『ISHIYA私観ジャパニーズ・ハードコア30年史』番外編
G.I.S.M.、GAUZE、LIP CREAM……KATSUTA★ × ISHIYAが振り返る、先輩ハードコアバンドの洗礼
ISHIYA:いたのかなぁ? 全員仲間だよね、要するに。
KATSUTA★:たぶん外道とか、あのへんの世代にあたるのかな? 一応クールスのファンだったり外道のファンだったり、上には上がいて。でも後輩って感じでもなかった。この世界の人たちって全員けっこうタメ口をきいてるのね。みんなタメ口で話してた。そういう形をあえて作ってたのかな。
ISHIYA:ミノルくん(LIP CREAM)がライブに来始めた時、ACTさん(TRASH/ORANGE)に敬語使ったら、「何でお前、敬語使うんだ。タメ口で言えよ!」って怒られたって。
KATSUTA★:俺もよく怒られた。けど、ちょっとヤンキー癖が残ってる俺の世代はどうしても癖が抜けなくて。できないよね?
ISHIYA:そう。あの恐ろしい姿を見ておいてタメ口って無理(笑)。
KATSUTA★:PILLさんから「お前、タメ口きかねぇ限り認めねえ」って言われたけど「認めてもらえなくて結構です!」(笑)。
一一それってどんな意図だったんでしょうね。
KATSUTA★:上下関係とかないのがパンクだ、ここにいる人間全部対等だ、みたいな。そういう特殊なノリがあった。
ISHIYA:当時、世間ではヤンキーとかいっぱいいて、上下関係にめちゃくちゃうるさくて。それが嫌で音楽をやってる人たちだったから。だから喧嘩しても次また来たらみんなフランクな感じ。あんまり根に持つ人もいなかった。
KATSUTA★:いや、根に持つ人は二度と来ないよね(笑)。
ハードコアシーンにルールはあったのか?
一一あとは、東京シーンと関西シーンの対立って、ありました?
ISHIYA:ないんじゃないの? もちろん一部で牽制し合うことはあったと思うけど。俺らも最初にOUTOとかと仲良くなってるし、その前もMOBSとGHOULは仲良くなってるし。ライブの時はお互い家泊めたりして。あと、レミーさん(EXECUTE)が徳島出身で、MOBSとかも仲良くて。東京の単発ライブの時とかマサミさんの家とかにみんなで泊まってたみたい。
一一そういう関係性が、全国ツアーに繋がっていくんですね。
ISHIYA:うん。あの頃はほんとLIP CREAMが中心だった。GAUZEもいたけど、一番動いてたのがLIPじゃないかな。全国ツアーを定着させたり、ツアーでTシャツ作って売ったり。それ以前だと、MOBSとGHOULの〈極悪ツアー〉がたぶん一番初めだったと思うんだけど。あれが1985年で、鉄アレイも出てるよね。
KATSUTA★:うん。埼玉で。ケンジくん(MOBS)とマサミさんが、その日ナルシスの前に停まってた車の上にバッコンバッコン乗っかって。「嫌な一日が始まるなぁ……」とか思いながら見てた(笑)。
ISHIYA:余計な技をみんな決めてたよね。音楽やるのに車の上乗る必要ないじゃない。いちいちライブハウスの前で車にドッカンドッカン(笑)。
KATSUTA★:あれ高校生の時に見ちゃうと「あ、何でもいいのかな」って。
ISHIYA:思っちゃうよね。「あれがいいんだったら俺ぐらいは大丈夫」。
一一何でもアリの中、これだけは守る、というルールはありました?
KATSUTA★:ルールなんてないんじゃない? だって性別関係なく殴ってたもん。ボッコボコだよ?
ISHIYA:基本的に警察に売ることだけはしなかったよね。仲間内に対してはルール守るとか、そういうのはあった気がする。
KATSUTA★:地方から来たパンクを家泊めるじゃん? そしたら財布なくなるとか、そういうのは平気であったよ? だから最初はノールールもいいとこ。それでどんどんモメて、自然にルールができていく。だから俺とISHIYAのルールって似たような感じだよね。仲間のものは盗まない、とか。
一一たとえば一般人に対してはどうでしょう? 関係ない人は巻き込まない、とかは?
