『BADDUCKS』『大好きな妻だった』などで注目! 鬼才・武田登竜門が語る、フランス発ファンタジー大作『DOGA』の挑戦
「旅」の物語は過程だけでなく結果も重要
――『DOGA』も『BADDUCKS』も、本来なら出会うはずのない男女が出会い、同じ時間を共有する中でやがて家族のような間柄になっていく、という展開が感動的です。それともう1つ。“期限つきの旅の物語”であるということも、2作に共通している部分ですよね。もちろん、『BADDUCKS』は「時効までの逃亡劇」、『DOGA』は「失われた肉体を取り戻すための旅の物語」で、それぞれの主人公たちの目的は異なるわけですが、いずれも“命がけの旅”であるという点では同じです。武田先生が描かれる物語の中で、「旅」が象徴するものはなんですか?
武田 気がつくと「男と女が旅をする話」を描いている感じです(笑)。自分の好みであり、これが自分の中では王道だと思っています。もともとロードムービーや、主人公たちが冒険の旅に出るファンタジー小説が好きなので、そういったものの影響もあるかもしれません。それと私自身、田舎で生まれ育ったので、知らない土地へ移動してみたいという願望が常にありました。いずれにしても、長い物語を描こうとすると、自動的にキャラクターが旅をしてしまいますね。
――旅は結果よりも過程が重要ですか?
武田 いえ、結果も大事だと思います。もちろん旅の道中で経験したさまざなことがキャラクターたちを成長させていったり、予測不可能な展開も起こりますが、私はいつも結末ありきで物語を考えていますので。
善人でもあり悪人でもあるキャラクターたちの魅力
――武田先生の漫画には、「完全な善人」ないし「完全な悪人」は登場しませんよね。もちろん、“悪役”は本当に憎らしく描かれてはいるのですが、それでも悪には悪なりの信念があるように描かれている。武田先生は、「善」や「悪」という概念をどうお考えですか?
武田 個人的にはこの世界は善と悪の二項対立だけでは計り知れないと思っています。自分の中にも善人と悪人が共存していますし、私の漫画の中ではそれぞれのキャラクターが欲望のままに行動していて、立ち位置によってそれが善に見えたり悪に見えたりするということなのではないでしょうか。もちろんエンターテインメントの漫画ですから、なんとなく“善人っぽい”方が主人公になっているというだけで(笑)。そういうこともあり、主人公と敵対する側のバックグラウンドは、あまり掘り下げないようにしています。
――主人公2人のキャラクターについてお話しください。まずはヨーテについて。
武田 ヨーテは年齢が割と自分と近いせいもあって、「この歳になってもこんなに無知でいいのか」と思いながら描いています(笑)。でも、描いてて愛しいと言いますか、私はとにかく困ってる男性を描くのが好きなんですよ。彼は肉体的には一度死んでいるわけですが、機械の身体を得て、これからさまざまな経験を積んで成長していきます。今はそれが楽しみなキャラですね。ただ、ぶっちゃけ細かい機械の絵はあまり描きたくない(笑)。自らそういう設定にしてしまったわけですから仕方ないんですけど、面倒なのでほとんどの場面で彼の身体はマントで隠しちゃってます(笑)。
——一方のドガはどうですか。ファンタジー漫画のヒロインとしての類型にハマらないところが魅力的だと感じました。
武田 ドガは見た目も性格も大好きなヒロインです。今まで自分が描いてきたキャラクターの中では、最も漫画っぽいキャラと言えるかもしれません。彼女もヨーテと同じように、これからいろいろなことを知っていくことになります。ただ、ヨーテ以上に世界の色が見える状態になって、興奮しているのではないでしょうか。
――世界の色とは?
武田 旅に出る前の彼女の世界には、色がついてなかったと思うんですよ。でも、ヨーテに雇われ、色のない貧民街を抜け出せたことで、それまで無意識のうちに押さえつけられていた本来彼女が持っている天真爛漫さが発揮できるようになったのです。もしかしたら広く好かれる見た目ではないかもしれませんが、私はそういう彼女のことを本当に可愛いと思いながら描いています。『BADDUCKS』のモーガンも客観的に見たら決してイケメンではないと思うんですけど、個人的にはカッコイイと思いながら描いていました。幸いドガもモーガンも読者に気に入られているようで、作者としては嬉しい限りです。
——ちなみに“W主人公”とは言え、物語を実質的に動かしているのはヨーテの方ですよね。でも、タイトルは『DOGA』です。この意味は?
武田 『ドラえもん』のタイトルがなぜ『ドラえもん』なのか、そのことを考えてみたらご理解いただけるかもしれません。
――ああ、なるほど、よくわかりました。……が、具体的にそれがどういうことなのかを説明するのは野暮というものでしょうから、ここで“解説”するのはやめておきましょう(笑)。それでは、最後に読者の方々にひと言お願いします。
武田 とにかく『DOGA』という作品では、『BADDUCKS』よりもスケールの大きな物語を描くよう努めていますので、まずはそこに期待していただきたいです。単行本で言えばようやく3巻が出たところですが、2巻から規模感の違いも明確になっていきますので、少なくとも8〜10巻分くらいは続けたいと思っています。つまり、ヨーテとドガの旅はまだまだ始まったばかり。2人の行き着く先を最後まで見届けていただければ幸いです。
■作品情報
『DOGA(1)』
著者:武田登竜門
価格:792円
発売日:2024年3月21日
出版社:双葉社
『DOGA(2)』
著者:武田登竜門
価格:792円
発売日:2024年5月16日
出版社:双葉社
『DOGA(3)』
著者:武田登竜門
価格:792円
発売日:2024年11月14日
出版社:双葉社