リアルな匂いや手触りを表現する――チェコのパペット映画『クーキー』の"新しい懐かしさ"

パペット映画『クーキー』監督が語る

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『クーキー』/(C)2010 Biograf Jan Svêrák, Phoenix Film investments, Ceská televize a RWE.

リアルな匂いや手触りを感じるものにしたかった

――現実の自然を描くということに一貫してこだわっているからこそ、ぬいぐるみが主人公でもアニメーションではなくパペットによる実写撮影にこだわった。しかし、監督にとっては実写とはいえ、パペットが主体の撮影は初めての挑戦。苦労されたことが多かったようですね。

ヤン:そうだね。私ももちろん、ディズニーやピクサーのアニメーションは息子と一緒に楽しんでいる。だけど、そういったメインストリームとは対極にある手法でこの物語を描きたかったんだ。リアルな匂いや手触りを感じるものにしたかった。とはいえ、この映画の撮影はまるで悪夢のようだったよ!(笑) 当初は35日間の予定だった撮影期間は100日にのびてしまったし、映画撮影クルーもいつも一緒にやっている6人のミニマムなメンバーで行う予定だったけれど、それも最終的には60人ものチームになってしまっていたんだ。これは、普通の実写映画を撮るのと変わらない人数だよ! 森に差し込む太陽の光は常に変化するし、主人公たちが芝居をするのに最適な森の雰囲気、彼らが暮らす木を1本探すのにもチェコ中を移動しながら行ったからね。また、映画にはたくさんの動物たちも出演している。リスや小鳥、犬だけでなく、トンボやハチといった昆虫たちもね! 彼らとパペットのシーンをリアルに合成するのにはCGの技術が役に立ったよ。その作業でもまた、スタッフが増えてしまったけれどね。動物たちの撮影も根気のいる仕事だよ。彼らが私のイメージに合うように動いてくれるまでスタッフは何時間も待って、辛抱強く撮影を続けてくれたんだ。

――物語では、捨てられたテディベアのクーキーと年老いた森の村長ヘルゴットがゴミ捨て場から脱出し、森を抜け、街を目指します。若いクーキーと年寄りのヘルゴットのバディ関係は『コーリャ 愛のプラハ』の主人公たちのように年の差をこえて互いに影響を与えます。2匹(?)のユニークなキャラクターはどのように生まれたのでしょうか。

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『クーキー』/(C)2010 Biograf Jan Svêrák, Phoenix Film investments, Ceská televize a RWE.

ヤン:クーキーの持ち主であるオンドラ役とクーキーの声を演じたのは、私の息子、オンジェイだよ。彼は当時8歳だったけど見事に演じてくれた。また、ヘルゴットの声を演じたのは、父のズデニェクなんだ。信頼できる家族に任せたことで説得力のある関係を描くことができたと満足しているよ。クーキーとヘルゴットは父親と息子のようであり、親友同士のようでもある。クーキーの子供の純粋さを描くために、ヘルゴットのような老いた存在が必要だったんだ。クーキーはナイーブでデリケートな少年で、勇気や行動力もある。ヘルゴットは、昔はメイドインチャイナのおもちゃだったんだ。それが捨てられ、森の中で長い年月をかけて自然と一体化していった。老いていて、もう目もよくみえない、悲しい生き物なんだ。

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『クーキー』/(C)2010 Biograf Jan Svêrák, Phoenix Film investments, Ceská televize a RWE.

――チェコはパペット・アニメーション大国として知られています。ヤン・シュバンクマイエルやイジー・トルンカなど、世界的にも巨匠と評価されるアニメーション作家も多数いますが、今回の映画ではそういった過去の名作を参考にする場面などはあったのでしょうか?

ヤン:今回の撮影ではストップ・モーションの技法は使っていない。だから、具体的に過去の名作を見返すことはなかったね。過去を参考にするよりも、新しいテクノロジーやアイデアでパペットの映画を作りたいと思っていたんだ。人形アニメを制作しているアニメーションスタジオに基本となる人形の動かし方を教えてもらったりはしたよ。ぬいぐるみの片方の脚を軸足にしてホッチキスで固定してから動かすと動かしやすいとかね。そういったトリックはかなり学んだよ。イマジネーションの部分では、自身の子供時代に観ていた人形アニメーションの記憶を振り返るだけで十分だったよ。もともと、私はアニメーションや人形劇をやりたいと思って30代のころに映像の世界に入ったんだ。今回は、そんな初心に戻る、いいきっかけになったんだよ。僕は今、50歳。初心に戻って何かをまた何かを目的をもってやりはじめるのに遅過ぎるっていう年齢ではないと思うんだ。『クーキー』での経験は、自分の子供時代のこと振り返り、そして映像作家としてのキャリアを原点に戻してくれた。それだけでも、とても意味のある作品だと思っているよ。

■公開情報
『クーキー』
公開:8月22日より、新宿武蔵野館ほか全国順次公開!
配給:アンプラグド
公式サイト

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