『猫と竜』アニメ化記念対談 原作者・アマラ × 漫画・佐々木泉が語る、優しいファンタジー世界が出来上がるまで

 猫と竜と人間の心温まる交流を描くアマラの小説『猫と竜』(宝島社)が、TVアニメになって2026年7月から放送中だ。大熊まいが小説に添えたキャラクターのイラストを原案に、佐々木泉が続けてきたコミカライズの世界が、色と声を伴い動いて、原作の面白さを改めて感じさせてくれている。全世界を幸せな気持ちに染めているTVアニメを原作者のアマラ、漫画の佐々木泉はどう見たのか。お互いにどのような思いを抱きながら『猫と竜』の世界を描き続けているのかを二人に聞いた。(タニグチリウイチ)

アマラ「豪華すぎるとビビりちらかしながらアフレコを聞いてました」

コミックス版『猫と竜(1)』

ーーTVアニメ『猫と竜』の放送・配信が始まりました。日本だけでなく世界中から感動の声が上がっています。

アマラ:SNSをチェックさせていただいているんですが、皆さん楽しんでいただけているようで、ありがたいなあと思っています。

ーーアマラ先生がアニメを見た感想は?

アマラ:実はアフレコの現場に全部立ち会わせていただいてまして、今のアニメだと珍しいらしいんですが、その段階ですべての映像がついていたんです。佐々木泉先生といっしょに見させていただくこともあったんですが、めちゃめちゃ絵がきれいだったんです。制作会社さん(OLM)がものすごく有名で技術のあるところで、素晴らしい映像を作っていただきました。シナリオも、メインで書いていただいた脚本家さん(広田光毅)が有名な方で、よくまとめていただいたなと思いました。なによりいちアニメ視聴者として思ったのが、声優がすごく豪華だということです。主人公の猫竜役に子安武人さんを連れて来ていただくなんて、どんな人質を取ったんだと思いました(笑)。

ーー佐々木泉先生はいかがですか。

佐々木泉(以下、佐々木):たくさんの人の手が入って作られていくので、『猫と竜』の世界がわーっと広がっていくんだろうなとは想像していたんですが、ここまで広がるんだとすごくびっくりしています。アフレコが始まって、その場に行った時はもう「ほえーっ」としか声が出ないというか、すごいことになってるんだっていうことを見て、ずっと感動しています。

アマラ:佐々木先生とワタワタしながらアフレコを見ていて、イメージに合ってましたか?なんて話をしていましたね。

佐々木:もちろんイメージ通りでした。本当にすごい方々を呼んで来てくださったんだなとびっくりしています。

アマラ:声優の方を決める会議にも私、参加させていただいたんですが、その時に監督さんから候補の声優の方々の一覧を見せてもらい、音声も聞かせてもらいました。それで、やっていただけるなら子安さんですねという話になりました。

佐々木:羽のおじちゃん(猫竜)は子安さんでピッタリです。どこか澄ました感じがあって、優しい声も出せるし怖い声の時は本当に怖い。もう羽のおじちゃんそのもので、すごく嬉しかったです。SNSだと皆さん、スナフキンだという反応をしてましたね。

アマラ:子安さんは『楽しいムーミン一家』でスナフキンの役をやられていたんですけど、その時の優しい子安さんに久しぶりに出会ったなと思いました。他のキャラに関しても、ママにゃんもガリーも他の役も、声優さんたちはめちゃめちゃ有名で実力のある方々ばかり。アフレコ現場で今日はこういう声優さんたちですとプリントを渡されて、見たら名前を見たことある人ばかりで、豪華すぎるとビビりちらかしながらアフレコを聞いてました。

ーー放送されて絵がついて動くと、さらにキャラの存在感が立体的になって見えてきます。

アマラ:もうイメージにぴったりというか、「今後はこのイメージから外れないように書かなくてはいけないんですね、分かりました」という感じになりました。

佐々木:描いていて、もう子安さんの声で描いてしまいます。ママにゃんも井上喜久子さん。みんな声が耳についてそのままのイメージになってしまいました。

佐々木「あの優しいファンタジーの世界は外したくはない」

ーーそもそも佐々木先生が『猫と竜』のコミカライズを手がけることにあった経緯を教えてください。

佐々木:何作品か小説を挙げていただいて、この中から描けそうなものはありますかと聞かれて、選ばせてもらった形です。大熊まい先生の素敵なイラストに惹かれたこともありますが、『猫と竜』というタイトルがまずズルい(笑)。タイトルに惹かれて描かせてくださいということになりました。

