『宇宙刑事ギャバン』が背負っていたものは何だったのか? 脚本家・上原正三の戦争体験

明朗な異邦人ギャバン

 2026年2月15日より、テレビ朝日系で『超宇宙刑事ギャバン インフィニティ』の放送が開始した。1975年から放送された「スーパー戦隊」シリーズに代わる新たな特撮ヒーローであり、1982〜1985年に放送された「宇宙刑事」シリーズのリメイクとされる作品だ。2000年に『仮面ライダークウガ』が始まったときと同じく、旧作の名称を継ぎつつ、新しい大胆なコンセプトによるヒーローとなるだろう。

 オリジナルの『宇宙刑事ギャバン』は、1982〜1983年に放送された、じつに44年前だ。この旧作版ギャバンは、いかなる背景を持つヒーローだったのか?

 それより以前、1970年代の東映特撮ヒーローは、たとえば、石ノ森章太郎原作の『仮面ライダー』(1971〜1972年放送)はバッタの改造人間、『人造人間キカイダー』(1972〜1973年放送)は左右非対称の不完全なロボット、『イナズマン』(1973〜1974年放送)は怪人のような外見のサナギマンから二段変身する超能力者といった具合に、普通の人間ではない、人外の異形の存在としての孤独の影を漂わせたキャラクターが目立つ。

 漫画やアニメにおいても、1970年代には、永井豪原作の『デビルマン』、梶原一騎・辻なおき原作の『タイガーマスク』など、異形の怪物じみた存在だったり、極端なハングリーさや孤独を背負ったヒーローが少なくなかった。しかし、『機動戦士ガンダム』(1979〜1980年放送)の大ヒットあたりから、比較的に普通の少年や青年、リアルな等身大のキャラクターが定着していく。特撮ヒーローにおいては、同時期に放送開始した『バトルフィーバーJ』(1979〜1980年放送)以降、スーパー戦隊シリーズにおいては、「強化服を着た普通の人間」というヒーローが基本となりつつあった。

 そんな1970年代末〜1980年代初頭の日本は、急速に第三次産業中心の総サラリーマン社会化が進んで「一億中流」といわれるようになり、社会が均一になっていった時期だ。義務教育を終えるとすぐ農家や工場で働くような若者は減り、極端な貧困や社会からの孤立は見えにくくなりつつあった。それゆえ、人外の異形の存在としての疎外感を抱えたヒーローや、極端なハングリーさを背負ったアウトロー的なキャラクターは、もはや時代にそぐわない雰囲気になっていたといえる。

 こうしたなか、1982年に放送開始した『宇宙刑事ギャバン』もまた、「強化服を着た普通の人間」のヒーローだ。キラキラと輝くメタリックで未来的なデザインは、1980年前後に大流行した、空山基によるロボット美女のイラストを思わせる。

 その主人公である一条寺烈は、バード星人で宇宙刑事だった父と地球人の母との間に生まれ、銀河連邦警察によって地球に派遣されて、行方不明となった父を探しているという設定だ。半分は普通の人間(地球人)ではない存在ながらも、演者である大葉健二の個性も相まって、きわめて明朗な異邦人というヒーローだった。

沖縄と戦争と宇宙刑事

上原正三『金城哲夫 ウルトラマン島唄』(筑摩書房)

 ギャバン=一条寺烈のキャラクターをつくったといえるのが、同作のメイン脚本家を務めた上原正三(1937〜2020年)だ。沖縄県出身の上原は、同郷の金城哲夫(1938〜1976年)の誘いを受けて、1966年に『ウルトラQ』のシナリオを執筆。以降は『ウルトラマン』(1966〜1967年放送)、『秘密戦隊ゴレンジャー』(1975〜1977年放送)、『がんばれ!!ロボコン』(1974〜1977年放送)、『宇宙海賊キャプテンハーロック』(1978〜1979年放送)ほか、多数の特撮ヒーロー、アニメの脚本を手がける。

 上原の著書『金城哲夫 ウルトラマン島唄』(筑摩書房)には、映画青年仲間だった金城との関係、上原と金城の戦争体験、戦後の沖縄をめぐる状況が詳細に記されている。上原と金城が上京し、初期のウルトラシリーズに関わった1960年代後半、まだ沖縄は米軍の占領統治下にあり、パスポートがなければ日本に来ることができない「外国」であり、彼らは異邦人の立場だった。上原は脚本家を志した初期、この沖縄と本土の距離感を大きなテーマにした、『収骨』というシナリオで芸術祭奨励賞を受賞している。

切通理作『怪獣使いと少年 ウルトラマンの作家たち』(洋泉社)

 1984年に上原はSF特撮雑誌『宇宙船』(朝日ソノラマ)のインタビューで、沖縄から日本を見るのと同じ視点で宇宙人や怪獣の視点から人間を描いていると語っていた。評論家の切通理作は、『怪獣使いと少年 ウルトラマンの作家たち』(洋泉社)のなかで、上原の「僕には日本人のドラマが書けないんです」「やっぱり沖縄のことを抜きにしては書けない」という発言を記している。そして、上原の青年期、日本の大人向けドラマには沖縄人も朝鮮人も明言された形で登場しなかったが、ロボットや宇宙人や怪獣といった人外の「異者」が大量に登場する特撮ヒーローやアニメは、上原にとって「ピッタリの素材」だったと述べる。