ISHIYA:めっちゃ巻き込んでたよ(笑)。マサミさんなんか特に。渋谷のセンター街で遠くから「ギャッ!」「ギャーッ!」って声が聞こえてきたら「あ、マサミさん来たな」ってわかる。
KATSUTA★:センター街見てると、サメの背ビレみたいにこうモヒカンの頭が動いてて、その周りで人が離れていくの。「あ、あそこにいるな」って(笑)。
一一警察沙汰にはならないんですか?
KATSUTA★:見つかんなきゃ捕まらないから。
ISHIYA:証拠がなきゃ捕まらない。「やってないよ」って言い張ったら終わりだし「見てねぇな」って言えば大丈夫。ライブハウスに救急車が来た時も追い返した記憶があるもん。「大丈夫大丈夫」つって(笑)。
KATSUTA★:今みたいにカメラもないし、喧嘩両成敗だし。お巡りさんが数人来たところで「もう帰ってくれお前ら」みたいな。そういう時代だった。
一一警察以外、たとえば暴走族とかヤンキーとの対立はどうでしょう?
KATSUTA★:暴走族上がりのパンクはたくさんいた。ヤンキー上がりもたくさんいた。でも対立って、場所によるかな? 俺のいた浅草にはヤンキーがいなかったし。中野、杉並、千葉、京浜地帯とか、あのへんはあったかもしれない。
ISHIYA:地方は多いでしょ。磐田とか行くとそういう話よく聞いた。
KATSUTA★:先輩に正座させられて「お前、暴走族になるのか、パンクになるのか、どっちだ?」っていうね(笑)。
一一東京はそこまで対立もなく、上下関係も厳しくなかった。となると、当時シーンの仮想敵っていうのは特になかったことになるんでしょうか。
ISHIYA:あぁ。当時の俺の感覚だと、メジャーに行く人たちは裏切り者って感覚をみんな持ってたんじゃないかと思う。
KATSUTA★:それはGAUZEが言い出したこと。俺とか、あんまないのね。SxOxBがメジャー行っても「あぁ、頑張れよ」って感じだった。
ISHIYA:でもスターリンの頃からそういう話あったよね。俺らも当時メジャーの話来たよ? 俺がすぐ断ったけど。でもチェルシーはやりたがってた。そこはバンド内によって意見が変わるところ。
KATSUTA★:とにかくメジャーっていうもののイメージが悪かったんだよね、利用するだけして、レコード売れなかったらハイさようなら、みたいなイメージがあって。だったらインディーズでやって、自分たちで売ったってたいして変わんないだろうと思ってた。もちろん宣伝力は違うんだけど。
一一ただ、初期のハードコアって、メジャーからいくつかオムニバス作品を出してるじゃないですか。
ISHIYA:そう。『アウトサイダー』が出て『グレイト・パンク・ヒッツ』が出て、あとは『ハードコア不法集会』もあって。この三つがすごかった。俺の田舎の、埼玉県の普通のレコード屋で『グレイト・パンク・ヒッツ』は買えたから。インディーズのレコード屋って都内に出るか通販でしか買えなかったし。『宝島』のカセットブックも本屋で買えたからね。そういう流通の話はデカかった。で、その流れに乗っかっていったのがラフィンであり、ウィラードであり。
KATSUTA★:最初はG.I.S.M.もそういうところに乗ってたよね?
ISHIYA:うん乗ってた。しかも一番目立ってたもんね、どのオムニバスでも。
一一実はメジャーへの展開も考えていたと思います?
KATSUTA★:俺は、思う。たぶん話があったら乗ったんじゃねぇかな? だから徳間から出したと思うんだよね。あれ、確かGAUZEは断ってるんだよ。徳間のやつ。
ISHIYA:『アウトサイダー』もEXECUTEが断ってるんだよね。「話来たけど、そんなもんやってられるか」って言ってた。でもG.I.S.M.は徳間の『グレイト・パンク・ヒッツ』の話を受けてるから。
KATSUTA★:だから可能性はあったと思うよ。メジャーに憧れてるって意味じゃなくて、何でも利用したれ、っていう考えはあったと思うから。
ISHIYA:そっか。GAUZEとは真逆だね。
KATSUTA★:真逆。
一一仲は良かったんですか?