ーーやはり猫を描きたいと……。

佐々木:いえ、動物が描けないんです。それなのにこれが描きたいと言ってしまって……。

アマラ:佐々木先生が猫を描けないなら誰も猫は描けないですよ。

佐々木:本当に動物を描けるのかなという状態で引き受けてしまったので、なんとかなって良かったです。

アマラ:佐々木先生のお名前を聞いた時に、私自身、漫画が結構好きなので、あの方かなというイメージはありました。歴史物を描かれるかたで、なんとなく時代劇を描く人なんだと思っていたら、実際にお会いして本当は中国の歴史モノが専門なんだと聞いて腰が抜けるほどビビりました。ファンタジーも描かれているので、『猫と竜』を描いていただけるのは嬉しいと思いました。

ーー実際にコミカライズが始まって、アマラ先生と佐々木先生との間で何かいろいろとやりとりを行ったのでしょうか。

アマラ:私がめちゃめちゃ適当なタイプで、資料をいっさい自分で用意していないんです。キャラクターの名前表もない。ただ横着なだけなんですけど、それに対して佐々木先生はとにかく資料を作ってくださって、巻が進んでいくに連れて必要になる地図やキャラクター表も全て佐々木先生が作ってくださって。私と担当さんがそれを見て、「ああ『猫と竜』の世界ってこうなってるんだ、すごーい」なんて言っていました。これに追いつかれないように小説を書かなくてはという話をしたほどです(笑)。

佐々木:ラフをアマラ先生に見ていただいているんですが、何もおっしゃってくれないので、私の妄想というかイメージを入れて描いたようなところがあります。原作のファンに怒られたら嫌だ、あの優しいファンタジーの世界は外したくはないという思いでいっぱいでした。本当に申し訳ない。

アマラ:申し訳ないなんてことは全然ないです。今となっては佐々木先生のイメージが正しいのであって、佐々木先生がそう描いているということは、私の方が間違っているから書き直さなくてはいけない。そういうことがボロボロ出てきてます。佐々木先生が持っていらっしゃる『猫と竜』の世界から外れないように描かなくてはというプレッシャーを感じています。

ーー佐々木先生がコミカライズにあたって意識したことはありますか。

佐々木:メインの猫ちゃんに関しては、大熊先生の絵があるのでその可愛いデザインに頼らせていただきましたが、それ以外の猫が多すぎるので、毎回迷いながら描いてます。どのような毛皮にするかとか。大熊先生のイラストは可愛い上に猫ちゃんたちのデザインがシンプルで描きやすいんですが、私がデザインしたものは黒モナルカとか、サビ猫だったらサビ猫らしくとか縞だったら縞々にとか、ちょっとリアル調になってしまうのがダメですね。

アマラ:いえいえ、漫画の黒モナルカとかめちゃめちゃ人気ありますよ。

佐々木:描くのは面倒で……(笑)

アマラ:私自身は猫という文字を書くだけで、後は読者さんが思い浮かべるものを思い浮かべて欲しい、物語を読んでいただいて、その中で補完していただきたいと思っています。どういうことがあったんだよという情報だけをお渡しするのが、一番きれいかなと思って書いてます。そうする方が、私が考えなくても良いという利点があって楽ができることもありますが(笑)。後々設定を忘れてもごまかすことができますし。それだけに、イラストとか漫画にする時には、ひたすら大熊先生や佐々木先生に負担がかかってしまって……。先生たちのイラストや漫画で保っているようなもので、大変にありがたい。頭が上がりません。

佐々木:いえいえ、自由に描かせてもらえて本当にありがたいです。

佐々木「アマラ先生に課題をいろいろいただいて、それに挑戦していく感じ」

ーー『猫と竜』は物語自体にほっこりとして優しいところがありますが、漫画はそこにコミカルだったりポップになっていたりとした演出が加わって楽しませてくれます。そうした演出面で佐々木先生が何か意図しているところはありますか。

佐々木:とにかくそんなにシリアスにならないように、くらいですかね。原作小説からの想像というか妄想で描いているとは思うんですが、どうでしょう、ズレてないでしょうか?

