月刊オカモトショウ
オカモトショウが推す“次にくるマンガ”は? 『ラットコレクティブ』『二月に殺して桜に埋める』の魅力を語る
ロックバンドOKAMOTO’Sのボーカル、そして、ソロアーティストとしても活躍するオカモトショウが、名作マンガや注目作品をご紹介する「月刊オカモトショウ」。今回取り上げるのは、2026年の日本を舞台にしたSF作品『ラットコレクティブ』(大村知空/講談社)、“ハードコア受験バトル”を掲げた『二月に殺して桜に埋める』(鳥トマト/白泉社)。話題になること必至の2作品をいち早くチェック!
『ラットコレクティブ』から滲み出る『AKIRA』の血脈
——『ラットコレクティブ』のキャッチコピーは「未曾有の”超感覚・覚醒的SF”」。SFマンガの金字塔『AKIRA』(大友克洋/講談社)の影響を感じさせる作品なのかなと。
『AKIRA』のテイストはめっちゃありますよね。あとは都市の真ん中に塔のようなシンボルとなる建物があって、その周辺にゲットーみたいな地域がある仕組みなどは、たとえば『銃夢』(木城ゆきと/講談社)にも通じるところがあって。主人公と行動を共にするネズミが出てくるんですけど、キャラクターの設定的に『BILLY BAT』(浦沢直樹/講談社)に似ている気もするし、『AKIRA』以外にもいろんな作品の要素が入っているのかなと。もちろん引用しているだけではなく、作者本人のオリジナリティもすごく感じるし、読んでいて「いいな」と共感できるんですよね。
絵柄にもすごく個性を感じました。もしかしたら今の時流とは違うのかもしれないけど、流行に抗ってやろうという意思も感じるし、うれしくなっちゃいますね(笑)。これも自分の捉え方なんですけど、今って「世の中を分析して、それをどうやってヒットにつなげるか」という方法が多いと思っていて。音楽でいうとカニエ・ウェストやドレイクもそうですよね。たくさんのクリエイターに曲を書かせて、それを編集して、自分の曲としてリリースするっていう。ミュージシャンというよりプロデューサー、編集者みたいな感じというか。
マンガも世の中の流れを読んで、的確な作品を出してきている感じがあるし、そのほうがスマートでコスパもいいっていう考え方があるような気がして。そこに“ドパガキ”みたいな話も入ってくるのかもしれないけど、もうちょっと寄り道したり、余計なことをやることの面白さもあると思うんですよ。自分にとって『ラットコレクティブ』はまさにそういうマンガで。やりたいこと、好きなことを詰め込んでいる感じがあるし、すごくピュアに応援したくなりますね。
——『ラットコレクティブ』の舞台は、超巨大企業「GENNAI」が支配する2069年の日本。主人公は社会の底辺で暮らすキョウスケで、GENNAI勤務だったエリートの親友・ユーヤの不審な自殺に疑問を持つ……というところから物語が始まります。
現実と地続きの設定ですよね。貧富の差もそうだし、AIの進化もそうですけど、「こうなりかねないな」というリアリティがあるというか。テクノロジーを使った武器を手に入れて「ぶっ壊してやる」みたいな感じでストーリーが進んでいるんですけど、このまま振り切ってぶっ壊してほしいです。『チェンソーマン』(藤本タツキ/集英社)とか『シン・ゴジラ』もそうですけど、徹底的にぶっ壊れて、時代が変化していく感じにワクワクしちゃうので(笑)。
——主人公が「デンジャーでネイチャーなアンチ資本主義だ!」と宣言するシーンもあるし、行き詰った社会をどうにしかしたいという欲望とも結びつきそうです。
「わかる!」って思う人も多いんじゃないかな。資本主義が行き詰っているのは明らかだし、このままいくと壊れるような気がするんですよ。イーロン・マスクみたいな人が上から破壊するのか、下にいる人たちの怒りが爆発するか。このまま何となくやり過ごすのはたぶん無理だし、1回壊して新しくスタートするしかない段階のような気もしてて。できれば暴力ではなくて、人を思いやる気持ちから生まれるものであってほしいですけどね。『ラットコレクティブ』にはそういう背景もあるんじゃないかなと思ってるし、このまま突っ走ってほしいですね。
今後の展開にもすごく楽しみだし、ちょっと気が早いですけど、この作者がキャリアを重ねたときにどんなマンガを描くのかも楽しみなんですよ。似たような世界観を貫くのか、まったく違う作風になっていくのか。『ラットコレクティブ』が本格的なデビュー作ということになると思うんですけど、この先が楽しみな作家に出会えたこともうれしいですね。そういえば「ヤングマガジン」(36/37号)に作者の大村さんと、いがらしみきおさんの対談が掲載されてたんですよ。基本的には“新人の作家さんが大先輩に会いに行く”という感じだったんですけど、いがらしさんの『ラットコレクティブ』の評価も興味深かったですね。
『二月に殺して桜に埋める』は『パワーパフ ガールズ』みたい?
