宮﨑駿が「秋津三朗」名義で描いた『風の谷のナウシカ』の原点とは? 幻の作品『砂漠の民』を読み直す

 宮﨑駿監督のアニメーション映画『風の谷のナウシカ』(1984年)が、2026年8月14日(金)21時より、「金曜ロードショー」(日本テレビ系列)にてテレビ放送される。

 『風の谷のナウシカ』は、『ルパン三世 カリオストロの城』(1979年)の興行的な失敗のあと、さまざまな企画を練っていた宮﨑駿が、起死回生を図って作り上げた、壮大なファンタジーロマンである。

 ちなみにこの『風の谷のナウシカ』、監督自ら描いた原作コミック(1982年~1994年)の存在はあまりにも有名だが(注・映画化されたのは、単行本全7巻のうち、2巻までのストーリーである)、その他にも、『ロルフ』、『グールの王女ナウシカ』、『風使いの娘ヤラ』といった、企画段階でとん挫したいくつかの“源流”があるのをご存じだろうか(この種の“幻の企画”の経緯については、『宮﨑駿イメージボード全集(4)ナウシカ前史』などに詳しい)。また、原作コミックの連載(初期)と並行して、宮﨑が描き下ろした絵物語『シュナの旅』(1983年)からの影響も少なくない。

 そして、絵物語といえば、『砂漠の民』というタイトルの、宮﨑駿がかつて「秋津三朗」というペンネームで描いた作品も存在する。この作品もまた “『風の谷のナウシカ』の源流のひとつ”ともいうべき物語であり、本稿では、この知られざる名作(少なくとも、『シュナの旅』ほどには知られていないだろう)を紹介したいと思う。

若き日の宮﨑駿が描いた絵物語

 『砂漠の民』は、1969年9月12日から1970年3月15日にかけて、宮﨑駿が「秋津三朗」名義で「週刊少年少女新聞」(少年少女新聞社)に連載した絵物語である(絵物語ではあるが、要所要所で、コマを割ったり、フキダシにセリフを入れたりと、漫画の技法も取り入れられている)。

 時は11世紀頃――モンゴル帝国出現以前の中央アジアでは、キッタール族という強大な遊牧民族が暴れまわっていた。

 主人公は、テムという名の羊飼いの少年。あるとき、彼は、キッタール族に追われて逃げて来た同胞(ソクート人)の男を匿ったため、父親を殺されてしまう。なんとかその場は凌いだものの、テムは、その匿っていた男・クジルとともに、ソクートの王都・ペジテを目指すことになる。キッタール族に抗い、ソクート人の自由を勝ち取るために……。

『風の谷のナウシカ』との共通点

 まず、本作と『風の谷のナウシカ』との共通点として、最も注目すべきは、中央アジアの乾燥地帯をベースにした独自の世界観だろうか。両作とも、不毛の地を舞台にしており、エキゾチックでどこか懐かしい雰囲気を醸し出している。

 そして、もうひとつ。「巨大な帝国の侵略とそれに抗う小民族」という対立構造も、両作に共通するものだといえるだろう。『砂漠の民』では、キッタール族に抗うソクート人が、『風の谷のナウシカ』では、軍事大国・トルメキアに蹂躙される工房都市・ペジテと、辺境の小国・風の谷の人々の苦悩が描かれる(「ペジテ」という都市の名も、両作に共通するもの)。

©1984 Hayao Miyazaki/Studio Ghibli, H

戦争の残酷さと民衆の苦悩

 いずれにしても、この『砂漠の民』を描いていた頃から(注・当時の宮﨑は28歳。東映動画に勤めていた)、宮﨑駿という“作家”の中で、「戦争の残酷さと民衆の苦悩」をテーマにしたファンタジーを作り続けようという意志があったのは間違いない。あらためていうまでもなく、ファンタジーだからこそ、伝えられる真実というものはあるのだ。

 また、物語の最後に、テムたちは一応の勝利を収めはするのだが、そこにいたるまでに失ったものも多く、さらにいえば、それは、長い目で見た場合、“完全な勝利”というわけでもなかった。

 ものごとにはすべて裏表(うらおもて)があり、単純な正義と悪の二項対立だけでは片づけられない。そのことは、『風の谷のナウシカ』はもちろん、のちに宮﨑が監督した『もののけ姫』(1997年)や『ハウルの動く城』(2004年)、『君たちはどう生きるか』(2023年)などでも描かれているとおりだ。

 そう、“宮﨑駿の原点”――今晩テレビ放送される『風の谷のナウシカ』を観て感動した人たちは、機会があればぜひ、この『砂漠の民』も読んでいただきたい(『砂漠の民』は過去に一度、同人誌の形で出版されているのだが、現在は入手困難。「Comic Box」1982年11・12月号に全話が再録されているので、そちらを古書店や図書館などで探してみるといいだろう)。

■放送情報
『風の谷のナウシカ』
日本テレビ系『金曜ロードショー』にて、8月14日(金)21:00~23:24放送
※放送枠30分拡大、ノーカット放送
原作・脚本・監督:宮﨑駿
プロデューサー:高畑勲
音楽:久石譲
声の出演:島本須美、納谷悟朗、松田洋治、永井一郎、榊原良子、家弓家正 ほか
©1984 Hayao Miyazaki/Studio Ghibli, H

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