KATSUTA★:仲良かった。シンさんと横山さん、一緒に住んでたでしょ。途中から分かれていくけど、最初の頃は仲良かった。年も近いから。しかもあの人たち、俺らから見たら大学生だしインテリなんだよ。
ISHIYA:後から気づくね。ちゃんと考えたヴィジョン的なものがある。
KATSUTA★:そこが俺たちみたいな高卒、中卒とは違うところ(笑)。
なぜマサミさんはムチャクチャなのに慕われていたのか?
一一あと、お二人が始めた企画〈バーニング・スピリッツ〉についてもお聞きしたいです。始まりはどんな感じだったんですか?
ISHIYA:最初はDEATH SIDEと鉄アレイでツアー行こうって話だったんだよね?
KATSUTA★:や、たぶんね、二人でライブ企画やろうとしたの。当時は何やっても100人以上入ったのよ。バンドブームだったから。その流れで始まったんだと思う。それで企画名を、二人ともプロレスが好きだから。
ISHIYA:ブルーザー・ブロディの名言から。
KATSUTA★:新日本プロレスのシリーズ。でも、こっちもうろ覚えだね、どうやって始まったのか。
ISHIYA:〈消毒GIG〉とか名物企画があって。じゃあ俺らもやろうぜって始めた気がする。L.S.D.とかも企画やってたでしょ。それぞれカラーがあって。
一一あぁ。話は飛びますけど、お二人は東京でL.S.D.見てます?
ISHIYA:俺はね、ドラムが先輩だから。でもライブ行ったらボーカルがもういなくなってた。そういう時期。KATSUTA★は仲良かったよね?
KATSUTA★:アラノ(鉄アレイ初代ギター)がマネージャーやってたんだよね。
一一KOさんの本を書いた時に調べたんですけど、調べれば調べるほどロクでもないエピソードが出てきて。
ISHIYA:そうね。どこ行っても嫌われてたらしい。いろんなもん盗んじゃ売って、みたいな感じだよね。最後はやっちゃいけないことをやって追放されたっていう。
KATSUTA★:先輩達の機材盗んだり、とかね。で、北海道に逃げて、北海道でまたL.S.D.起こして。
ISHIYA:大阪で唯一エッグプラント出入り禁止になったのがアキイ(L.S.D.)だって聞いてる。
一一うわぁ……噂通りすぎる(笑)。話を〈バーニング・スピリッツ〉に戻して。これまでとは違う試みもあったんじゃないですか? 若手がすごく多いイベントだという印象があって。
ISHIYA:若手はGAUZEの〈消毒GIG〉にもよく出てるから。で、俺は当時GAUZEと仲悪かったのもあって、違い、みたいなのは出したいと思ってた。
KATSUTA★:あとツアー10何箇所回って、全国で世話になった奴らを最終日に呼ぶっていうのはやった。最後はKOちゃん(SLANG)来て、GUYくん(ex愚鈍/ORIGIN OF M)が来て。あれで初めて会ったんじゃないかな? そうやって全国を繋ぐ、みたいなことはちょっとやったかな。
ISHIYA:LIP CREAMはそこを意識しないで全国行って、勝手に繋がっていった、みたいなところがあって。こっちはKATSUTA★が繋げようとしてた。
KATSUTA★:最終日に集めたら面白いじゃん。東京にいる奴ら、地方のハードコア全部見れるんだからさ。みんなよく来てくれたよね、今考えたらね。
ISHIYA:昔GAUZEの〈ハードコア甲子園〉っていうイベントがあって。三日間やるやつ。
KATSUTA★:あぁ。あれの影響もデカいね。
ISHIYA:あれは最初にツアー行き出した頃だから。だからシンさんは昔から企画力があった。場所も見つけてきたし。
一一ツアーのエピソードって何かありますか。
KATSUTA★:ツアーの話? ちょっと思い出したけどさ、ツアー中に車がエンコして、ISHIYAが外に座ってたの。そしたら白バイが来たんだよね。
ISHIYA:そう。なんか渋滞ができてて、白バイが「お前すぐ車入れ! これお前の見物渋滞だぞ!」って。
KATSUTA★:見物渋滞が2キロとか(笑)。それぐらい珍しかったんじゃない? 当時ビシッとモヒカン立ててツノまで付いてたから。キチガイ扱いだよね。当時のモヒカンって、今でいう顔に刺青くらいのインパクトだったから。
一一派手な格好は先輩から受け継いだものだと思うんですけど、それでもバイオレンスを極力減らしていこうって意識はありました?
