なぜ少年漫画に社運を賭けるのか? SORAJIMA新創刊「少年STOKE」副編集長2名が語る“少年第一”の哲学
次に来るマンガ大賞webマンガ部門3位を受賞した『お求めいただいた暴君陛下の悪女です』などの人気縦読み漫画の創出に加え、カルチャー漫画を手掛ける「よすみ編集部」の運営や、漫画アプリ「ソラジマTOON」の配信をしている今勢いのある漫画出版社SORAJIMAが、2027年4月に少年漫画アプリ「少年STOKE(ストーク)」を立ち上げる。
掲載する漫画を集める目的も込めて、2026年3月からは賞金総額300万円相当の「少年STOKE第一回漫画賞」も開始している。SORAJIMAが紙の雑誌も含めて競合の多い少年漫画に飛び込み目指すものは何か? どのような作品を求めているのか? 「少年STOKE」の“創刊”に向けて作品と向き合い続けている第五編集部2人の副編集長、尾屋葵さんと石川卓実さんに聞いた。
少年漫画の定義とは
――今回、漫画アプリを自社で立ち上げ「少年STOKE」という編集部で少年漫画というジャンルに斬り込みます。今までにない試みですね。
石川卓実(以下、石川):会社の命をかけた、僕個人にとっても人生をかけた挑戦になっています。弊社が掲げているミッションとして、「この世紀を代表するコンテンツを作る」というものがあります。これを掲げている以上は、国籍も世代も超えて愛される少年漫画っていうものに、いつか挑戦しないといけないなという思いをみんな持ってたんです。ロマンス系のジャンル中心に、漫画出版社として知られるようになって、編集部の練度も上がってきた今、いよいよ立ち上げたという感じですね。
――一口に少年漫画といっても時代によってずいぶんとイメージが変わります。“少年漫画”にどのようなイメージを持っていますか。
尾屋葵(以下、尾屋):少年漫画自体が変化しているかといわれると難しいですね。ただ、その概念が変わったというよりは読者、受け取り手の側がどんどんと変わってきているなとは感じています。具体的には読者の年齢層は上がっていますよね。でも、編集部では今の少年、今の中高生が求める少年漫画というものを作っていきたいと考えています。ここがコンセプトとして1番強いところです。
――少年漫画にもジャンルならスポーツもの、青春もの、バトルものといろいろあります。「少年STOKE」ではどのようなものを出していこうとしていますか。
石川:ジャンルについては想像されているものとそれほど変わらないと思います。唯一あるのが少年心の肯定ができるかどうかです。すごく抽象的にはなってしまいますが、やっぱり中高生の頃って、モヤモヤした感情とかがある人が多いと思うんです。そういった少年の心に寄り添うものであったりとか、心の燃料になれるような少年漫画を作っていきたい。それが作品の中に組み込まれているかどうかというところを、ひとつ掲載基準として持っています。少年に向けられた作品かどうか、少年心の肯定がそこに入っているかどうかが、「少年STOKE」らしさになっていく部分かなと思います。
尾屋:それこそ「少年の心の中の火種に物語を届けて、もっと大きく燃やす」といった言い方をよくしています。読んだことで少年の人生が何かしら前に進む。それが私たちの思う少年漫画なんじゃないかなと思っています。
作家さんには自分が学生だった頃ってどんな漫画が読みたかったんだっけ? とか、どんな言葉をかけてほしかったんだっけ? とか、ご自身の中の少年に向けた答えを、作品を通して表現していただきたいです。
石川:僕自身、本当に小学生や中学生の頃はコミュ障で孤立していた人間だったんですけど、そんな時に漫画が居場所になってくれたんです。そうした経験があるからこそ、次の世代に僕たちの体験を届けたい。少年って大人ほど経験もないし、人間関係も自分で選んでるわけではなくて、教室とか家族といった狭い空間で生きてますよね。そんな少年たちにより広い世界を見るための視野や、勇気を与えるものを作っていきたいです。
「少年STOKE」は“少年”のための編集部
――アプリは来年4月に正式オープンするそうですね。編集部名は「少年STOKE」。この意味は?
