ディザスター・ムービーの新境地へ 『カリフォルニア・ダウン』のリアルとスペクタクル

『カリフォルニア・ダウン』が拓く新境地

 ドウェイン・ジョンソン主演のパニックアクション映画『カリフォルニア・ダウン』が9月12日に公開された。今年5月の全米公開と同タイミングで一度は日本公開がアナウンスされるも、諸事情によりまさかの無期限公開延期。この度、満を持しての日本公開となった本作は、ディザスタームービーというジャンル映画でありながら、これまでに観たことがないような、“スペクタクル”と“リアル”を兼ね備えた、ディザスタームービーの新境地を切り開いた作品だ。

 監督は『キャッツ&ドッグス 地球最大の肉球大戦争』や『センター・オブ・ジ・アース2 神秘の島』などを手がけたブラッド・ペイトン。これまでのコメディやファミリー向けの作風からガラッと路線を変更し、我々の身近にも起こり得る“大地震”をテーマに、ディザスター・ムービーというジャンルに挑戦している。 ディザスター・ムービーといえば、『デイ・アフター・トゥモロー』や『2012』などで人類滅亡の危機を描いてきたローランド・エメリッヒが真っ先に頭に浮かぶだろう。当時の最新技術からさらに進化を遂げた最新の視覚効果や3D技術を駆使し、ブラッド・ペイトンは本作を、ローランド・エメリッヒにも対抗しうる、迫力満点の見応えある作品に仕上げている。

 「カリフォルニア・ダウン」という、日本でいえば『日本沈没』のような、なんともダイナミックな邦題がついているが、原題は『SAN ANDREAS』。この『SAN ANDREAS』とは、米カリフォルニア州南部〜西武にかけ、1300キロにわたって存在する超巨大地層、サンアンドレアス断層のことである。このサンアンドレアス断層が起源となる大地震が発生し、ロサンゼルスからハリウッド、サンフランシスコまで、邦題の『カリフォルニア・ダウン』が意味するとおり、まさにカリフォルニア中を大パニックに陥れるのである。

 本作はこの大地震が骨格となり、大きく分けて2つのストーリーが並行して展開していく。ひとつは、ドウェイン・ジョンソン演じるレスキュー隊員レイが、家族を救うために絶体絶命の危機を幾度となく乗り越えていく救出劇。そしてもうひとつは、ポール・ジアマッティ演じる地震学者・ローレンス教授が、メディアを通じてカリフォルニア中に注意を喚起しようとする、全編を通しての進行役ともなるストーリーだ。前者のストーリーの中では、レスキュー隊員レイの娘と、彼女が地震発生直前に出会ったイギリス人青年(とその弟)が、父親譲りの災害対策知識を駆使し、ただ逃げ惑うだけの民衆とは異なった行動をとりながら、難を逃れていく様も緊張感溢れる演出で描かれていく。

 ダムの決壊に始まり、高層ビルやゴールデンゲートブリッジの崩壊など、地震と津波が巻き起こす壮絶な状況をあまりにもリアルに描いているのが本作の最大の魅力と言えるだろう。ストーリー中盤、ロサンゼルスの高層ビル上階にある高級レストラン内で、レイの妻・エマが大地震に遭遇する場面が描かれるが、このシーンは迫力満点のワンカットで展開される。エマの視点で始まる一連のシーンは、エマがレストラン内から非常階段、そしてレイの助けを求めて屋上まで移動していく様子がノーカットで撮影されている。絶妙なタイミングで撮り上げられた逃げ惑う人々の動きと、リアルを追求した視覚効果で編集された崩壊していくビルの様子。これにはどうやったらこんな画が撮れるのかと目を疑うほどである。それに加え、ヘリコプター、乗用車、飛行機、そしてモーターボートまで、ありとあらゆる乗り物をほぼスタントなしで乗りこなし、苦悩を抱えながらも、愛する家族を助けるために奮闘する“ザ・ロック”ことドウェイン・ジョンソンの姿は文句無しにカッコいいのである。人々を救うのが仕事であるレスキュー隊員が、仕事そっちのけで家族を助けに行ってしまうという行為は、公私混同以外の何物でもないが、まぁこれはあくまで映画なのでそこまで気にはならないだろう。人間の本質を何の飾りもなく描き、家族を救うために命がけで奮闘する姿には、むしろ好感がもてるとも言える。

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