ISHIYA:鉄アレイなんかバイオレンスのバンドって思われてるけど、あれプロレス技だからね。バイオレンスって感じはない。さんざんやられてきたから。痛いの知ってるから。あんまやらないようにしてたと思う。
KATSUTA★:やっぱさ、暴力で何か表現するのは誰でもできる気がして。俺らはそこに笑いを入れたのね。プロレス技をやってみようって。それでブレーンバスター決めたり。面白いじゃん、ライブ中にうおーって人が綺麗に飛んでいくと。やられたほうはたまんないけどね(笑)。
ISHIYA:俺よくやられた(笑)。
KATSUTA★:ほんで、やってるうちに足折ったとかさ、いろんな裁判沙汰が何個か出てきて。そこから鉄アレイはプロレス技封印になった(笑)。
一一先輩たちと同じ無法地帯を続けていくつもりはなかった。
KATSUTA★:うん、それじゃ二番煎じじゃん。
ISHIYA:やってもしょうがないよね。もちろん緊張感が必要だけど、それは暴力で表現する必要はなくて。まぁ、誰か友達がモメてたら加勢する、くらいのことはあっても。ライブに出てっていきなり人殴るとか。
KATSUTA★:誰かひとり捕まえてコレ(殴る)は違うでしょ。まぁマイクスタンドぶん投げるとかさ、そういうのはあるけど。
一一それはパフォーマンスの範疇ですよね。パフォーマンスに関して、強く影響を受けたバンドっていますか。
ISHIYA:カオスU.Kの初来日。あれはものすごかった。ものすごいライブで、それまで日本にはなかった感じ。衝撃だった。
KATSUTA★:ギターもベースも全開でワーッてやってて「モニター聴こえねえ!」って……当たり前だろう(笑)。
ISHIYA:見てた人みんな影響受けたと思う。PILLさんでさえ、カオスU.K見た後、次のアルバムからいきなり速くなってたもん。
一一KATSUTA★さんは?
KATSUTA★:やっぱG.I.S.M.じゃないかな。コピーもしてたし。バイオレンスは真似したら カッコ悪いから、俺らは笑いも入れてプロレス技に走ったけど。あとは……パフォーマンスっていうか、なんだろう、生き方的にはマサミさんだよね。
ISHIYA:狂ってたからね。
KATSUTA★:新聞の勧誘が来たらスタンガンバチバチだし。大学行っていきなり車壊して教授が来たらバチーン殴ってるし。「何してんだ?」と思って。
ISHIYA:あれ見てると、普通とか常識っていうものが、まったく別ものになる。
KATSUTA★:居酒屋で普通に飲んでて、いきなり非常ベルが鳴るの。何かと思ったらボタン押してニヤニヤしてたり。あとガラス食ったりさ。
ISHIYA:コップ食ってたね。それ見てYOSHIKI(X JAPAN)が「やめたほうがいいよ、マサミさん」って心配して怒ったらしい(笑)。
一一不思議なんですけど、L.S.D.のアキイさんは嫌われていた。一方でマサミさんはなぜそんなに慕われていたんですか?
ISHIYA:なんだろう? 親分的な感じ。もちろん嫌いな人もいたと思う。
一一話を聞くとどっちもムチャクチャじゃないですか。なんでみんな、そんなに愛情を持って語るんだろうって思います。
KATSUTA★:あの人は小学生の時に右手を失ってるの。そこから苛められたり、すごい差別を食らったらしいのね。で、バンドの世界に行ってから「俺を受け入れてくれる世界があったよ、パンクっていう世界だ」って言ったらしいの。
ISHIYA:叔母さんにもそう言ってたらしい。だから、人前っていうか、みんなでいる時はムチャクチャなんだけど、二人きりになるとめちゃめちゃ優しかった。行くとこない時に普通に泊めてくれたり、飯食わせてくれたり。そういうギャップはあったと思う。
KATSUTA★:あとマサミさんが言ってたのは「俺のこと怖いって思う人は怖がらせればいいんだ」ってことで。だから怖いと思わない相手にはすごく優しく接するわけね。でも怖がって避けようとする相手には「こいつ怖がらせて遊ぼ」っていうスイッチが入る。だから演じてるよね、ある意味。プロレスの悪役に通じるものがある。竹刀持っていきなりバチーンって叩く、「俺はもう悪人です」っていうような。
ISHIYA:そうね。じゃないとコップは食わねえと思う(笑)。