著者が体験した恐怖と絶望の終わりなき日々『なぜ「あしか汁」のことを話してはいけないのか』取材中には怪奇現象も……
■「皆様にも知っていただく必要がある」
――ご自身が“一生が台無しになった”とまで語るほどの代償を払っても、この記録を残そうと決めたのはなぜでしょうか。
三浦:当初は本にするつもりはなかったです。だから、編集担当のアベさんに出版の話をいただいたときは、どうしようか……と迷いました。広めてしまってもいいのか、本にさせてもらってもいいのかと考えました。それでも、熱心にお話をいただいたので、出すべきだなという結論に至りました。
私の人生はもうお終いですが、皆様なら解決する方法が探し出せるかもしれません。このまま私が何も明かさずにいなくなれば、今後も一生を台無しにする人が現れることでしょう。だから今のうちに、“あしか汁”の真相をより多くの方に知っていただき、事実を共有していただき、広めていただきたいと思いました。
――本書を書き終えた、現在の心境をお聞かせください。
三浦:執筆中はやはり使命感が強かったですね。私が知ったことを、しっかりと書き残し、届けなければ、という思いでいっぱいでした。どんな感情と表現すればいいのかわかりませんが、書くというより書かされたような思いがあります。そして、書くならばしっかり発表したいという思いがありました。
書き終えてからは脱力感に襲われ、達成感のようなものはありませんでした。私が書くべきことは書き残しましたし、できる限りのことはやったという心境ですね。ただ、今でも、完成したという気持ちにはなれません。まだ終わっていない、とすら思っています。それでも、本にしていただけたことはありがたいです。あとは、単なるホラー小説という範疇で終わるのではなく、多くの方々の目に触れる本になることを願っています。
■住職の手元にこの本が渡ることへの心配
――カギになる人物の一人が、兼元裕司住職です。
三浦:兼元住職には真実をすべて話すことも考えましたが、やはり穏便に済ませることにしました。本当は住職こそ、知るべきだったと思うのですが……。ちなみに、住職はあまりネットを見る方ではありません。この話は、ネット上で発表している分には知られていないと思っていましたが、今はこの本が彼の手元に渡って誰かに話してしまうかもしれないことだけが心配です。
この本では人物の名前まではフィクションにしているので、住職ももちろん本当の名前ではないのですが、刊行の前に一度お会いしなければいけないと思っています。
――巻末に収録された浜倉さんの日記も、強烈な印象を受けました。あの記録を読者に残すことにした理由、そして三浦さんが日記から受け取ったものとは何だったのでしょうか。
三浦:あの日記を見た時、私はまともではいられませんでした。浜倉くんは本当に仲の良い友達だったので、彼がここまで思い悩んでいたんだなと知りましたし、日記のなかの彼は私の知っているイメージと違っていました。私のせいで彼を苦しめてしまったかと思うと、本当に申し訳なく思っています。
ただ、彼が身をもって体験した日記を公開すれば、本をお読みになった方に真実を伝えることになると思い、ご家族の方に掲載の許可をお願いしました。彼も公開されることを望んでいたはずですし、きっと喜んでいることでしょう。日記にある通り、私に手をかけようと思ったことがあるようですが、彼は思いとどまってくれたようです。
思いとどまった理由を考えてみると、彼はオカルト好きですから、自分だけはこの影響を受けまいと考えたのだと思います。彼の意地、プライドを感じずにはいられませんでした。
■関心を持ったら不幸になる?
――三浦さんは今も、不安と恐怖の日々を過ごしていると思います。本書を手に取った方々に対して、どのような思いをお持ちでしょうか。
三浦:タイトルやあらすじ、もしくはこのインタビューに興味をもち、本書を手に取ってくださった方には大変感謝しています。ただ、もしかすると、それがまた新たな不幸を招くことにならないかと心配もしています。そもそも、本になって出版されることや、インタビューを受けることも、なんだか不自然なように感じています。
今回、私は体験したことを伝えるという役割ですから、あとは読んでくれた人がどんな気持ちで受け入れ、どう感じていただけるかが大事です。嘘であると思われたなら仕方ありませんし、つまらない話だと思ったらそれでもいいと思うのです。
なんだか、皆さんが私を騙しているような、私の居場所を探っているような気もします。そのくらい、今の私には疑いと恐怖しかありません。それでもこの本は世に出す必要があったと思っています。どうか最後まで読んでいただき、万が一皆さんの身に変化が起きたら、それを受け入れていただきたいと思います。
■インタビュー中に怪現象が……
今回のインタビューはzoomで行われたのだが、三浦氏へのインタビューを終えようとしたとき、突如、謎の現象が起こる。会話のなかに、ザザザザザ……という雑音と女性の声が突然入りだしたのである。三浦氏の自宅も、宝島社の編集部も、リアルサウンドブックの編集部も雑音が入る環境ではない。「ええっ!? なんの声ですかこれ? 誰も喋ってないですよね?」参加者一同が動揺していると、1分ほど経つと何事もなかったかのように通話ができるようになったのである。
筆者は某オカルト雑誌でも記者をやっているのだが、取材中にこういった不可思議な現象は実際に何度も体験しているので慣れているつもりだ。まさか、今回も起こるとは。そんなことを思っていると、三浦氏は「こういうこともあるので……」と、何とも意味深な言葉を口にした。記者は三浦氏に言葉の意味を聞く気にはなれなかったが、鳥肌が立ってしまう取材体験であった。
本書には、三浦氏が体験したことが克明につづられている。その記述をどこまで信じるかは、読者のあなたの自由でもある。