大河ドラマ『逆賊の幕臣』松坂桃李が演じる小栗忠順はどんな人物? 文豪が綴った「明治国家誕生のための父たち」

 NHKより翌年の大河ドラマ『逆賊の幕臣』の新キャストが発表された。主演の松坂桃李に加え、上白石萌音、鈴木京香、北村有起哉、岡部たかし、中村雅俊ら実力派俳優たちが顔を揃えた。本作は、幕末に「逆賊」として命を落とし、明治以降の歴史から長くその名が伏せられていた幕臣・小栗上野介忠順の生涯を追う物語で、脚本を執筆するのは朝ドラ『おかえりモネ』などで登場人物の内面を繊細に紡いできた安達奈緒子だ。歴史愛好家や文学界が長く待ち望んでいた「小栗の真実」が、令和の時代に新たな視点で構成されることになる。

 小栗忠順という名に馴染みのない人も多いかもしれないが、あの勝海舟と共に「明治国家誕生のための父たち(ファーザーズ)」と称される重要人物。作家の司馬遼太郎は『「明治」という国家』の中で、明治国家は江戸時代の無形の精神遺産の上に成立したと分析し、有形の財産として残った数少ない遺産の一つとして「横須賀ドック(造船所)」を挙げた。この巨大なインフラ建設に尽力し、司馬に「明治国家の設計図を書いた男」と言わしめた人物こそが、このドラマの主人公となる小栗であった。司馬は、海軍の基礎を築いた小栗を高く評価し、明治政府の近代化政策の多くが彼の模倣であったと鋭く指摘している。

 小栗の凄みは、圧倒的な先見性と「仕事人」としてのプロフェッショナリズムにある。1860年、日米修好通商条約の批准のために渡米した際、小栗は通貨の交換比率をめぐる困難な交渉に臨んだ。佐藤雅美の小説『覚悟の人 小栗上野介忠順伝』では、この為替交渉における小栗のタフさが生々しく描かれている。当時の日本は不当なレートにより大量の金が流出する危機にあったが、小栗はアメリカ側を説得するため、銀の含有量を量る実験を行うという論理的な手法を用いた。天秤や計算による実証で日本の主張の正しさを証明したこの交渉は、現代の貿易摩擦にも通じるリアリティがある。佐藤は時代の風潮に流されず、政治、経済、軍事のあらゆる面で最善手を考え抜いた小栗を、信念と覚悟を持って国の未来を切り開こうとした理想の政治家として活写した。

 ドラマの中で大きな焦点となりそうなのが勝海舟との関係である。2人は共に近代国家の基礎を築いた「父たち」でありながら、その歩みは対照的だ。勝海舟が、江戸の町を戦火から守るために新政府軍と交渉して江戸無血開城を実現し、維新後も新政府で要職に就いて生き抜いたのに対し、小栗はあくまで幕臣としての矜持を貫いた。安達奈緒子の脚本は、こうした歴史の波に翻弄されながらも己の信念を貫いた人間たちのドラマを家族との関わりを含めて鮮やかに再現するだろう。

 小栗は維新後、群馬の権田村で塾の教師や水田整備を行い、穏やかに暮らしていたが、新政府軍に捕らえられ「罪なくして」処刑されるという悲劇に見舞われた。しかし、彼が建設した横須賀製鉄所は明治政府に引き継がれ、後の日本海海戦の勝利を支える重要な基盤の一つとなった。東郷平八郎が小栗の遺族に「完全勝利は小栗さんのおかげ」と礼を述べたエピソードもある。

 『逆賊の幕臣』にて、司馬や佐藤といった作家たちが愛した小栗を松坂がどう演じるのか。「維新ファン」は今から楽しみでならないだろう。


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