1980年代前後のテレビドラマ制作に関する第一級の資料となり得るーー高鳥都『あぶない刑事インタビューズ「核心」』を読む

 この調子で読みどころを拾っていくと際限がなさそうである。ここでは一つだけ、映画本やドラマ研究本のレビューとは少し違う観点から触れておきたい。印象的だったのは脚本家の岡芳郎といとう斗士八が、〈あぶない刑事〉シリーズを制作したセントラル・アーツのプロデューサーである故・黒澤満より「刑事ドラマを書いたことないんだったら、エド・マクベインを読め」という助言を得た、という話である。岡といとうは「あぶない刑事」が脚本家デビュー作であり、刑事ものの書き方を学ばせるために警察小説の金字塔というべきマクベインの〈87分署〉シリーズを黒澤は読ませようとしたのだろう。

  また、第1シーズン第19話で監督デビューした一倉治雄は「もともとハードボイルドがお好きだった?」という質問に対し、「学生時代からフランスのフィルム・ノワールが大好きでした。僕が監督を続けることができたのは、『あぶない刑事』という世界が自分の嗜好と合ってたんだと思います。」と述べている。一倉の言う「フランスのフィルム・ノワール」とは第二次世界大戦後のフランスで多く書かれた“セリ・ノワール”と呼ばれる犯罪小説の流れを汲む映画を指す。このように〈あぶない刑事〉シリーズには第二次世界大戦後の海外ミステリからの影響を大きく受けたスタッフやクリエイター達が参画している。だが、一方で〈あぶない刑事〉シリーズはそれまでの刑事ドラマのフォーマットを打ち破るような実験性にも富んだ作品だった。海外の優れた警察小説や犯罪小説を素養にしながらも、当時の日本が持つ空気に合わせる形で斬新な番組を作り上げた点は、同じくセントラル・アーツが手掛けた松田優作主演の「探偵物語」に通ずるものがある。海外ミステリを土壌に育った人々が、1970年代から80年代の国産刑事ドラマやアクションドラマを担っていたことも示してくれるのも、本書の収穫の1つだ。

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