——続いては『二月に殺して桜に埋める』。母親から医学部受験を強要される娘・諸星桜が主人公の“受験バトル”マンガです。
今回初めて読んだですけど、すごく面白いです。俺も中学受験してるんですよ。受験したのは1校だけだったから、この作品の主人公みたいに“合格or死”みたいな感じでがんばりました。1年間塾に行って合格したんですけど、実際にその学校に行ってみたら、勉強をがんばってた人はあんまりいなかったんですけどね(笑)。
——その学校でOKAMOTO’Sのメンバーに出会ったんですよね。『二月〜』の主人公は交通事故に遭ったことをきっかけに、好きなように生きることを決意。医者ではなく、本に関わる仕事をするために東京の大学を目指し始めます。
そこで母と娘が激しくぶつかり合うというのが、このマンガの軸になっていて。母と娘の物語なのはもちろんなんですけど、情報量の格差、選択肢の狭さみたいなものも描かれていると思います。主人公がクラスメイトに「東京の大学行って、東京で一生働けるようになんか頑張るわ」と言ったら、「変なの〜ウチは将来女医になって全身エルメスで暮らすのが目標やけん」って言い返される場面があって。
——つまり医学部を目指す以外の選択肢を持ってない、と。
そうそう。いろんな仕事があるし、たとえば自分でカフェをやったり、会社に入らないで生活するやり方もあるじゃないですか。大学じゃなくて高専に行って、技術を身に着けて働いてもいいし、選択肢はいろいろあるはずなのに、このマンガにでてくる母親やクラスメイトは医者になることだけしか認めていなくて。「人生は自分のもの」という意識が低いというのかな。
——主人公は塾の講師に「東京の大学に行きたい」と打ち明け、進路の変更を決意。「私はお母さんの人生の付属物じゃないんだ」「私の人生は毎日全部私のものなんだ」と実感するシーンもあります。
塾の先生と自分の言葉で話すことで、価値観の変化が起きたわけですよね。中学校の時の国語の先生からもらった手紙もそうですけど、影響を及ぼしてくれる人との出会いって本当に大事で。「親か友達か先生か恋人。この4つのどこかで自分を救う人に出会えたら、人は変われる」という話を聞いたことがあるんですけど、まさにそうだなって思います。
ーー絵柄についてはどうですか?
ちょっと『パワーパフ ガールズ』みたいだなと(笑)。これも勝手な解釈なんですけど『パワーパフ ガールズ』って、ピカソのキュビズムみたいな印象があって。鳥トマトさんの絵にもそういうテイストを感じるんですよね。お母さんが塾の先生に会いに行くシーンで映画『シャイニング』みたいなシーンがあったり、描写にも個性があって。お父さんの顔がなくて、顔に“父”と書かれた紙が貼ってあるのも怖くてよかったですね。
——怖い話なんけど、どこか笑える感じがあるんですよね。
そうですね。話のぶっ飛び方もカートゥーンっぽくて。“交通事故に遭って、脳が壊れた”というシーンの脳の絵もそうで、やたら可愛いく「うわー」って言ってるんですよ。こういう手法って手塚治虫の時代からあるけど、いきなりファンタジーが入ってきて、とんでもない展開になるのもマンガの良さだと思うんです。
常識ではあり得ない展開であっても、鳥トマトさんの世界では成立するというか。そういうぶっ飛び方ができるのも、この作者の強みだと思いますね。
『ラットコレクティブ』を読みながら聴きたい音楽
キング・ギザード&ザ・リザード・ウィザード「Alien Metal」
サイケデリックロック、メタル、ジャズ、フォークなど幅広いジャンルを横断してきたオーストラリアのロックバンド、キング・ギザード&ザ・リザード・ウィザードのニューアルバム。
「ロックバンドがやってるテクノという感じでカッコいいです。近未来感、ディストピアっぽさもありますね」