尾屋:燃料をくべる、かき立てるという意味で、あとはスラングでワクワクするといったものです。先ほども触れたように、編集方針が「少年の心の火種を燃え上がらせたい」ですから。少年の中にはそもそもエネルギーが存在していて、それを燃え上がらせるための燃料をくべたい、それが漫画だ。という意味で「少年STOKE」となりました。
――ラインナップは固まってきた感じですか。「ソラジマTOON」から移籍するような作品はありますか。
尾屋:それで言うと全部新作です。今はまだ仕込み中で、順調に制作が進んでいる作品も幾つかありますが、まだまだこれからです。
石川:連載会議はもうずっとバチバチに行われていて、20作品くらいは提出・審査されている感じです。すでに提出されているものをブラッシュアップしたり、「少年STOKE第一回漫画賞」の作品やこれから新しく提出される作品だったりで、本リリース時には10作品程度の掲載を目安にしています。
――雑誌でもアプリでも、漫画は本当に大量に発信されていて、新しく居場所を得るのは相当に大変です。そうした厳しい競争の中で「少年STOKE」が勝っていくための手立てはありますか。
石川:ふたつあると思っています。ひとつがやはり内容をとことん今の中高生が楽しめるものにすることですね。漫画が発達している中で、少年漫画と青年漫画の垣根が曖昧になってきています。それも読者の変化が影響していると言えますが、僕たちはあくまで中高生に特化した内容で、届け方も中高生が楽しめるようなものにします。
今って漫画をアプリで読んだとき、あまり共有できるものがないんですよ。昔はそれこそ漫画雑誌の回し読みがありましたよね。お小遣いが少ない子供時代などは買ったクラスメイトから回してもらって、そうやって読んだ漫画が次の日に話題になるとか。今はアプリでアルゴリズム化された漫画を個人で楽しむところがあって、共通の話題になりにくいんです。それなら、中高生が人間関係を作っていく現代に適したエンタメの楽しみ方を組み込みながら、漫画を発信していければと考えています。
尾屋:会社としても長期スパンで見ていて、今漫画アプリで読んでいた少年たちがバイトを始めたり働いて稼げるようになったりした時に、「少年STOKE」が1番愛される少年漫画編集部になっていようと考えています。そうなるようにひたすら少年に特化していきます。もうひたすらそれだけです。仮に赤字が続いたとしても最低10年はやり切ろうと思っています。
――根性入ってますね。
尾屋:それくらいの規模感、そのぐらいの覚悟の上で絶対に続けますよという意思を持っています。そういった私たちの熱意も作家さんにも届くと嬉しいなと思っています。
――漫画雑誌や出版社系の漫画アプリに掲載される漫画とは違い、「少年STOKE」で掲載される作品はスクロール型の縦読みです。コマ割りでリズムを出したり見開きを使って迫力を出したりといったことはできません。少年漫画として戦っていく上で、こうした違いが影響する可能性はありますか。
尾屋:編集部としては縦か横かといったことはあまり考えていません。少年たちに「横読みと縦読み、どちらの漫画が好きですか?」みたいなアンケートを取ったりしているんですけど、返ってくる答えはほぼ半々なんです。つまりどちらでも良いんじゃないか、読み手にとっては縦か横かは些細なことで、結局は自分が求めている面白さとかエキサイティングできるものがあるかなんじゃないか。そう思っています。
ちなみに、ロマンスファンタジー系の作品では40代から50代、中には60代の女性も縦読みを結構嗜んでいました。上の世代も意外と大丈夫なんですよね。
石川:補足すると、僕たちは少年漫画を少年に届けるということが本当に1番の思いなんです。そのために、今の中高生が一番馴染みやすい形は何かと考えて、やっぱりみんな使っているのはスマホで、紙よりもスマホで気軽に読めるというのが1番楽しみやすい形なんだ、だからそれでやるんだということです。漫画を右上から左下にS字に読んでいくようなリテラシーが薄れていく中で、届きやすい形ということで縦読みを選んでいるところもあります。
