ブログやmixiに書きためた「黒歴史」を厳選して公開? 宮内悠介『作家の黒歴史』がどうかしている

 だが本書はそこで、他人の振りをして終わりとはならない。〈しかしせめて、自分だけでも自分の味方でなければならないだろう〉というスタンスで、わかりにくい箇所を「現代語訳」しつつ、真意を分析していく。その中で浮かび上がる、過去に書いた文章が持つ、妙な勢いや謎の説得力。それは、著者が書き手として成熟していく過程で失ったものでもあるが、失ったものを羨むようなことはしない。また過去の強い言葉や主張を、自分の価値観がアップデートされていると、アピールするためのダシにすることもない。訂正すべき点は訂正しつつも、考えの変わってない点は正直に変わっていないと表明する。

〈そもそもアップデートという言葉からは、みずから深く考えるプロセスを経ずして、次々と新たな考えをインストールするニュアンスが感じ取れる。その先にあるのは、無だ〉。こう語る著者は、ノスタルジーやアップデートの対象とする以外にも、過去との向き合い方はあると考えているのではないか? そして黒歴史をあーだこーだ批評することに、新しさを無理に追わない豊かさや、過去とは違う文章の面白味が生まれる可能性を見いだしているのではないか?

 という具合に、他人の黒歴史で恥ずかしくなったり、仮説を立てたり妄想を膨らませたりしている内に、「自分の黒歴史と向き合ったらどうなるのだろう?」とこちらにも思わせるところが、本書の魅力であり恐ろしいところである。とはいえ安易に真似するのは危険そう、まずはチラ見ぐらいから始めるのがよさそうだ。

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