中原昌也×宇野維正 連載対談「試写状が来ない!?」第1回
「つまんなすぎると、逆にじっくりと観ちゃう。『イニシエーション・ラブ』とか」
宇野:あ、そうだ、思い出した。「試写状が来ない」とか言ってたけど、『神々のたそがれ』の試写の時に会ったじゃん!
中原:そうだった。まぁ、今のところ今年一番良かったのはアレだね。
宇野:最初に言ってよ! なんだよ『アニー』って!
中原:『神々のたそがれ』はねぇ、もう3回観たねぇ。
宇野:それはすごい。あの3時間、話が進んでるんだか進んでないんだかわからないような作品を。
中原:長いから、毎回どっかで寝ちゃうんだよね。だから、3回観てようやく話がちゃんと繋がった。
宇野:(笑)。
中原:いや、でも圧倒されたね、あれは。POV(Point of View Shotの略。カメラの視線と登場人物の視線を一致させた手法)みたいなことやってるんだけど、全然POVになってないところとかもすごい。まぁ、原作読んでないと全然わからないよね。
宇野:逆に、原作読んでたらあれがわかるの?
中原:いや、それがあまり関係ないんだよ(笑)。いやー、それにしてもおもしろかったなー。また観たいなー。
宇野:まぁ、こうやって話してると、20年前と全然映画の観方は変わってないね。これは自分についても思うけど、やっぱりどこかでできあがっちゃうのかなぁ。こんなに映画を観てるのに、観方が変わらないっていうのはちょっと切なくもあるなぁ。
中原:毎回、映画を観る時は新鮮な気持ちで観てるんだけどね。なんでも観るって姿勢でありたいともずっと思ってるしね。
宇野:まぁ、その「なんでも観る」っていうのが、すでにどこかがおかしくなっちゃってる証拠なんだろうけど。自分も映画を観てる時間が一番幸せだからなぁ。
中原:幸せも不幸もなく、何もかも忘れられるってだけだな。
宇野:それが幸せってことなんじゃないの?
中原:そうなのかね。
宇野:つまんない映画を観てても途中で寝たりしない?
中原:つまんなすぎると、逆にじっくりと観ちゃうね。『イニシエーション・ラブ』とか、一瞬も目が離せなかった。
宇野:『イニシエーション・ラブ』! 本当になんでも観てるね! 試写じゃなくて、ちゃんとお金払って観たんでしょ?
中原:オネエちゃんに付き合ってね。チケット代は出してもらった。
宇野:(笑)。オチにビックリした?
中原:ビックリするかよ!
宇野:しなかったか(笑)。
中原:そもそもちゃんと話が繋がってない! ......でも、木村文乃がかわいかったから全部許せたけどね。
宇野:木村文乃いいよね。
中原:あの人は綺麗なお嬢さんだよ......。
宇野:そんなしみじみ言われても。
中原:......あ、一つ思い出したよ。『トゥモローランド』は大好きだった。
宇野:あれ僕も大好き。なんであんなに評判悪いんだろうね。
中原:俺も「好きだ」って言ってる人にこれまで会ったことなかった。
宇野:いや、だって、普通にメチャクチャおもしろいでしょ。
中原:『トゥモローランド』って空虚な映画なんだよね。バカみたいにでっかい建物を見てる時の空虚な感じっていうかさ、そういう感覚を刺激してくれる作品だったな。宗教っぽいとか言う人もいるけど、宗教とは違うよ。
宇野:あとあれ、選民思想とか言ってる人もいるよね。でも、たとえば最後のところで、『トゥモローランド』に行けるバッチをもらうしょうもないストリートミュージシャンのどこが選民なんだ?って話で。
中原:まぁ、選民思想っちゃ選民思想なんじゃないの? でも、ああいう世界があったらいいなって、俺は素直に思っちゃったけどね。
宇野:ああ、そう?
中原:もうさ、目の前にあるこの国の政治のこととか考えるとさ、なんにも期待も持てないしさ。あー、どっかに『トゥモローランド』みたいな別の世界があったらいいなって。
宇野:そ、そうなの?
中原:もうさ、現実を変えようがないとしたらさ、この目に見えるこの世界で闘争したりするんじゃなくてさ、人々は新しい次元へと自分の意識を切り拓いていくしかないんじゃないかなって。
宇野:ちょ、ちょ、中原くんなに言ってるの? そういうのから一番遠い人だったじゃない?
中原:うん、一番遠いよ。そんな俺でもさ、さすがにここまで現実がひどいことになってくると、最近はそういうことを考えちゃうんだよね。なんかあの作品を観てたら切なくなってきちゃったな。人類には『トゥモローランド』が必要だよ。
宇野:オッケー、今日は飲もう。
■公開情報
『ターミネーター:新起動/ジェニシス』
7月10日(金)全国ロードショー
配給:パラマウント ピクチャーズ ジャパン
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『マッドマックス 怒りのデス・ロード』
2015年6月20日(土)上映中 [R-15] / 上映時間:120分 / 製作:2015年(米)
配給:ワーナー・ブラザース映画
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