日本文化にも影響を与えた『封神演義』とは? 中国アニメが記録的ヒット&同名漫画も人気
今、中国映画産業を揺るがす大ヒットを続けている『ナタ2』。中国国内の興行収入のダントツ一位を記録したのみならず、アニメーション映画の世界累計興行収入トップを『インサイド・ヘッド2』から奪い取ってしまった。本作は、2019年に公開された『ナタ~魔童降臨~』の続編だ。この1作目も中国の歴代興行収入記録を更新する大ヒット作だった。
このシリーズでモチーフとなっているのは『封神演義』に登場する、哪吒と呼ばれる驚異的な力を持った少年だ。『封神演義』は、近年に限らず中国では頻繁に物語のモチーフとされるほどに有名な物語であり、中国の歴史の中で長い間民間に親しまれてきた物語だ。
『封神演義』とは
『封神演義』は、中国の宋から元の時代にかけて流行していた講談から発展した小説と言われている。小説の形で成立したのは、明の後半で、作者は許仲琳だとする説が有力だ(※1)。
日本では何度も訳本が出版されているが、筆者が読んだことがあるのは渡辺仙州による編集訳の上・中・下巻で構成される偕成社版。ちなみに、藤崎竜のマンガが日本では有名だが、藤崎が下敷きにしたのは、1988年に出版された安能務版とされる。
物語は、中国最初の王朝・殷(中国では商とされ、訳本によっては商の表記が用いられる)の末期、3000年ほど前を舞台としている。殷の次の王朝・周との争いを描いた物語で、史実を下敷きにしているが、ファンタジー色がかなり強い内容となっている。また、火薬が発明される前の時代なのに、砲弾が用いられたりもしている描写があるなど、成立が明の時代なのでディテールに時代錯誤な部分が見られるが、それもファンタジーと思えば問題ない。
物語は殷の紂王(ちゅうおう)が道教の女神・女媧の怒りを買うところから始まる。女媧は、千年生きた狐狸の精に美女に化けて紂王を篭絡せよと命じる。紂王は狐狸が魂を乗っ取った娘・妲己によって、国を滅ぼす暴政を連発させられ、人民の怒りを買っていく。
その頃仙界では、姜子牙(太公望)という男がに、仙界では人ならざる者たちを封じる「封神」の儀式を執行するよう命じられる。そのために打神鞭という宝貝(パオペイ)を与えられた る。そして、姜子牙は、周に殷の圧政で苦しむ民を助けるために周に味方し、人間と仙人たちが入り乱れる壮大な戦いが始まってゆく。
天変地異を起こすもの、異様な怪力や地中を潜る術を使うもの、空を飛ぶものや空想上の生き物なども登場し、特殊能力者どうしの壮絶な戦いが繰り広げられる様は、荒唐無稽を通り越して人間の想像力の限界を超えようと試みるかのような壮大さだ。100を超える登場人物が登場するので、名前を覚えるのが大変だが、筆者が読んだ渡辺仙州版は、名前に必ず読み仮名が振ってあり、人物の挿絵と一言説明が随所に入るので、混乱せずに読める。
多数の個性的な登場人物の中でも特に人気が高いのが、太乙真人の弟子の哪吒(なた)だ。幼少期から特別な力を持ち、神の1人を殺してしまったために一度は自害をするのだが、蓮の花の化身としてよみがえる。そのために年を取らず少年の姿のままで、人間と仙人と化け物が入り乱れる戦場で大活躍をするのだ。
哪吒は太乙真人から、燃える槍「火尖鎗」や炎を吹き出して空を飛ぶ車輪「風化二輪」や飛び道具の「乾坤圏」といった宝貝を装備し、血なまぐさい戦場でひときわ華麗に活躍するキャラクターである。少年の姿で大男や怪物たちをなぎ倒していく姿は、アニメーション映えするキャラクターと言える。