「早生まれは損」は大人になっても続くーー東大教授に聞く、4月入学が生む格差の実態と焦らない子育てのコツ

 早生まれ(1~3月生まれ)は4月生まれの子どもに比べて入学時の生育差があるため、学校生活で損をするということは、かねてよりよく知られた話である。ただ、あくまで小学校低学年ぐらいまでのことで、差はすぐ解消され、そのあとは取り沙汰されることは少なかった。しかし、6月8日に発売された『「早生まれ」は損なのか 生まれ月格差の経済学』(山口慎太郎/中公新書ラクレ)によると、大人になってからも所得や職業に、生まれ月による影響が残っているという。入学時期という学校制度によって生じてしまう、早生まれの子どもの不幸。この問題に対し、どのように取り組んでいけばいいのか、著者である山口に聞いた。

なぜ「早生まれの不利」は大人になっても続くのか?

山口慎太郎『「早生まれ」は損なのか 生まれ月格差の経済学』(中公新書ラクレ)

ーー労働経済学や家族の経済学が専門の山口さんが、早生まれに関する問題に着目したきっかけを教えてください。

山口慎太郎(以下、山口):労働経済学、家族の経済学では、子どもの発達にも注目します。健全な発達が、その後の収入や職業選択にも関わってくるという意味で、労働経済学では、子どもの発達が対象領域になっているんです。特に海外では子どもの生まれ月に関する研究データがたくさん出ていて、それを見たところ、思った以上に生まれ月の差が大人になっても続いているということがわかりました。自分自身、4月生まれで子供の頃は体が大きく運動もできたので「得をしたな」ぐらいに軽く考えていたんですが、実は世界でもひろくみられる問題だったんです。

 そこで興味を持って共同研究者と研究を進めたところ、生まれ月の差は学力や運動能力だけでなく、心の発達や放課後の時間の使い方、非認知能力にも及んでいることがわかってきました。私自身、4月生まれで得をしましたが、その裏には3月に生まれたことで損をしている子どもたちが、たくさんいるわけです。この不平等が生物学に基づいた変えようのないことならば仕方ないかもしれません。しかし、これは4月入学という大人が決めた学校運営の仕組みが生み出している不利なわけです。社会の仕組みで損をしている子どもたちがいるのなら、その仕組みを変えていく必要があります。まずは多くの方にこの問題を認識していただくところから始めたいと考え、本書を書くことを決めました。

ーー海外では生まれ月に関する研究データが豊富にあったということですが、日本では生まれ月に関する問題は、あまり認識されていなかったのでしょうか?

山口:海外では生まれ月による差が成長しても続くというのはいくつかの国で指摘されていて、よく知られていることではありました。スポーツの世界では体格の差で遅生まれの子が選抜チームに入れて、早生まれの子は入れない。そのことが才能の取りこぼしにつながっていると指摘されていて、問題意識を持っている人は一定数いました。ただ、それが大きな仕組みの改善にはつながっていません。特に日本でいえば、改善以前に、あまり顧みられてきませんでした。早生まれというのは、人口全体で見ればほぼ4分の1という無視できないボリュームであるにもかかわらず、なにも対策が行われていないというのが現状です。

ーーなぜ、認識が進まなかったのでしょう。

山口:そもそもある程度以上に子どもを気をつけて見ていないと、気がつかないレベルの差であるからだと思います。学校の教師のみなさんと話したときも、敏感な先生は「やっぱりあると思っていた」「当然だよ」という反応でしたが、一方で「そんなのがあることが信じられない」という方も多くいました。具体的に数字で示されるまでは、なかなか実感しにくいのかもしれません。

 また、早生まれの天才がいるというのも事実で、そのことで問題がうやむやになってしまうということもあったと思います。プロ野球選手としてメジャーリーグでも活躍した桑田真澄さんは4月1日生まれなんです。早生まれは不利という話になると、「いやいや、こういう天才もいるよ」というように返されてしまうんです。

アイルランドに学ぶ「月齢調整」の仕組み

ーー早生まれの問題が認識されている海外では、なにか具体的な対策が行われているのでしょうか。

山口:アイルランドでは、国単位で学力調査が行われています。これはなにかの選抜のためではなく、子どもの学習状況や発達状況を確認するためのもので、ここに学年別の相対順位がつけられます。アイルランドではそれに加え、月齢で調整した順位が、教師や保護者、生徒にフィードバックされています。生まれ月に関係なく、その子が順調に成長しているのか、あるいは基準に達していないのかがわかるようにしているんです。入学時期をずらすなどの対策は制度の根底を変えることになるので難しいのですが、学力調査なら日本でも行っているので、現実的に導入しやすい取り組みだと思います。

 この対策で重要なのは、教師のみなさんに、子どもたちの学力は生まれ月によって違うという事実を認識してもらうことです。子どもによって発達状態が違うのだから、それぞれに合わせた指導が求められるべきです。ただ、今は指導するうえで、このことがあまり考慮されていません。この子は今、学校の勉強に追いつけていないけれどそれは生まれ月の影響が大きいので、時間が経てば解決するのだ、ということを理解していただく。そうすれば、子どもに対して適切な指導ができるのではないかと考えています。

ーー本書では、早生まれの子どもは遅生まれの子どもより学校外の学習時間が長いという調査結果が紹介されていました。本人自身が勉強の理解が追いついていないことを、気にしている面があるのでしょうか?