アマラ:私自身はやはり物語は、読者の方が読んでいただいて思い浮かべていただいた段階で完成するものだと思っているので、漫画版は佐々木先生の中にある『猫と竜』のイメージを描いていただいている訳ですから、もうその時点で漫画版は完成だと思ってます。率直に、すごく面白いです。

佐々木:ありがとうございます。少し二次創作のような感じで描いていると思いますね。

アマラ:SNSでアニメの感想を見させていただくと、皆さん原作のイメージ通り温かい感じの世界観で面白いって言っているんですが、その人たちが言っている原作はもう漫画なんですよ。そう皆さんが思うくらいに完成度が高い漫画なんです。ありがたいやら嬉しいやらで、何も文句はありません。

ーー『猫と竜』では、アマラ先生が書いた小説を元に佐々木先生がコミカライズする場合と、小説になる前のプロットのようなものを佐々木先生に渡してコミカライズする場合があると伺いました。

アマラ:そういうものもありますね。『猫と竜』はだいたい1話が3万字くらいになるんですが、それを1万字くらいに圧縮した文章をお渡ししている感じです。ただ、漫画の第13巻に前後編で入っている「名高き冒険猫と星屑の瞳」は、佐々木先生に送った文章が3万字で、ほとんど短編小説をそのまま送りつけてしまった感じでした。これを2話分にまとめてってむちゃくちゃなことを言ってしまって。それこそアニメなら2時間くらいの映画になりそうなボリュームです。ただこれは、まさに映画みたいな感じでやりたかったんですよ。イメージしたのが『インディ・ジョーンズ』で、それでやってくださいと言ったら佐々木先生が困惑した顔をされて、それを見ないようにコーヒーを飲んでいたのを覚えてます。

佐々木:設定するものが多すぎて。他の国の乗り物とか飛行船とか、それをすぐにやってという感じでしたので(笑)。でもやりました。やっぱり楽しいんですよ。大変だと言いながら飛行船はどんなのかなって考えるのはやっぱり楽しかった。アマラ先生に課題をいろいろいただいて、それに挑戦していく感じでやっています。

『猫と竜(13)』収録の「名高き冒険猫と星屑の瞳」より

アマラ:ファンタジー世界なので道具とか武器とかが現在のものとは違うんですよね、弓矢もそうで黒曜石のやじりなんかが使われているんですが、それを佐々木先生は実物を見たことがなかったからと、諏訪の方に作りにいったそうなんです。そこで手にケガまでされたそうで。漫画を描いている漫画家が大事な指をケガしてまでやることではないと思ったほどでした。取材旅行に行っても温泉に浸かって美味しいものを食べて、それを取材だと言い張る自分との格の違いを見せつけられた気がしました。

佐々木:本当に何も知らないので、いろいろ見たいなという欲求があるんです。アマラ先生は動植物にとても詳しいので、それをファンタジー世界で描くにしても、やはりいろいろ知っておきたいなと思いながら描いてます。

ーー佐々木先生はここまで多くのエピソードを漫画にして来ましたが、お気に入りのエピソードはありますか。

佐々木:原作を読んでびっくりして、描いていて辛いけど楽しかったのが「大活劇!ヤジュウロウ爪法帖」ですね。劇団猫たちが劇をする話で、その劇中劇が細かいんです。こういう話で来たのかと思って、どう漫画にしたらいいんだというのはすごく悩みました。

アマラ:私も大好きなエピソードです。なんとかして時代劇が書けないかと思って考えて、そうだ、物語の中で演劇をすれば良いんだと思いついて書いたんですが、これが漫画になるとすると佐々木先生が大変そうだな、怒られるじゃないかなと思いました。

佐々木:読んだ時に本当に面白くて、「アマラ先生面白すぎ!」って思いましたが、これを描くんだとなるとちょっと愕然としました。あとは「終の寝床」。もう泣きながら描きました。こればかりはシリアスにはしたくないという感じにできなかったので、そのまましんみりとした感じで描きました。

