全てが前代未聞のアニメ映画『ChaO』 キャラデザインも動きも背景美術もわかるアートブックが凄い

 『ChaO』が凄い。8月15日に公開されたアニメ映画のことだが、松本大洋の『鉄コン筋クリート』や五十嵐大介『海獣の子供』といったクセ強の絵柄の漫画をアニメ映画にしてきたSTUDIO4℃の制作だけあって、フォルムも顔立ちもハイセンスなデザインのキャラクターたちが、近代と近未来が入り混じったような中国の上海を舞台に動き回る見て驚きの映像に仕立て上げた。『「ChaO」ARTBOOK』(大誠社)にはそんな映画に登場するキャラクターから背景美術からプロップデザイン、そしてアニメのために描かれたレイアウトや原画が収録されていて、隅々まで想像力や画力が行き届いた「絵」の数々が、『ChaO』という作品の凄さを目の当たりにさせてくれる。

『ChaO』の何が特異なのか

 上海にある船舶会社で働いているサラリーマンのステファンは、いつかスクリューに変わる船舶用のエアジェットエンジンを作りたいと考えていた。もっとも、下っ端社員では夢が叶うはずもなく、社長に疎まれ船の甲板掃除に回されてしまったが、そこで起こったドタバタの最中に海に落ちたステファンを、人魚のお姫さまが助けてそのままステファンと結婚すると言い出した。

 そんな展開から幕を上げるアニメ映画『ChaO』。チャオと呼ばれるようになったお姫さまは、人魚といってもディズニーのアニメ映画『リトル・マーメイド』(1989年)のように上半身が人間で下半身が魚という感じではなく、全身が大きくて丸っこい魚という姿。それがひれを足のようにして二足歩行するから何とも興味深い。見ようによっては丸っこくて愛らしいが、結婚したくなるかというと魚ではやはりステファンも二の足を踏む。

 そもそもどうしてチャオに結婚を求められなくてはならないのか。チャオにはしっかりとした理由があるようで、自信たっぷりにステファンとずっと一緒にいると言うが、ステファンにはまったく身に覚えがなく、押しかけてきた人魚のお姫さまに困り、彼女が料理といって差し出す生きたデンキウナギに弱る。それでも追い出さなかったのは、チャオと結ばれることで、会社がステファンのエアジェット開発にゴーサインを出したからだった。

 愛してもいない女性を自らの利益と引き換えに受け入れる気まずさはあったが、ステファンに好かれようとして料理を覚えるチャオにステファンも心を許すようになる。そこに起こった大事件。チャオとの関係が大きく揺れ動く中で、ひとり故郷の漁港に戻ったステファンは、過去にいったい何があったのかをすべて思い出す。

 ストーリーは実に明快。それをアーティスティックともファッショナブルとも言えそうなデザインのキャラクターたちによって描くところに、『ChaO』というアニメ映画の特異性がある。

『「ChaO」ARTBOOK』からわかるSTUDIO4℃の力

 『「ChaO」ARTBOOK』に収録されているキャラクターデザインを見ると、誰も彼もが丁寧に、そしてシチュエーションを想定して大量にデザインされていることが分かる。たとえば、魚の姿をしたチャオは、三面図的なデザインだけでなく大きく口を開けたり驚いたり寝たり恥ずかしがったりする表情が、仕草と共に描かれていて見るだけでその心情が伝わってくる。

 アニメ映画は、これをただ1枚の絵として描くのではなく動かしてみせたのだから相当な技術だ。『鉄コン筋クリート』(2006年)や『海獣の子供』(2019年)、そして湯浅政明監督の作品でも絵柄の独特さで伝説となっている『マインド・ゲーム』(2004年)を制作したSTUDIO4℃の作品だけのことはある。ステファンや彼の友人のロベルタにマイベイ、ステファンを雇っている船舶会社のシー社長も多彩な表情がデザインされていて、映画の中で心情を表現するために、ここまで設定を作り込むものだということが分かるようになっている。

 『ChaO』のキャラクターはロベルタやマイベイのように細身だったり、シー社長のように丸々ととしていたりと統一された頭身になっていない。ステファンを訪ねてくる親戚は男性も女性も頭が大きくまるで二頭身。ステファンの会社の男前部長というキャラクターは、サイズがステファンの膝にも達しない小ささだ。そうしたスケールの違うキャラクターを同じフレームの中に入れ、動かしてなお統一感を持たせるためにどれだけの技術が使われたのか。これだけでも『ChaO』というアニメ映画の凄さが分かるだろう。

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