小学館「マンガワン」10周年でベストアプリ受賞 編集長・豆野文俊に訊く、読者・漫画家から支持される理由
小学館のマンガアプリ「マンガワン」が「Google Play ベスト オブ 2024」にてベストアプリを受賞。リリース10周年の節目の戴冠だった。受賞の背景にはアプリUIの大幅な改修や「ウラ慢」と銘打たれたYouTubeチャンネルの運用など、編集部が新しいことにも精力的かつ貪欲にチャレンジをしてきた結果だろう。
先日オープンした10周年記念の特設サイトには『モブサイコ100』のONE氏や、『星屑の王子様』の茅原クレセ氏など多数の漫画家から愛のあるイラストとコメントが寄せられた。
今回、「マンガワン」編集長の豆野文俊氏へインタビュー。ダウンロード総数3400万、DAU100万を誇る人気のアプリが、読者、そして漫画家からも支持される理由が見えてきた。(※DAU:デイリー・アクティブ・ユーザー。1日に1回以上アプリを利用した人の数 )
マンガワンの歴史
ーー「マンガワン」が「Google Play ベスト オブ 2024」にてベストアプリを受賞しました。ウェブ発の尖った作品を送り出してきた「裏サンデー」をベースとして、紙の漫画雑誌から派生したアプリとは違う存在感を示してきたなかで勢いのつくニュースですが、「マンガワン」はそもそもどんな形でスタートしたのでしょうか。
豆野文俊(以下、豆野):「マンガワン」は「裏サンデー」の時代から独立独歩で、新都社(※2ちゃんねる「ニュー速VIP板」に端を発した、漫画&小説投稿サイト)出身の作家が集まるなど無頼集団のように「漫画でウェブ業界の覇権を獲るぞ!」という意気込みを持って進んできました。2014年の立ち上げ当時、現在のように版元系アプリ/書店系アプリのような言い方もなかった時代から、連載作家陣はそういう気概の中でやっているということが、大前提としてあります。
「版元系」というのは、もともとIPを持っている出版社のアプリであり、おっしゃるように紙の漫画雑誌から派生したものと、デジタルネイティブなアプリに分かれます。「マンガワン」は既存の人気漫画誌の定期購読がひとつの柱になる前者のアプリではなく、とにかくデジタルで新しい作品でヒットを出す、というミッションがベースにあります。そのなかで、近年は小学館の漫画作品を網羅するセンターアプリとしての役割も果たすようになり、現状は尖った作品もあり、小学館のあらゆる作品が読めるという価値も提供できるアプリになっています。
ーー豆野さんが編集長に就任したのは2022年ですが、そこからどんなところを変えていったのでしょうか。
豆野:当初はオリジナル連載が中心で、掲載作品は200~300タイトルほどでしたが、現在は小学館作品を網羅して3~4万タイトルにまで大きく広がりました。ユーザーの方が何かしらの形で好きな作品に出会える確率が大きく上がり、ニーズが拾いやすくなった。またUIもこの9月から変更になり、iPhone、Android、タブレットと、どんな環境でもストレスなく漫画が読めるマルチデバイス化を進めてきました。これらの点が「ベストアプリ」の受賞につながったと思います。
読者のみならず作家にも支持されるわけ
またもう一つ、われわれとしては、作家さんにとってどれだけいいアプリになるか、ということが重要です。その点で、直近で「ジャンプ」編集部さんが原稿料の増額を発表されて話題になりましたが、「マンガワン」は連載作家さんに対して「先読み」などで売上が入った場合にレベニューシェアする仕組みを設けました。通常、連載段階で原稿料以外のお支払いをすることはあまりなく、その原稿料は作家によってそれほど大きな差がありません。多くの人に読まれればその時点で収益になる、という仕組みで、作家さんに報いることができるようになったのではと。
ーー単行本の印税を待つことなく、読まれた分だけ作家に還元されるというのは、モチベーションも上がりそうですね。
豆野:単行本の売上が思わしくなくても、雑誌/メディアの中でアンケートの人気が高くてすごく読まれている、という作品はいくらでもあるのに、これまでは報いることができていなかったと思うんです。「雑誌」というパッケージではどの作品がどれだけ読まれたかはわからないけれど、アプリならばそのデータが取れますから、きちんと還元しなければと。
ーー確かに、毎週・毎月の楽しみにしている連載だけれど、単行本は特に集めていない……という作品は多い気がします。
豆野:そうなんです。まさにそういう作品が「マンガワン」のDAU(デイリー・アクティブ・ユーザー)をキープしてくれているので、私たちにとっては本当に大きな価値があって。また、主役はもちろん漫画であって、私たちのアプリは漫画という料理を盛り付けるお皿のようなものだと考えています。そのお皿というのが存外重要で、例えば料理でも、お皿によって段違いに美味しそうに見えることがありますよね。そういう「いいお皿」であるためにどうすればいいか、つまり「マンガワン」に作品が掲載される価値をどう上げるか、ということは常に考えています。実際にブランディング班というものを作って真剣に向き合っているところです。