ギャル×ゾンビ漫画『マオニ』意志強ナツ子インタビュー「政治や社会の起源を自分なりに描きたかった」

 怪しげな世界観と予想を超えるストーリー展開でカルト的人気を誇る漫画家・意志強ナツ子が、新作で描くのは「ギャル×ゾンビ」だ。

 『マオニ』(リイド社)は、ゾンビ禍に生き残ったギャルサークル「マオセブン」の分裂と対立を描く。カリスマ的なリーダーだった真央(まお)の行方不明をきっかけにサークルは仲間割れの兆しを見せるが、不意に現れたどことなく真央に似た謎の女を「マオニ」(真央似)と名付けて新リーダーに据えることで分裂の危機を回避する。しかし、しばらくしてゾンビ化した真央が舞い戻り、サークルには再び亀裂が走る……。

 荒唐無稽な設定ながら、ギャルたちが決別していく展開にはリアリティも感じさせる。分断と対立の深まる現代社会の映し絵にも見えるからだ。なぜ、分断の時代に徹底した「分かり合えなさ」を描くのか。意志強氏に聞いた。

「ゾンビもの」で社会の起源を描きたかった

『マオニ』(意志強ナツ子/リイド社)

――『マオニ』第1巻を読んだ後の率直な感想は「すごい話だな…」でした。何がすごいのかは、具体的には言えないのですが。

意志強:『マオニ』には、「人生とは」とか「世界とは」とか、普遍的な問いに対する私なりの考えを詰め込んでいるんです。だから、1巻だけでは全体像が掴みにくいかもしれません。もう少しこの先を読んでもらえると、何が言いたいのか分かってもらえるのかなと。「最後まで読めば分かる!」と言っちゃうのは、作家として正しくない気がするんですが……(笑)

――『マオニ』はゾンビ禍を生き抜くカリスマギャルサークル「マオセブン」の物語です。ゾンビものを描こうと思ったきっかけは何だったのでしょうか。

意志強:コロナ禍の時期に海外ドラマの『ウォーキング・デッド』を観て、「これがやりたい」と思ったのがきっかけです。『ウォーキング・デッド』は、ゾンビ禍で崩壊した世界で小さなグループが秩序を再建していくストーリーなんですけど、そこに政治とか社会の起源を感じたんですよ。

意志強ナツ子 作品の原点についても語ってくれた。

 例えば、死刑が生まれる瞬間が描かれるんです。ある悪人をカッとなって殺すんじゃなくて、リーダーが苦悩の末に処刑を決断して、刑の執行を仲間が黙認して見守る。現実の社会だと国のシステムが代行してくれるから身近に感じにくいけど、もともと死刑ってそうやって制度化されていったんだなと考えさせられました。他にも『ウォーキング・デッド』には、法律や制度の起源を感じさせるエピソードがたくさんあるんです。

 そういうものの成り立ちを自分なりに描きたいというのが『マオニ』の原点ですね。学級会でクラスの決まり事を決めるように、社会や政治を作っていくとどうなるんだろう?という興味がありました。

――一方で、主人公たちを「ギャル」にしたのは何故でしょう。

意志強:ストーリーを作るなかで結果的にギャルに着地したんですけど、正しい選択をした気がします。ギャルって合理的ではないけど確固とした信念を持っている人たちだと思うんですよ。感覚的に「こういうことしちゃダメ!」という信念を持っている。それはカッコいいことなんですが、その反面、仲間割れや対立の要因になると思うんです。

 『マオニ』は「分かり合えなさ」が重要なテーマになっているんですけど、主人公たちが信念の違いから分裂していくストーリーを描くうえで、ギャルというモチーフはぴったりだったと思っています。

――「マオセブン」が分裂するシーンの会話は、ギャルっぽいリアルなコミュニケーションだと思いました。

『マオニ』(意志強ナツ子/リイド社)1巻65Pより。
お互いに、自身の信念に自信を持っているからこその分断が生まれる。

意志強:建設的に議論するんじゃなくて「なんで?」「え?なにが?」「なに?どゆこと?」とずっと言い合っているという(笑)。私は見た目も経歴もギャルではないんですけど、非合理的な信念を持っているところにはすごく共感するので。だから、自分の信念を曲げられずに対立してしまう気持ちがわかるんですよね。

「死んだ本物」か「生きている偽物」か

――意志強さんは過去作の『アマゾネス・キス』(リイド社)や『るなしい』(講談社)で、自己啓発サークルや新興宗教を舞台にしています。『マオニ』でも、2人のカリスマをめぐって対立が生まれたり、コンビニで売っていた自己啓発本がサークルの「バイブル」になったりしますが、今作でも宗教やスピリチュアリティがテーマなのでしょうか。

意志強:私はもともと宗教や神様に強く興味があるので宗教的な要素は自然と出てしまうと思うんですけど、『マオニ』はそれよりも「組織とリーダー」がテーマですね。

――「組織とリーダー」というと、地に足のついた普通のテーマに思えます。

意志強:でも、ギリシア神話とか日本神話って、組織とかリーダーの話でもあると思うんです。神話では、神様も家や一族に属していて、その関係性のなかでドラマが生まれるじゃないですか。そういう意味では、神様も組織の一員だし、人間社会と同じ関係性の中にいると思うんです。だから、私としては、宗教や神様について考えることと、組織やリーダーについて考えることは、そんなに違いがないですね。

――宗教というと、絶対的な神に多くの人がひれ伏すイメージを持ちがちです。

意志強:私はそう思わないんですよ。もっと身近な話だと思う。なので、『マオニ』ももっと普通の、サークルとか会社の人間関係の話だと思ってもらえるといいかなと。

関連記事