉が禁句とされており、人々はゼグウェイで移動し、健康管理のための機械を身につけている。小型ロボットといったSF的なガジェットが当たり前に登場する近未来の描写は、ダラダラ見ているだけでも楽しめる。
もう一つの見どころは、これだけ近未来のディテールを重ねたSF作品でありながら、本作がホームドラマであるということだ。1940年にテレビの試験放送で流された、すき焼きを囲む母子家庭の姿を描いた『夕餉前』以降、日本のテレビドラマは常にホームドラマと共にあった。家族という枠組みが盤石なものとしてあったからこそ、家族の崩壊や、家族の暗部を描いた『岸辺のアルバム』(TBS系)や『阿修羅のごとく』(NHK)といった傑作も生まれた。舞台こそ近未来だが、本作もまた、そんなホームドラマの伝統の上に存在する作品だ。
脚本を担当した井上由美子は、昨年話題となった不倫を題材にしたドラマ『昼顔~平日午後3時の恋人たち~』(フジテレビ系)を筆頭とする硬質な社会派エンターテイメントを得意とする作家だ。山田太一や向田邦子の影響を強く受けている彼女が書いた本作は、さながらSF版『岸部のアルバム』とでもいうような作品である。