高校生向け“資料集”なぜベストセラーに? 山川出版社に聞く「大人の学び直し」需要拡大の背景

 高校生向けに作られた資料集・便覧を、大人が読む。そんな需要が近年高まっているのをご存知だろうか。例えば第一学習社が刊行している国語の資料集『カラー版国語便覧』は、「過去の日本を題材にしたゲームやコミックの背景を理解するのに役立つ」とSNSで話題となり、異例の大ヒットを記録した。

 他の教科に関しても、資料集がヒットした例はある。世界史に関しては、2025年5月に山川出版社の『詳説世界史図録 第5版』がAmazonの「世界史一般の本」カテゴリーにおいてベストセラー1位を記録。テレビ番組でも好調ぶりが紹介されるなど、「大人が高校生向けの資料集を読む」ことが大きな話題となっている。

 「大人の学び直し」需要の大きさを示すようなこれらの出来事だが、では出版社側はこういった動きをどう捉えているのだろうか。中学・高校向けに地理・歴史の教科書を作り、『詳説日本史図録』『詳説世界史図録』などがヒットしている山川出版社の、販促担当者、担当編集者に取材してみた。

 当たり前の話だが、『詳説日本史図録』『詳説世界史図録』はもともと一般向けの書籍として作られた本ではなく、高校生向けの教材である。しかし、高校生以外の人でも購入可能であった。

「『詳説世界史図録』は今も変わらず、高校生向けの副教材として発行しています。ただ、発売当初から書店でも販売を行っていました。その際に『手ごろな価格で、内容が非常に充実している』と評価され、高校生以外の一般の方々にも手に取っていただくケースが見られました。他にも、弊社の用語集や一問一答シリーズも、大人の方が購入するケースのある書籍です」(山川出版社 販促担当者)

 これらの書籍が大人向け・一般向けとしても大ヒットしたのは、今年の5月以降。SNSでの投稿が話題となったころである。売れ行きや話題の広がりに関して、版元としてはどのように捉えていたのだろうか。

「『詳説世界史図録』、『詳説日本史図録』ともにSNSでの投稿が話題を呼んだ5月の数字で言うと、出荷ベースで前年の3倍の数字を記録しました。数字としての動きや取材件数に表れているので、これらの本に対して大人の読者から反応があることは認識しています。特に今年はいつも以上の反応をいただいているので、驚きと嬉しさが入り混じった気持ちです」(山川出版社 販促担当者)

 日本史・世界史の図録がベストセラー化した原因に対して、山川出版社はその理由をこう認識している。

「いくつか背景があると思いますが、よく話を聞くのはドラマや映画、ゲームなどの背景を知ることで、よりその作品を楽しんでいる方です。特に『詳説世界史図録』は図録は地図、年表などビジュアルが多いので、文章で読むより視覚的にわかりやすくなっています」(山川出版社 販促担当者)

 では、ベストセラーとなった『詳説世界史図録』を改めて読む場合、編集部おすすめの読み方はどのようなものなのだろうか。

「『詳説世界史図録』は、世界で起きている様々なニュースの背景を理解するのに役立ちます。たとえば、パレスチナ問題については特集ページ(p.248-249)を設けて見開きでまとめており、その複雑な歴史的背景を簡潔に知ることができます」

「他にも『世界の宗教』『感染症と世界史』『地球環境と歴史』など、現代社会につながる様々なテーマを特集ページで解説しています。歴史をテーマにした海外ドラマなども多く放映されていますが、『詳説世界史図録』を手元におき、劇中に登場する人物の系図やできごとの年表を参照しながら鑑賞することで、物語の背景にある歴史的な流れや人間関係をより深く理解でき、作品をさらに楽しむことができるかと思います」

「また、ガイドブック感覚でお使いいただくのもおすすめです。ユネスコ世界文化遺産には専用のマークをつけ、多くの美術作品には所蔵先を明記していますので、旅行前にその土地の文化や歴史を予習できるだけでなく、新たな目的地を見つけることにも活用できるのではないでしょうか」(山川出版社 担当編集者)

 『詳説世界史図録』を実際に読んでみると、数世紀ごとの世界の変化を全地球レベルで見ることができる巻頭の「同時代の世界」や、宗教や世界認識といったトピックごとの解説により、まず本の最初の部分で世界史に関する基礎的な知識を得られるようになっている。さらに各時代・各地域の歴史を追っていく本筋の解説ページも、図版が多く読みやすい。現在の国際ニュースを見る上で一冊手元に置いておくと、確かに理解が深まりそうだ。

 山川出版社の担当編集者が話すように、これらの資料集は勉強の助けとなるだけではなくさまざまな使い道があり、加えて学習用の資料であることから価格も安い。これだけ便利なものが再発見されたのならば、「大人の資料集・参考書需要」の高まりにも納得なのである。

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