尾屋:やっていくからには、本当に世界的な人気作品を作っていきたいです。そうなった時、右上から読んでいくような日本漫画のリテラシーを持たない海外の人でも、縦なら読みやすくて手に取りやすい形なのかなと考えていて、それを選択していこうということです。
作家のパワーが必要不可欠
――編集者の練度だけでなく、作家さんの縦読み漫画を描く技術も上がってきていると感じますか。
尾屋:そうですね。いろんな作家さんとお付き合いしている中で、物語の面白さや画力の上達だけでなく、セリフの量やコマ割りのテンポ感など、技術的な部分も含めみなさんレベルアップされていくのをすごく感じます。今後、作家さんが縦読み漫画の新しい可能性を勝手にどんどん発見してくれるようになると思います。編集部としてはそこが楽しみですね。
石川:縦だからやりづらいとか出来ないんじゃないかと言われますが、僕は縦か横かは媒体の特性だけだと思っています。漫画だから出来ない・やりづらいことがテレビだから出来るということもありますよね。ロボットものは宇宙での移動とかでコマ数が増えるので、アニメの方が向いているとか。そういった媒体に向いている手法を探りながら新しい表現が生まれてきたと思います。そもそも漫画がメチャクチャ変わったのは、手塚治虫さんがアニメーション映画の技法を漫画に取り入れたからですよね。今後縦読みを代表する、歴史的な存在となる作家さんが出てきた瞬間、縦読みの漫画の表現も変わっていくと思います。それを僕たちの編集部から出したいです。
――そう聞くと、SORAJIMAの挑戦に加わりたいと思っている作家さんや、「少年STOKE第一回漫画賞」に応募を考えている作家さんも挑戦意欲が湧いてきますね。コンテストでは9月まで作品を募集していますが、現状はどのような状況ですか。
石川:ありがたいことにエントリー者数はどんどん伸びています。賞の特性として締め切りギリギリに応募が増えるので、現時点では不安な要素もあると思います。でも僕自身は本当にワクワクしています。新しい流れに今の時点で来てくれている作家さんがいるということは、最終的にはいろいろな作品が読めるだろうと期待しています。
――コンテストとは別に、作家さんへの声掛けもしていると思います。これまで漫画編集者として仕事をしてきた中で、お二方はどのような基準で声掛けを行ってきましたか。
尾屋:作家さんとの出会い方は、大きく分けて持ち込んでいただいた方と編集側からお声がけをさせていただいた方の2通り。見るところは作家さんによりますが、作家さんのピンポイントな魅力を見てお声がけする場合が結構多いです。例えばキャラクターの魅力があったりとか、画面の驚きというかスクロールした時に掴みのあるイラストがきたりとか……。『DRAGON BALL』を立ち上げた編集者の鳥嶋和彦さんは「鳥山明は描き文字にセンスがあったからコンビを組んだ」と聞き及んだことがありますが、そのイメージに近いですね。
石川:似たような答えになってしまうんですけど、僕はその作家さんにしか描けなさそうなものがあるか、セリフだったりとか何か予想の裏切り方だったりとか、そういうのがあると一気に物語に引き込まれるんです。そういった個性みたいなものを感じられたとき、ぜひ一緒にやっていきたいなと思いながら見ていました。
「少年STOKE」でも、やはり作家さんの作家性が1番かなと思っています。僕たちが目指している少年漫画には、後にも先にも作家さんのパワー、それが絶対に必要になるなと思っていて。それプラス自分が編集する意味として、自分が面白いと思えるところも大事にする。その2軸が合致しているところを目指して作っていきます。
尾屋:私も、まず作家さんありきだと思います。その上で、それが少年に届くかどうかというところとで、中高生と話して得た感触なり縦読みでずっとやってきた感覚も使って、作家さんが迷っている時に情報提供したり壁打ち役になったりすることで、自分が関わっていければ良いなと思っています。
