小野不由美『十二国記』7年ぶりの新作から新創刊レーベルまで 書評家・嵯峨景子が選ぶ「今読むべきライト文芸」5選

『少女小説を知るための100冊』や『少女小説とSF』などの著作で知られる書評家の嵯峨景子が、近作の中から今読むべき注目のライト文芸をピックアップして紹介する連載企画。今回は小野不由美「十二国記」シリーズ新作から新創刊の「アース・スター文庫」注目作まで、5タイトルをセレクト。
壁井ユカコ『後宮を欺かば 愛され下手な奴婢ですが』(講談社タイガ)
『2.43 清陰高校男子バレー部』や『キーリ』シリーズなどで人気の壁井ユカコが贈る、激重感情が渦巻く中華後宮譚。
役者だった父を殺され、奴婢の身分に落とされた少女・未寒。過酷な労働に耐える彼女にとって唯一の心の支えは、裕福な商家の娘・玻瑠だった。二人は身分の壁を越えて密かに友情を育み、強い絆で結ばれていく。玻瑠は皇太子の妃候補として後宮入りが決まっており、未寒も侍女として同行するはずだった。しかしその矢先、玻瑠が恐ろしい事件に巻き込まれてしまう。事件の黒幕を突き止めるため、未寒は仮面で素顔を隠し、玻瑠の身代わりとして後宮に乗り込んだ。互いを蹴落とし合おうとする妃候補たちや、皇太子としての足場がいまだ危うい多聞、多聞に忠誠を誓う官吏・祥葵――。それぞれの思惑が交差する後宮で、未寒の孤独な戦いが始まった。
奴婢として希望もなく、卑屈に生きてきた未寒にとって、聡明な玻瑠の言葉は世界を一変させる希望の光であった。二人を結ぶ友情が尊いからこそ、その後の展開や未寒の覚悟の重さが胸に迫る。不条理な世界の中で、それでも諦めることなく立ち上がる未寒の姿を描く、激動の物語。今後の展開からますます目が離せない、期待の大型シリーズである。
小野不由美『幽冥の岸 十二国記』(新潮社)
シリーズ累計1400万部を突破した大ヒット作『十二国記』の、7年ぶりとなる新作『幽冥の岸』。シリーズの集大成ともいえる『白銀の墟 玄の月』に繋がる、戴国を舞台にした4編を収録した短編集だ。
戴国は十二国の中でも北方に位置する国で、麒麟・泰麒に選ばれた驍宗が即位した。ところが、将軍・阿選の謀反により、驍宗は消息不明となり泰麒も姿を消してしまう。内戦によって混乱し、荒廃した戴国の命運を追った『白銀の墟 玄の月』に対し、『幽冥の岸』は本編を補完するサイドストーリーを、複数の時間軸から語ってみせる。
戴国を揺るがした阿選の内戦とその後を民衆の視点から綴り、戦争の傷跡を浮き彫りにする「戦城南」。王になる前の驍宗と、黄海に暮らす娘・琅燦の邂逅を描いた「異邦の客」。虐げられてきた浮民の少女・白玉が、驍宗奪還をもくろむ人たちと関わる中で自らの人生を選び取る「夢の結び」。国のために自ら剣をふるい、人を殺すという禁忌を犯したことで病んでしまった麒麟・泰麒の姿が胸をえぐる「幽冥の岸」。
どの短編も逸品だが、「戦城南」の残酷かつ容赦のない死の描写と、単純な善悪には切り分けられない人間の行動がとりわけ胸に沁みた。また表題作の「幽冥の岸」は、泰麒や戴国に加えて、シリーズ第1作の『月の影 影の海』(※)の主要キャラも登場して重要な役割を果たすなど、ファン必見の内容である。
※『魔性の子』はシリーズ序章とされている。
野梨原花南『岬の魔女と頂の姫』(アース・スター文庫)
新創刊されたアース・スター文庫。創刊ラインナップの中でも特に注目したいのが、『ちょー美女と野獣』著者が手掛ける新作だ。
豊かな国・トーリンリマン。この国には「リートリートの鐘」を鳴らした“頂の者”と、その音に導かれた“岬の者”が出会うことで、国の繁栄が保たれるという言い伝えがあった。しかし、現国王である“頂の者”は事故で妻と王子を亡くして失意から酒に溺れ、国の実権は“岬の者”である魔法士・ガンダに握られている。ガンダによって長年幽閉されてきた国王の娘のリッタ姫は、ガンダが隠していた真の「リートリートの鐘」を見つけ出し、鳴らすことに成功する。
