『このラノ2026』『あそびのかんけい』文庫部門1位 TVアニメが好評『サイレント・ウィッチ』は単行本・ノベルズ部門1位に
ライトノベルの今が分かる『このライトノベルがすごい!2026』(宝島社)が出て、葵せきな『あそびのかんけい』(ファンタジア文庫)が文庫部門の1位に輝いた。ボードゲームを遊べるカフェを舞台に、少年少女が「好き」という気持ちを隠して繰り広げるやりとりが、甘酸っぱさを感じさせ恋路を応援したい気持ちをかき立てて読者を引き付けた。単行本・ノベルズ部門はTVアニメが好評だった依空まつり『サイレント・ウィッチ 沈黙の魔女の隠しごと』(カドカワBOOKS)が1位を獲得した。
『あそびのかんけい』の1位は、今現在よりも少し先の人気を先取りしてみせたものかもしれない。一般からの投票によるWEBポイントは、30位までに入らないポイントに留まりながら、ライトノベルをよく読んでいる協力者からのポイントでは、2位の倍以上となるポイントを獲得した。
『このラノ2021』で裕夢『千歳くんはラムネ瓶のなか』が協力者ポイントで1位となり、WEBランキングだけでは6位だったものを文庫部門1位に押し上げたことはあったが、WEBランキングで圏外にあった作品が1位になったのは異例中の異例。それだけ先読みをする協力者の間で、『あそびのかんけい』への注目が高かったということだ。昨年までは5作まで選んでいたものが、今年は10作を選ぶようになったことで、ポイントが例年にも増して積み重なったこともあるかもしれない。
作品自体は、『生徒会の一存』や『ゲーマーズ』といったヒット作を幾つも出している作者によるものだけに確かな面白さ。ボドゲカフェの店長代理として働く常盤孤太郎と、ボドゲのことをまるで知らないにも拘わらずバイトに入ってきたギャルの小鳥遊みふるの関係を軸に、将棋の女流棋士や覆面姿の怪しい女子やみふるの彼氏らしい美少年が絡んで恋のドタバタを繰り広げる。時系列を前後させて登場人物たちの過去や心情がだんだんと見えてくるようにした構成もユニークで、読み進むうちにそうだったのかと驚きを味わえる。
最新の『あそびのかんけい2』ではラストに衝撃の展開が待っている。登場人物が増えたこともあって第3巻以降ではより複雑な人間関係を楽しめそう。今回の1位獲得でアニメ化も取り沙汰されるようになれば、イラストを手がける深崎暮人が描くキャラクターがどのような声でどう動くのかも楽しみになる。とりあえず女流棋士の歌方月乃を誰が演じるのか、どれだけ演じきれるのかが興味津々だが、当面はやはり小説の進展が気になる。その振る舞いで女子たちを引き付けて止まない孤太郎に女性ファンもついて盛り上がっていくか? 注目したい。
『サイレント・ウィッチ』は、『このラノ2025』の単行本・ノベルズ11位からランクアップしての1位獲得。人見知りでひきこもりの性格からあまり喋らなくて済むように修得した無詠唱魔術の威力が凄まじく、七賢人のひとりにまでなってしまったモニカ・エヴァレットが王子の護衛に引っ張り出され、正体を隠して学園に通うようになるというストーリー。無能に見えて実は凄いという意外性から来る面白さがあり、7月から10月まで放送されたアニメの完成度も高かったことで、一気に注目を集めたようだ。
文庫部門は、昨年1位を獲得した雨森たきび『負けヒロインが多すぎる!』(ガガガ文庫)、佐伯さん『お隣の天使様にいつの間にか駄目人間にされていた件』(GA文庫)、燦々SUN『時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん』(スニーカー文庫)がランクインした。ニテーロン『転生程度で胸の穴は埋まらない』(電撃文庫)は協力者ポイントを多く集め、上位にした。
逆井卓馬「-デルタとガンマの理学部ノート-」(電撃文庫)シリーズや、立川浦々『ミドルノートにさよなら』(ガガガ文庫)も協力者ポイントで引っ張り上げられた作品。ここから『このラノ2026』は少し未来のラノベ人気を映すランキングだと言えるかもしれない。こうなると、WEBポイントがありすぎて上位を占め続け、殿堂入りとなる作品が今後出てくるのかが気になるところだ。
単行本・ノベルズ部門は逆に、WEBポイントを集めた作品がランキングに並んだ。十夜『転生した大聖女は、聖女であることをひた隠す』(アース・スターノベル)と『悪役令嬢は溺愛ルートに入りました!?』(SQEXノベル)、天岸久弥『魔導具師ダリヤはうつむかない~今日から自由な職人ライフ~』(MFブックス)、伏瀬『転生したらスライムだった件』(GCノベルズ)は、いずれも協力者ポイントはゼロ。マーケットを反映したランキングと言えそうだ。
本条謙太郎『汝、暗君を愛せよ』(DREノベルス)は、8月の発売から間もない作品ながらWEBポイントと協力者ポイントがしっかり入っていて、誰もがすぐにでも認めざるを得ない面白さを持った作品だったことが伺える。12月に出る第2巻も同様の面白さで読者を引き付けるようなら、『このラノ2027』ではノベルズでありながら総合で上位に進出する可能性も低くはない。
イラストレーター部門は、文庫部門でも入賞した佐伯さん『お隣の天使様』を手がけるはねことが1位となった。昨年のブレイクが今も続いている『負けヒロインが多すぎる!』(ガガガ文庫)のイラストを手がけるいみぎむる、『アーリャさん』のももこと小説も人気の作品や、永野水貴『恋した人は、妹の代わりに死んでくれと言った。』などのイラストを手がけている人気のイラストレーター・とよた瑣織らがランクイン。
同じく上位に入った竹嶋えくは、TVアニメが注目を集め、放送からこぼれた第13話から第17話までを見せる劇場版が連日満席となる人気のみかみてれん『わたしが恋人になれるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった!?)』(ダッシュエックス文庫)を手がけている。『わたなれ』の急激な人気ぶりからすると、来年のランキングで作品ともども躍進しそうだ。
こうなると、キャラクター部門でも『わたなれ』から甘織れな子を筆頭に王塚真唯や瀬名紫陽花のランクインも期待したくなるところだが、同部門がなくなった今年と同じレギュレーションならそうした夢も儚く消える。そもそも『このラノ2025』で作品タイトルそのままに2位の”負けヒロイン”に甘んじた『負けヒロインが多すぎる!』の八奈見杏菜に、雪辱の機会が訪れないことの方が問題だが、最後の”負けヒロイン”として『このラノ』の歴史に刻まれると思えば、これもまたふさわしい仕打ちなのかもしれない。