山口:おそらくあるのではないかと思います。遅生まれに比較すると5%ほど長いだけなので大きいものではありません。親に言われたのか本人の意思かはわからないところもありますが、遅れを取り戻そうとしてとっている行動だと思います。

ーーどちらにせよ、プレッシャーは感じていると。

山口:そう思います。いつ生まれたかは本人には変えようのない問題ですし、すべての子が4月に生まれればいいというわけでもありません。教える側の都合で学年を4月で区切っているだけなので、その不利を一方的に押し付けているわけです。これは合理的配慮として、解決していく必要があると思います。

子ども自身がプレッシャーから逃れる方法

ーー先ほど、学力調査に月齢別の評価を取り入れるというお話を聞きました。逆に、早生まれの問題解決のため、やめるべき仕組みというのはありますか?

山口:子どもたちの早期の選抜です。これは学力でもスポーツでも、なにに関してもいえることです。たとえば12歳の段階で誰が優秀か並べると、だいたい4月生まれの子から選ばれます。その子たちに良い教育や良い練習環境を提供すると、4月生まれの子たちがさらに有利になって、一時の成長の違いが永続的なものになってしまいます。

 受験では、たとえば小学校受験では、生まれ月の差が考慮されているといわれています。ただ、中学受験になると、そもそも生まれ月の差は解消されているという前提で設計されているので、不利は生まれてしまいます。我々の分析で、中学生の段階でも差は消えていないことがわかったので、私立中学であれば、なんらかの補正をするべきだと思います。

ーー指導する側が取るべき対策のほかに、実際に子ども自身が早生まれだったとして、できることはありますか?

山口:そもそも早生まれが不利になる原因は社会の側にあるので、まずは社会が変わるべきです。ただ、社会が変わるには時間がかかります。では、すぐにできることとなると、やはり焦らないことだと思います。他人と自分を比べて、できないからといって焦らないこと。クラスメイトと比べて体も小さいし運動もあまりできないし、勉強もいまひとつ。ただ、それは月齢的に学年の中で若いからだということに気づけば、プレッシャーも少しは軽くなると思います。他の子と比べていろいろなことができないのは事実かもしれませんが、生まれ月を考えれば少しもおかしいことではなく、勉強なり運動なりを続けていけば、長期的には追いつけます。昨日よりできることがひとつでも増えたら、それはすごくいいことなんだというふうに考えてほしいです。

教育熱心な親ほど陥る罠と大人の責任

ーー早生まれの子どもを持つ親はどうでしょうか?

山口:教育熱心な親御さんほど気をつけてほしいのが、他の子と比べないということです。熱心であればあるほど、幼稚園や小学校で他の子どもよりできないことが気になる、うまくできたら喜んでしまうというのは、私も子どもがいるのでわかります。ただ、親だからこそ大局的な視点に立って、この子にはなにが向いているのかとか、前と比べてこれができるようになったという変化、そういうところに注目してほしいです。

 それと同時に、親は学校の教師やスポーツチームの指導者とコミュニケートできる立場なので、自分の子どもが勉強や運動ができないときは生まれ月のことを話して、理解を求めるのもいいと思います。教える側の認識が変われば、その子どもに適した指導をしてもらえる可能性は高くなるはずです。

ーー親からのアピールもあったほうがいいということですね。

山口:学校の教室でなにかグループを作ってリーダーを決めるとき、子どもたちにまかせると、おそらく4月生まれの子どもがリーダーになるんです。ただ、リーダーシップは子どものうちに経験しておかないとなかなか身につかないもので、未経験の子が大人になってから急に発揮することはできません。成長の機会を均等に配分するには、ときに教師が3月生まれの子どもをリーダーに指名する必要もあるでしょう。このことは、単に子どものためになるだけではなく、結局は人材の成長につながり、さらには将来の社会をよくすることにもつながっていきます。

 スポーツでいえば、3月生まれでも4月生まれでも、才能のある子どもはほぼ均等に生まれています。だけど、12歳とかジュニア時代のパフォーマンスだけで選抜してしまうと、早生まれの才能は、十分な指導機会を持てなくなります。結果、貴重な才能を眠らせたままになって、国全体でのスポーツのレベルが下がる、トップチーム、日本代表が弱くなってしまうということにつながるんです。今も発掘されない才能があるとしたら、とてももったいないことだと思います。

ーー少子化が続いているとなると、なおさらだと思います。

山口:かつての日本は人口も多かったので、厳しい指導で生き残ったメンバーだけでもやれたかもしれませんが、今は人数が減っているので、きちんと才能を見つけて育てるというプロセスがとても重要になっています。スポーツ、勉強に限らず、今後の日本社会のためにも、早生まれの問題に取り組む必要があると思います。

ーー本書はどんな方に読んでほしいですか?

山口:一番、読んでいただきたいのは親御さんたちです。特に早生まれの子どもを持つ親御さんには読んでほしいです。さらに子どもたちの指導に関わる方々、学校の教師はもちろん、塾の講師、スポーツの指導をされる方々にも、ぜひ読んでいただきたいと思います。根本的には社会の仕組みを変えなければいけない問題です。ただ、一方で教育現場でも、できることはあると思うので、まずは早生まれが不利な状況にあるということを知っていただきたいです。まずは知ることから、すべてが始まると思っています。

 そのうえで、早生まれは個人の不運の問題であると、とらえないでほしいです。本人にはまったく非がなく、努力や才能の不足でもありません。成長にかけた時間が足りないだけなので、まずはきちんとその時間を与えてあげる必要があります。そして、この問題は、大人たちが教えやすいからという理由だけで線引した、入学時期に起因しています。それを変えていく努力、それをやり続ける責任は、確実に大人の側にあると考えています。

■書誌情報
『「早生まれ」は損なのか-生まれ月格差の経済学』
著者:山口慎太郎
価格:946円
発売日:2026年6月8日
出版社:中央公論新社
レーベル:中公新書ラクレ

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