――これから少年漫画コンテストに応募する人に呼びかけるとしたら、どんな言葉になるでしょうか。
石川:少年漫画を描きたいという気持ちがある作家さんには、みなさん来てほしいなと思っています。もちろんこれまで描いてなかったけれどなんか挑戦してみようと思った方でも、描きたいという興味を1㎜でも持ってくれたら大歓迎です。
尾屋:追加するなら、少年の人生を突き動かす1話になっていて欲しいですね。作家さんにとっても編集部にとっても、これだけの思いで読み手を主語に置いて物語を考える機会は意外と少ないんじゃないでしょうか。だからぜひ、この機会を利用してもらいたいです。あまり重たく捉え過ぎなくても大丈夫です。気軽にこのテーマと向き合っていただいて、応募していただけると嬉しいですね。編集と壁打ちするというか、途中で編集からのフィードバックがもらえるような制度も用意しています。初めて縦読みをやるからとか考えず、とりあえずやってみようという人もお待ちしてます。
――縦読みはプロット作りやネーム作成、線画の彩色、背景に仕上げといった各工程を分業して作るものも多いと聞きます。個人で全部描かれる人もいます。応募はどちらでも可能ですか。
尾屋:編集部としては「どちらでも大丈夫」が回答になります。大事にしたいのは作家さんが描きたいものであったり、そこから生まれるキャラクターの魅力だったりなので、それが1番引き立てられるものだったら、どのような作り方でも大丈夫です。
石川:分業制だから作家性が出づらいといったことはないと思っています。従来の縦読みの多くは、作家性をすごく押し出してゴリゴリいくぞっていうよりは、市場から求められてるものを忠実に作って作家さんたちのパワーを届けるといった作り方だったところがありますが、それとは違うことも僕たちはやろうとしています。
尾屋:縦読みが始まった韓国で、売れたものと同じ系統のものを出していくといった流れがあって、それが縦読みと共に日本に来ているからそう見えているだけなのかと。つまり、分業制が良いとか悪いということではなく、そういう市場だっただけということです。横漫画でもネーム原作と作画を分けることが普通にありますよね。そこに作家性が伴っていないかと言われたら全然伴っています。役割を分けることそのものは、作家性の有無に関係がないというのが個人的な考えです。
――最後に、せっかくなのでお二方がそれぞれに人生をガツンと変えられたような漫画があれば教えて下さい。
石川:僕はもう圧倒的に『鋼の錬金術師』ですね。登場人物は失敗もいっぱいするし、悪役もただ殺されるのではなくて、最後に何かしら変化していくじゃないですか。失敗したら失敗で終わりとかじゃなくて、何かしら味方も悪役もみんな前に進んでいくみたいな感じがすごく良くて、それで漫画にどハマりしました。本当に友達がいなかった僕を救ってくれた1作です。
尾屋:私は多分石川ほど漫画読みではなかったんですけど、小中学時代、つらいと言うかエネルギーが足りてなかった時に漫画の続きを、単行本の発売日を楽しみにして現実逃避をしながら学校生活を送っていました。作品では『D.Gray-man』が好きでしたが、どちらかというと少年漫画そのものに支えられていたという経験があるので、それを今後は自分たちのレーベルでやっていきたいという思いが強いです。
――期待しています。本日はありがとうございました。
■SORAJIMA「少年STOKE第一回漫画賞」
作品募集期間:2026年3月2日(月)~2026年9月7日(月)
大賞発表時期:2026年10月頃予定
応募資格:少年を突き動かす「縦読み1話」を届けたい全ての人
賞/特典:大賞(1名)には総額300万円相当の連載支援
参加フロー:特設サイトよりエントリー→募集期間中に作品を提出→編集部の審査後、結果発表
応募要項:https://lp.shonen.sorajima.jp/contest2026/entry
「少年STOKE(ストーク)」公式サイト:https://lp.shonenstoke.com/