藤井流星はなぜ“ベタベタな演出”で撮る必要があるのか? 『ぜんぶ、あなたのためだから』オーガニックなキュン演技を考察

藤井流星のことはベタな演出で撮らなければならない?

わたなべ志穂『18歳、新妻、不倫します。』(小学館)

 2023年放送のドラマ『18歳、新妻、不倫します。』(朝日放送テレビ・テレビ朝日)は徹頭徹尾、キュン要素を炸裂させる作品だった。令和の現代社会だというのに未だ「治外法権」が許された財閥の令嬢とボディガードが偽装結婚するという非現実的なラブコメ設定(原作はわたなべ志穂による漫画作品)も相まって、非日常のキュンをこれでもかと供給する世界観の中でボディガード役の藤井流星がわかりやすい供給源になっていた。

 令嬢が屋敷に入ってくるなり、護衛用の真剣を持った藤宮煌(藤井流星)が手始めに顎クイ。室内の壁際に移動して壁ドン。さらに手にしていた真剣も使って刀ドンで畳み掛ける。令嬢目線になったカメラが藤井を仰ぎ見て決め台詞(きらきらフィルターまで駆使)。時代的にまだ過剰なキュン攻めがテレビドラマに求められていた2023年らしい演出だったが、それにしてもここまでベタにベタを塗り重ねた演出にする必要があったのだろうか?

 あったのである。なぜなら、藤井流星のことはベタな演出で撮らなければならないからだ。これはお達しみたいな暗黙の決まり事であり、そこに藤井流星がいるなら、カメラは自ずとキュンが抽出可能なポジションに置かれ、藤井もまたキュンが最大の効果を発揮するアングルをほとんど自動計算して高濃度・高糖度の決め顔アップなどをアウトプットする。藤井流星にとってのベタな演出とは作法とも言える。主演最新作『ぜんぶ、あなたのためだから』(テレビ朝日系、毎週土曜よる11時放送中)では、こうした作法に対する客観的視点まで新たに設けられている。

高品質保証付のオーガニックなキュン演技

 本作は新郎新婦が今まさに愛を誓おうとする教会の場面から始まる。新郎・林田和臣(藤井流星)が新婦・林田沙也香(井桁弘恵)を優しい眼差しで見つめ、目をつむり、誓いのキスを交わす。一連の動作は全てスローモーションで引き延ばされ、カメラは前後左右さまざまなアングルから二人を何ショットも収める。

 まさにベタベタな演出による凡庸な挙式風景。すると新郎新婦が退場しようというところで、カメラマン・桜庭蒼玉(七五三掛龍也)のモノローグが不意に流れる。退屈する彼はこう言う。「予定調和に飽き飽きする」。なかなかの酷評だが、これは実際に挙式風景を見つめる視聴者にとってもドラマ内の列席者にとっても心にうっすら抱いた感想を代弁してくれる客観的視点ではないか(原作の桜庭はもう少しマイルドに評している)。この挙式風景が輪をかけてベタであることを物語っているのだ。

 藤井流星のことはベタな演出で撮らなければならないという規則に則るなら、むしろ好条件だ。第1話のワンショット目から引き延ばされたスローモーションが緩やかに動きだす引きの絵だった。相手俳優を見つめる藤井の演技は、白みがかった柔らかな画面内で一際輝いて見え、早くもキュンとさせる。さらに持続するスローモーションの中で眉毛と目元あたりだけを微動させて視線を流していく顔のアップからは、高濃度・高糖度ではない分、高品質保証付のオーガニックなキュン演技が引き出されていた。

藤井流星の最低音「え?」は原作に書かれているのか?

 藤井流星の大きな魅力は特徴的な低音ボイスにある。本作の一つ前の出演ドラマ『スティンガース 警視庁おとり捜査検証室』(フジテレビ系、2025)では野性味溢れる刑事役を演じ、第1話冒頭から声による魅力が強く打ち出されていた。おとり捜査中の乾信吾(藤井流星)が車内で待機している時に短く漏らす「あぁ」というため息のような吐息。その後の会話でも枕詞のように「あぁ」を反復していた。

 いずれの「あぁ」も端正でディープな低音ボイスだった。それが車内に響くことで緊張感が漂う。この母音の低音を同じ場面で何度か繰り返すという反復は、『ぜんぶ、あなたのためだから』でも共通している。新婦がヴァイオリン演奏中に吐血した披露宴後、和臣と新婦の母親・若松香(松下由樹)との会話場面に傾聴してみる。香が「恥ずかしいったらないわ」と語気を強めたところにお茶を淹れて持ってきた和臣が思わず「え?」と聞き返す。この「え」がここまでの場面の藤井にとって台詞中の最低音になるのだが、藤井の魅力をコンパクトに集約した一語であるだけにこれは原作にも書かれているのか気になる。

 和臣と香による会話後にカメラマンの桜庭が訪問する流れは(場所が違うが)原作でも同じなのだが、少し違うのは「え?」という聞き返しを反復する人物がむしろ桜庭の方である点だ(原作の和臣は一度だけしか聞き返していない)。ドラマの和臣は桜庭がやってくるなり、3つの台詞の内で2つも「え?」を畳み掛けている。原作の細部を改変した「え?」を藤井に言わせる意図は明らかだろう。本作は、藤井流星の低音ボイスというわかりやすい(ベタな)魅力を細やかな入れ替えで的確に抽出しているのだ。

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