『禁忌の子』山口未桜による新作は“クローズドサークル” 各出版社のミステリ勝負作がオリコン文芸ランキングに出揃う

 8月第4週のオリコン週間文芸書ランキング(2025年09月08日付、推定売上部数をもとに算出)は、前週に続き、知念実希人の『スワイプ厳禁 変死した大学生のスマホ』(8月20日発売、双葉社)が第1位を獲得した。同作については前回の記事で詳しく取り上げたが(知念実希人の“スマホ型”ホラー小説、オリコン文芸ランキング1位に 恐怖を追体験できる作品に脚光|Real Sound|リアルサウンド ブック)、疑似的な体験を提供するホラーの隆盛を象徴するヒットであると捉えることが出来るだろう。同書と連動した作品である『閲覧厳禁 猟奇殺人犯の精神鑑定報告書』(双葉社)も控えており、今後ますます注目されるのではないだろうか。

 ホラーの流行を改めて感じさせる一方で、今回のランキングでは対照的な2つのミステリがランクインしていることにも着目したい。

 第7位の山口未桜『白魔の檻』(8月29日発売、東京創元社)は、2024年に『禁忌の子』(東京創元社)で第34回鮎川哲也賞を受賞しデビューした著者の第2作。『禁忌の子』は自分と瓜二つの遺体の謎を追う救急科の医師・武田と、その友人である消化器内科医の城崎響介の姿を描く本格謎解きミステリで、2025年本屋大賞で第4位に選ばれるなど、ミステリファンのみならず多くの読者に支持された作品だった。『白魔の檻』はデビュー作に続き城崎響介が登場し探偵役を務めるのだが、今回は山奥にある病院を舞台にしたクローズドサークルものの謎解き小説になっている。前作が地道に謎を調べる捜査小説の要素も強い作品だったの対し、『白魔の檻』は閉鎖的な状況下の謎解きに真正面から挑んでおり、ミステリ作家としての著者の幅広さを見せつけることとなった。

 過去作とは異なる趣向に挑んだミステリという意味では第9位の櫻田智也『失われた貌』(8月20日発売、新潮社)も同じだ。同作については櫻田智也『失われた貌』なぜ注目されている? 仮説と検証を地道に重ねていく“捜査小説”としての幹の太さ|Real Sound|リアルサウンド ブックで注目すべきポイントを整理したので詳しくはそちらを参照いただきたいが、それまでレギュラー探偵を配した連作形式の短編ミステリを書いていた著者が初めて長編に挑んだ作品であり、しかも丹念に謎を追う捜査小説の色合いが濃いものを書いたことも重なって注目が高まっていた。今年度末のミステリ小説ランキングを視野に入れて各社が勝負作を刊行する中で、それまでの自作とは違う趣向を試したミステリが2作ランクインしていることは面白い。

関連記事