その鐘の音を聞きつけ、王宮を目指して旅立った一人の少女がいた。彼女の名前はルル。魔法学院に捨てられた孤児のルルは、過酷な環境の中で死者たちから魔法を学び、類まれな力を身につけた。旅の途中でルルは、亡くなったはずの王子・アンザハン——リッタ姫の兄と出会う。二人は力を合わせてガンダからの妨害を乗り越え、王宮へと向かうのだが……。
すべての自由を奪われていたリッタ姫と、魔法学院で虐げられて育ったルル。二人の少女の怒りから始まる反逆の物語は、冒頭からアクセル全開で読者を物語世界に引き込んでいく。しかし読み進めるにつれ、腐敗した王宮や壮大な建国神話の裏に隠された事情が明かされ、物事はそう単純ではないと気づかされるだろう。自由のために立ち上がった少年少女の姿に胸が躍る、極上の冒険譚である。
木爾チレン『あの子しか行けない天国』(小学館)
『二人一組になってください』で話題の著者による、究極の選択をテーマにした物語。
18歳の女性が自らの寿命と生き方を選ぶ「選択制度」が義務付けられた日本。『Ⅰ』を選ぶと、その女性は18歳時点の容姿と身体機能を保ったまま老いることはなく、45歳で死を迎える。一方で、『Ⅱ』を選んだ者は従来通りに歳を重ね、寿命まで生きることができるのだった。
『Ⅰ』の象徴的存在である女優の母を持つ紗月と、『Ⅱ』を選択した母親から生まれ、アイドルに憧れる莉々依は親友同士。迷いなく『Ⅰ』を選んだ莉々依は、紗月も自分と同じ選択をするはずだと疑いなく信じている。二人は高校卒業後にそれぞれの夢を叶え、紗月は俳優、莉々依はアイドルとして歩み始める。しかしある時期を境に、二人の歩みは大きく隔たっていくのだった。
老いることに恐怖を抱く女性にとって、若さを保ったまま生きられるという新しい選択は、一見すると夢のように思えるだろう。だが時が経つにつれて、その代償として受け入れなければいけない「45歳での死」という選択の重さがのしかかってくる。『Ⅰ』と『Ⅱ』どちらを選んだとしても、後悔しない生き方をすることは難しい。外見や若さばかりがもてはやされ、他人の価値観に流されやすい今だからこそ、本作の刺激的な問いと向き合い、自分が本当に大切にしたいものを見つめ直したい。
はれはる『図書館の魔法は静かに始まる』(一二三書房)
書物を愛してやまない高校生の文乃はある日、図書室の窓から転落してしまう。目を覚ますとそこは、中世ヨーロッパを思わせる異世界だった。なぜかその世界の失われた古代文字を解読できる文乃は、「稀人」としてリュクサール王国第一王子・レオネルの後ろ盾を得て、王立図書館の司書に抜擢される。文乃に課された仕事は、王立図書館に眠る膨大な古文書を解読することだった。
「魔法の万年筆」というチート能力も手に入れた文乃は、書物に囲まれながら大好きな読書に没頭。古い文献から得た知恵と現代の知識を生かし、国を揺るがす事件や人々の困りごとを次々と解決する。一方、そんな彼女の存在が気になって仕方がないレオネルは、何かと理由をつけては王立図書館へ足繁く通うものの、本の虫の文乃からつれなく扱われてしまうのだった。
文乃は異世界転移ものらしい特別な能力を手に入れるが、数々の事件を解決する原動力は、彼女の強い知識欲や正義感だ。数ある事件の中でもとりわけ強い印象を残すのが、領土問題をめぐる開戦の危機を、戦争反対派の第二王子・ノエルと協力して回避する一幕。冴える知略から突っ込みどころ満載な手法まで、あらゆる手段を駆使する文乃の頼もしさが光るエピソードである。好奇心にあふれた少女の特別な読書体験と冒険を楽しめるビブリオ・ファンタジーだ。





























