『天国映画館』清水晴木 × 『愛しさに気づかぬうちに』川口俊和 対談「大切な方を亡くされた人に読んでほしい」

感動的な物語を紡ぐ2人が奇跡の対談

清水晴木『天国映画館』(中央公論新社)

 天国を去る人の人生の映像を上映する“天国映画館”に、記憶を失って訪れた小野田明。自らの死を悟った小野田は、天国映画館の支配人である秋山のもとで働くことになる。小野田は映画館で観客とともに、様々な人の人生を観ているうちに、記憶と心に変化が訪れていった――。

 多くの人が涙している感動作『天国映画館』(中央公論新社/刊)の作者・清水晴木さんと、世界中でベストセラーとなっている『コーヒーが冷めないうちに』(サンマーク出版/刊)シリーズの作者にして、6作目となる『愛しさに気づかぬうちに』が刊行されたばかりの作者・川口俊和さんが対談。

 現代人の心を揺さぶる感動的な物語は、どのようにして生まれたのか。小説を書き始めたきっかけとは。話が盛り上がっていくと、清水さんと川口さんには、物語を創る原点から執筆の手法まで共通点が多いことがわかった。意気投合した2人は、お互いの趣味から創作論まで様々な話題に花を咲かせた。

白血病になったことを機に本格的に脚本の道に

清水晴木

――まず、川口さん、清水さんが文章を書き始めたきっかけからお聞きしたいです。

川口:僕はもともと小説家ではなく、漫画家志望でした。演劇部に入ってから女子にほだされて、「手伝ってもらえない?」「漫画家を目指しているんだから脚本も書けるんじゃない?」と言われて、脚本を書いたのが始まりです。

清水:僕が通っていた高校では、文化祭の催しで3年生が劇をやる決まりがありました。僕は本を読んだり映画を見るのが好きで、だったら脚本をやってみたいなと思って執筆したのが最初です。みんなで何かを作るのはめちゃくちゃ楽しかったですね。しかも、劇は先生たちからの評判も良かったんですよ。

――というと、清水さんは高校生の頃から脚本家や小説家を志望していたのですか。

清水:いえ、国語の先生を目指そうと思っていました(笑)。まさか、小説を仕事にするなんて考えてもいなかったです。ところが、大学1年生までは教職の授業をとっていましたが、作品を作る側になりたいと言う思いが強くなりました。大学の中でも転部をして、放送作家やドラマの脚本などを学びました。

川口:脚本と言えば、「シナリオ・センター」には行きましたか?

清水:僕は在学中に通いましたね。脚本のいろはを学びました。

川口:おお、やっぱり! 僕は小説家になってから行きましたよ。

清水:シナリオ・センターで学んでからは、自分でもぽつぽつ脚本を書けるようになりました。僕は特に秀でた能力もなく、それまで趣味でも長く続くものがなかったのに、脚本にはのめり込めたので、これを夢にしてもいいのかなと思うようになりました。

――脚本に没頭していた清水さんが、小説を書こうと思ったのはなぜですか。

清水:大学を卒業してすぐ、白血病で入院したのです。骨髄移植もして、その後1~2年は何もできませんでした。まっとうに会社員ができないので、それなら作品作りに集中したいと思いました。そして、脚本は映像や舞台にするまでにたくさんの人の力が必要ですが、小説なら1人で完成形までもっていけると思い、書き始めたのです。

川口:演劇も脚本を書いても、役者がいないと形にならないからね。僕の知り合いの小説家も、小説はパソコン1台あれば何でもできると言っていましたよ。

映像を最初に思い浮かべてから書く

川口俊和

――脚本が小説を書くきっかけであることは、川口さんも、清水さんも共通していますね。

清水:僕は小説を書くとき、まずは映像を最初に思い浮かべてから書き始めます。川口先生はどうですか?

川口:僕も頭の中に絵が出てくる感じで、まず脚本を書いてから小説にするスタイルです。バーッとセリフだけ書いて、プロットとして編集さんに渡して、検討を重ねて小説にする。『コーヒーが冷めないうちに』の1作目は舞台の脚本がベースだったから、ほぼそのやり方を踏襲しています。最近になってやっと脚本と小説の表現の違いがわかってきて、小説から書き始めることに挑戦していますが、難しいですね。

清水:脚本から作るのは川口先生ならではのスタイルで、驚きですね。でも、僕もどんどんセリフで進む物語を書いていこうと決めています。セリフを書き終えてから地の文を補強するので、作り方は似ていると思いました。

川口:僕も最初に会話を作っちゃいます。地の文は、自分が演出家だったらこんなことを言うだろうな……という言葉をつけ加える。『コーヒーが冷めないうちに』の1作目は劇みたいな小説だと言われましたが、その通りなんですよ(笑)。

