全てが前代未聞のアニメ映画『ChaO』 キャラデザインも動きも背景美術もわかるアートブックが凄い
アニメーションでは少しずつポーズや表情を変えた絵を何枚も描いて、それを連続させて動きを表現する。『「ChaO」ARTBOOK』の「作画」のコーナーには、そうした原画が掲載されて複雑な動きが1枚1枚絵を描くことによって表現されていることを理解できる。まん丸のシー社長と普通の人間のステファンが、同じフレームの中でそれぞれに違った動きをするシーンの原画が連続で掲載されているページでは、アニメーターの動きと表情の捉え方を感じ取れる。
魚の姿のチャオが表情を歪めて泣くシーンも、人間のような姿になったチャオが水しぶきを散らしながら踊るシーンも同様だ。人間の姿になったチャオが表情を暗くし、後ろ姿になって前身をとろけさせ、やがて魚の姿に戻って来ていた服を散らしながら歩くシーンなど、よくぞ描いたものだと驚ける。アニメーターを志す人なら見ておいて損のない作例だろう。
背景美術、ロボットデザイン…… 10万枚に込められたクリエイターたちの魂
「美術」も見どころがたっぷりだ。上海を舞台にしているといっても、写真で見るような精緻な感じではなく高層ビルが建ち並ぶ近未来的な場所から、ステファンが暮らすアパートや雑居ビルが建ち並ぶ近代的な場所まで、さまざまなシーンを独特の色使いで描いている。1枚が絵画作品と言っても良い緻密な背景画をシーンに応じて何枚何百枚と描くアニメの美術の仕事ぶりに触れられるコーナーだ。
映画のエンドクレジットを見ていくと、ロボデザインで森本晃司という名前が登場する。オムニバス映画『MEMORIES』の中で「彼女の想いで」という1本を監督し、パイロットフィルム版の『鉄コン筋クリート』(1999年)やケン・イシイのミュージックビデオ『EXTRA』(1995年)も監督して世界が認めるクリエイターだ。『「ChaO」ARTBOOK』には映画に登場するロボットのデザイン画も収録されていて、どれかが森本の仕事なのかもしれないと想像する楽しみがある。
どの絵1枚をとってもクリエイターの技が込められたものが、キャラクターなら動かされ原画なら中割の動画とともに撮影されて彩色され、1本の映像となって映画としてスクリーンに投影される。緻密な背景美術も重ねられ、『ChaO』という映画の世界を創り出す。それだけの作業、企画段階も含め9年がかりで10万枚の作画が行われた映画が映像として凄くない訳がない。
なおかつ人間と人魚という異なる背景を持つ種族が、理解し合うようになって共に暮らすようになるまでを描くテーマ性も持っている。そこへと至る挫折から理解を経て再会へと至るドラマには涙を流さずにはいられない。前代未聞の絵柄でオーソドックスな恋物語を時にコミカルに描き、時にド派手なアクションを交えて描いた過去に類がなく、未来にも早々は登場してこない映画をスクリーンで見ない手はない。その証拠を『「ChaO」ARTBOOK』から感じ取ろう。