アマラ:原作の並びから、漫画でも本当はもう少し後に来る話だったんですが、担当さんがこのお話は良いエピソードなので、早めに漫画に入れましょうと言ってくれて、それならと佐々木先生にお渡しして漫画にしていただきました。印象に残ったのは台詞の部分ですね。小説だとどうしても文字として書かないと伝わらないところがあります。足し算をしなければいけない。だから、登場する猫の最後のシーンで猫が独白するんです。それをいれることで締まるんですが、佐々木先生の漫画ではそこがオミットされていて、見た時に「そうだよね、このセリフは漫画だったら絶対にない方がいいよね」と思いました。「この後はもう佐々木先生に任せればいいんだな。これ以上余計なことは書かないでいよう」と心に決めたシーンでした。アニメはアニメでまた別の表現になっています。

ーー媒体によって表現の方法も伝わり方も変わってきます。それぞれにベストな体制で臨んでいることが分かります。同じ絵で表現する媒体として、アニメの方から佐々木先生に尋ねてきたことは何かあるんでしょうか。

佐々木:美術設定を見せてもらって確認して、違うところあればこちらから伝えることもありました。

アマラ:アニメの制作で佐々木先生にはすごくお世話になってます。美術設定だけでなく全ての猫の開き図とか、店の看板とかアニメの人と共有してもらいました。世界地図もそうです。舞台になる地図について、私も担当さんもまったく頭になくて、適当なことを常に言っていたんですが、佐々木先生がそれまでの作品を読んで地図を描いてくれました。見てこれが『猫と竜』の世界の地図なんだ、ここから外れないようにしなければとなったんですが、その地図がアニメにもほぼそのまま登場してましたね。佐々木先生が描いた地図が公式になったと、いちファンになって嬉しく思いました。

『猫と竜』の設定画

佐々木:ありがたやありがたや。私も最初は設定とか表とか作らないで描いていたんですが、アニメになると聞いて初めて表にしました。

アマラ:猫の開き図(メイン画像)の絵がめちゃめちゃ可愛くて、いつかグッズになったら買いたいな、早く売ってくれないかなって思ってます。

佐々木:作って良かったです。たくさん猫がいるので、これから描く時に自分でも迷わないで済むようになりました。最初からやっておけば良かったですね。

アマラ「アニメを見て漫画を読んで小説も読んで、それぞれの違いを楽しんで」

『猫と竜(13)』

ーー佐々木先生の漫画版は第13巻が7月に出たばかりです。おすすめのポイントはありますか。

佐々木:「名高き冒険猫と星屑の瞳」は隣の国が出てくるので、生活様式だとか衣装だったりのデザインの違いが見られます。

アマラ:第55話「魔法の薬職人の採集依頼」は、佐々木先生がデザインされた猫がいっぱいでてくるんです。可愛いですよ。

ーーアマラ先生の小説は、8月26日に最新刊『猫と竜 百代の過月と竜の子育て』が発売。こちらの見どころは?

アマラ:全部で4編入っていますが、このうち2編は先に漫画になっていなくて、今回小説で初めて読める話です。楽しいお話になっていると思います。あと、大熊先生のイラストがとても美しいんです。部屋に飾っておくだけでインテリアになると思いますので、小説に興味が無い方もぜひ手にとってお部屋に置いてください。

『猫と竜 百代の過月と竜の子育て』

ーー最後に、『猫と竜』を小説や漫画、アニメで楽しんでいるファンにメッセージを。

佐々木:毎回、次はどんなお話なんだろうと期待して、そう来たかと楽しく裏切られる感じです。その世界に浸っている時は、本当に優しい気分に包まれます。そのお裾分けを読者の方にできたらと思って描いてますので、小説やアニメと共に漫画も楽しんでいただけたら幸せです。

アマラ:漫画にアニメに小説と、いろいろな媒体で物語を見ていただく機会が増えました。ちょっとずつ細部が違っています。漫画版ではこういうセリフでアニメではこうなんだという違い。それがむしろこの物語の妙なんだと思っています。アニメの方は時々、駆け足のように物語が早く終わってしまう印象があるとおっしゃる方がいます。私も見ていてそう感じますが、それは面白いからなんです。面白いからめちゃめちゃ早く感じるんですよ。そうした体感の違いを楽しんでいただければ嬉しいです。アニメを見て漫画を読んで小説も読んで、それぞれの違いを楽しんでいただければと思います。

■書誌情報
『猫と竜(13)』
原作:アマラ
漫画:佐々木泉
キャラクター原案:大熊まい
発売日:2026年7月24日
価格:800円(税込)

『猫と竜 百代の過月と竜の子育て』
著者:アマラ
キャラクター原案:大熊まい
発売日:2026年8月26日

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