――清水さんは、川口さんの作品をお読みになってどう感じますか。

清水:ワンシチュエーションの物語で、最後までいくのは凄いですよね。小説はどこまでも世界を広げられるのに、最初に制約を設けているわけじゃないですか。

川口:いや、僕はワンシチュエーションじゃなかったら書けなかったと思います。舞台でやっていたことをそのまま書いたからできたことで、いろいろな場面転換や状況の変化があったら、形にならなかったと思います。

清水:執筆中は役者さんの顔も想像しますか。

川口:僕は真っ先に顔が思い浮かびます。1作目なんて、舞台で役者がどこを見ていたのかまで覚えているくらいだから。最近の方がしんどいですよ。映像は浮かぶけれど、舞台になっているわけではありませんから。

清水:僕も登場人物に好きな役者さんを当てはめるので、映像がベースにあり、それを文字に起こしていきます。『天国映画館』も映画館が舞台ですが、シチュエーションは映画館、丘の上、喫茶店くらい。ある方から「舞台化もいけるよね」と言われました。

川口:いけます! 舞台をやっていた僕が見ても、舞台化できます! 断言しますよ(笑)!

ハートフルな物語にしたい

川口:清水先生が小説を書くときの最初のとっかかりはどこなんですか。映画館を舞台にしたいと考えるのか、それともこういう人物を出したいと考えるのでしょうか。

清水:僕はちょっとファンタジー要素というか、何か引っ掛かりがある設定を入れたいなと考えます。今回はそれが天国の映画館という設定です。映画館があって、走馬灯のように過去の出来事を「みんなで見る」というアイディアで進めました。

――『天国映画館』の物語の軸はそうして生まれたのですね。

清水:それでいて、天国にいる人の日常を描きたいなと思い、思い浮かんだシーンを重ねていったのです。あと、川口先生の作品にあった「幸せになることを選択する」という言葉から感銘を受け、僕の小説もハッピーエンド、ハートフルにしたいと思いました。

川口:物語の着地点が似ていると感じます。

――ちなみに、天国の映画館という設定を思いついたきっかけは。昭和レトロな雰囲気の映画館のようですが、モデルにした映画館などはありますか。

清水:僕は一昔前のレトロなものに懐かしさを感じるタイプで、これまでの作品でも平成初期のことなどを書いていたりするんです。僕が子どもの頃の映画館は、お客さんが階段に座っていたり、自由にスクリーンを移動できたと聞きます。そうした懐かしさを描写したいと思いました。モデルは特にありませんが、書き終わってから調べてみたら、千葉にも「千葉劇場」という100席くらいの映画館が残っているようで、行ってみたいなと思っています。

――清水さんは、小説を書くときにこだわっている部分はありますか。

清水:これまでの作品もそうだし、今回は特に亡くなったあとの物語なので、ハッピーエンドにすると決めてから書きました。また、“救い”を作品の根底に入れたいと思っています。

川口:いいですね。今回の対談の依頼が来て『天国映画館』の1話目を読んだとき、『コーヒーが冷めないうちに』と同じで時間制限がある中で展開する物語だったから、清水先生とお酒を飲んだら楽しいだろうな、盛り上がるだろうな……と思いました(笑)。苦労した人や、後悔したり困難だった人が一歩前に進む物語は魅力的でしたし、楽しい対談になると思いました。少なくとも、喧嘩にはならないだろうと(笑)。

清水:僕自身、川口先生の作品が大好きです。僕の『さよならの向う側』を読み終えた方は、『コーヒーが冷めないうちに』を思い出す人が多いと聞きます。『コーヒーが冷めないうちに』は感動的でハートフルな小説のベンチマーク的な作品ですよね。

――お話を聞いていると、お二人に共通点が本当に多いなと感じます。

川口:そうですね。僕が『コーヒーが冷めないうちに』を書いたきっかけは、友達が癌で亡くなったことでした。清水先生はご自身が白血病になったことでしたね。僕は演劇って現場で見るものであって、形として何かを残せるとは思っていなかった。でも、小説なら100~200年後にも残り、その時代の人が感銘を受けることもあり得る。そして前を向くきっかけになれば、書いた意味があったなと思います。清水先生の本も、どこかの時代で、大切な人と死別して天国でどうなっているのか不安になった人が読んだら、幸せや救いが得られるでしょうね。

清水:僕がこの作品を通して伝えたいテーマをおっしゃっていただいたので、泣きそうなくらい嬉しいです。僕は作品の中に現代的な要素や流行を入れるのですが、何十年後に読んだ方にこの時代の空気感を感じて欲しいと思い、時代を象徴する固有名詞などを入れたりしています。

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