 ——さて、筆者は2005年に、雑誌『TONE』(ユニバーサルコンボ)で、上原氏を取材して戦争体験を聞かせていただいたことがある。大戦末期の1945年、当時7歳の上原氏は、米海軍の潜水艦による攻撃におびえながら海を渡り、熊本県千丁村(現在の八代市)に疎開した。滞在地となった寺院では幽霊を見たという。同時期、警察署長を務めていた上原氏の父は沖縄にとどまり、米軍の猛攻の下で住民の避難誘導に追われていた。このときのことを、「無意識のうちに、親父といたかった、ってのはのはあったんだろうねえ。ただ俺は、お化けの怖い、気の弱いガキだったんだ、って自分で思ってたんだけど」と語られた。

杉作J太郎『宇宙刑事ダイナミックガイドブック』(徳間書店)

 これを聞いて筆者は、「そういえば『宇宙刑事ギャバン』は、ギャバンが、同じく宇宙刑事で生き別れの父を探すお話でしたね、それはそういう体験の影響が……」と問いかけた。すると、苦笑まじりに「ああ、それは無意識にあるよね、当然。でも「父恋」とか「母恋」ものって、照れくさいじゃないですか。だから、ああいう宇宙みたいな、とんでもない、突拍子もない設定の中ではやれるけど、身近な地域が舞台のものではやれませんよ」との返答をいただいた。

 上原氏は、自分の作品にたびたび、自身の過去の体験、沖縄と戦争のメタファーが織り込まれていることを認めている。『宇宙刑事ギャバン』に続く『宇宙刑事シャリバン』(1983〜1984年放送)では、主人公のシャリバンこと伊賀電は、悪の組織マドーに滅ぼされたイガ星人の末裔という設定だ。物語の後半、イガ星人の子孫たちが掲げる旗に描かれた獅子のシンボルマークは、沖縄の神獣シーサーによく似ている。また、イガ星人の子孫たちが住む奥伊賀島には、マドーが狙う超エネルギー結晶体のイガクリスタルを守る白衣の少女たちがいるが、彼女らの姿は、沖縄戦のおり女学生によって組織されて悲劇的な最期を迎えたひめゆり学徒隊を連想させる。

受け継がれるヒーロー像

 時は流れ、2020年代の現在も東映特撮ヒーローにおいて、普通の人間ではない、異形のキャラクターを中心に紡がれるドラマは生き続けている。

 たとえば、『機界戦隊ゼンカイジャー』(2021〜2022年放送)は、人間(地球人)のゼンカイザーこと五色田介人と、キカイノイドと呼ばれる4人の機械生命体からなる戦隊だ。ロボットのような機械生命体と人間が摩擦しつつ共生する姿は、上原の代表作のひとつ『がんばれ!!ロボコン』の雰囲気にも似ている。また、『仮面ライダーガヴ』(2024〜2025年放送)の主人公ショウマは、人間と異世界人グラニュートの間に生まれ、同族のグラニュートと戦うことに苦悩しつつ、人間との相互理解を模索する。こうしたヒーローの姿には、異邦人の視点から日本を見ていた上原正三のように、人外の存在を通じて人間社会を相対化する視点が、今も息づいている。

 そして、新たに始まる『超宇宙刑事ギャバン インフィニティ』は、「宇宙共生時代」を舞台とし、複数の多元地球にそれぞれ宇宙刑事が存在しているという。多様な地球人、異星人らによる、それぞれの価値観や正義が交錯する複雑なドラマとなるようだ。

 「スーパー戦隊」シリーズの終了と、『超宇宙刑事ギャバン インフィニティ』の発表にあたり、東映キャラクター戦略部担当役員の白倉伸一郎は、SNSや報道媒体で製作サイドのスポークスマンのような立場を務めた。白倉は、先にふれた『機界戦隊ゼンカイジャー』や、『仮面ライダーアギト』(2001〜2002年放送)をはじめ、1990年代以降の数々の東映特撮ヒーロー作品のプロデュースを手がけ、これまで多くの場で、石ノ森章太郎や、上原正三が描いてきた先行するヒーロー作品へのリスペクトを語っている。

 旧シリーズの『宇宙刑事ギャバン』をはじめ、数々のヒーロー作品が背負っていたものは、今後も形を変えつつ引き継がれていくことだろう。(文中敬称略)

■参考
『超宇宙刑事ギャバン インフィニティ』
「PROJECT R.E.D.(Records of Extraordinary Dimensions)」
https://x.com/ProjectRED_Toei
https://www.toei.co.jp/entertainment/tv/GavanInfinity/detail/index.html

上原正三『金城哲夫 ウルトラマン島唄』(筑摩書房)
https://www.amazon.co.jp/dp/4480885072

切通理作『怪獣使いと少年 ウルトラマンの作家たち 増補新装版』(洋泉社)
https://www.amazon.co.jp/dp/4800306159

杉作J太郎『宇宙刑事ダイナミックガイドブック』(徳間書店)
https://www.amazon.co.jp/dp/4197301324/

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